~~お姫様と王子様と騎手と黒猫とたくさんのゼロ~~
戻ってきたユーシス君はしかし、そんなことを感じさせないくらい元通りだった。
『お待たせ~! どう、おねえちゃん?』
「お待たせしましたわ」
そのときちょうど、試着室のカーテンが開いた。
――そこにはお姫様がいた。
袖もスカートもふんわりとした、白とピンクの砂糖菓子みたいなワンピースの。
「かわいい~!!!!」
瞬間、ユーシス君は目を輝かせて拍手した。
『かわいい!! すごく似合ってるわよリアナ!!』
アリスもにっこり笑って両手をぱちんと打ち合わせる。
「ありがとうユーシス君、アリス」
『我輩も同意見だニャ。
このスカートのフリルのしろくてふあふあとしたカンジ、故郷で我輩の帰りを待っている可愛い可愛いしーたちゃんをほうふつとさせるものがあるにゃん。たまんないにゃん……v』
「ミューったら♪」
ミューは弟の白猫しーたちゃんを思い出してうっとりしている。
ぼくもすっかり夢心地になってしまった――
前世着ていた婚礼衣装や、お祭りのときの晴れ着姿もきれいだったけれど、こういうのも可愛らしい。
リアナの可憐な顔立ちと、ふわふわの金髪にもよく似合って、ショーウィンドウに飾ってあったお人形さんなどまるっきり顔負けだ。
それがちょっと頬を染めて、うれしそうに照れているなんて………
ぼうっとしているとアリスがぼく(の魂)とロビンを小突いた。
『ほらクレフ、ロビン、大人ならちゃんと言葉にして誉めてあげなさいよ』
「えっ。あの、………」
どうしよう。
こういうときって“きれい”と“かわいい”とどっちを先に言ったらいいんだろう??
詰まっているとロビンの声がした。
「?! あ、あれっ?! ここ、どこ? なんでリアナがお姫様になってるんだ??」
『おまえたちというやつは………。』
『あんたたちってひとは………。』
アリスとミューが同時に額を押さえ、ふかぶかとため息をついた。
店員さんのおすすめで、リアナはこれまたお菓子のような、白とピンクが可愛い靴も買った。
ユーシス君は迷っていたけど、これまた店員さんの見立てで結局、それに合うような一式を買った――
すなわち、大きなボウタイ型の襟が豪華な白のドレスシャツ、シンプルなグレーのジャケットとズボン、ちょっとまるっこい感じのコーヒー色の靴、そして胸ポケットにいれるハンカチはピンク色(ポケットチーフというそうだ。一列だけはいった◆模様がアクセントになりかわいい)。
もちろん、それらは全部春の花のようにきれい。
リアナがお姫様なら、こちらは王子様だ。
『ユーシス君てホント、可愛いの好きなのね。
ロビンはこういうの目もくれないから新境地だわ!』
『でしょ?
よし、次はクレフお兄ちゃんとアリスお姉ちゃんね!』
『え? あたしも??』
アリスが虚をつかれた様子で声を上げる。
『もっちろんっ。任せてよ、お兄ちゃんかわいいから、きっとお姉ちゃんも納得いく仕上がりになるって!! そうだね、これなんか』「ちょっと待て。」
しかしユーシス君がうきうき手に取った服は、なぜかかわいいワンピースだった。
アリスが着たいなら、そして見た目がおかしくないなら、ワンピースでもまあいいかな(ぼくは寝てればいいし)……とも考えたのだが、ロビンがものすごく反対して結局、ぼくもふつうに男物の服を買うことになった。
それは、領主館にお世話になった頃に見た、乗馬服に似ていた。
ダブルのジャケットと膝丈のズボンはチョコレート色が基調、シャツと膝丈の靴下は白、ブーツは黒。アクセントはオレンジと緑で全体的に、ロビンとリアナの服に合うかんじだ。
『かわいいかわいい! うんいいよこれ!!』
ユーシス君はご満悦のようす。
『あとは軽くお化粧すればお姉ちゃんていっても違和感ないよ!』
「まあ!」
『ほ、ほんとだわ……』
『ニャ。』
「待てって。」
きれいな洋服というものは高価なものである。
ぼくももと雑貨屋だから、そのことは知っていた。
でも請求書に書き込まれたゼロの数にぼくは一瞬めまいがした。
リアナは驚きを顔に出すことなく領主様の書状見せて領主様のお名前書いてるけど、ぼくは内心領主様に謝らずにはいられなかった。
後ろではロビンとユーシス君がこっそりこんなやりとりしているし。
「おいユーシス。おまえ値段わかって買ったのか?!」
『んー、なんとなくー。でもここのお店はそんな無法に高くないよ?』
『それはいえてるニャ。しかもこんなリボンまでオマケしてくれるとはかなり良心的な店だにゃん』
そういうミューの首には、かわいらしいピンクと紫のリボンが結ばれている。
一見ただのリボンだが、どうも名のある作家さんのつくった猫用アクセサリーらしく、ちらっと見えた値札にも驚くほどのゼロがついていた。
「俺、おまえたちと金銭感覚共有できそうにないよ……」
『我輩は猫だしおまえと結婚しないからいいにゃん。』
『ボクもロビンはちょっと~♪』
「うるさいよおまえらっ。ていうかそもそも無理だからユーシスお前ともっ。」
ロビンは半泣きでそんなことを言っていた。