~~ユーシス君のおうちに来た~~
『あーあ♪ ロビンおちちゃった。
でもこれで今日は腹筋されずにすむや。
ねえみんな、もう一件ケーキ屋さんいったら宿に戻ろ。
ボクきょうだいとかいなかったし、パジャマパーティーっていっぺんしてみたかったんだよね!
あ、でもそうか、パジャマないんだよねかわいいの』
「そうね……わたしのじゃふたりには大きいわよね」
そういえばリアナのパジャマ姿って、見たことないかも知れない。
(いや、もちろんぼくはパーティーのときには寝ているけれど……)
『そうだ~! いっそのこと宿移ろうよ。
あのね、あすこに見えるクラシエルホテルってナイトウェアいいかんじなんだよ。
男女兼用なんだけど、上質のシルクでたっぷりしてて、すごい優雅なカンジなんだっ。
スイートならベッドもおっきいし、ウェルカムドリンクとかもらえるし、ジャグジーとかもついてるしゆったりできるよ!
窓からの景色もステキだしね。窓際のテーブルセットの椅子に登ると海がみえてね、水平線がこうキラキラしてるんだ!』
『す、スイートルーム?!
ちょ、さすがにそれは……』
アリスが絶句する。ぼくも絶句した。
スイートルームって、ものすごく、宿泊料金高いのだ。
へたするとふつうの部屋の十倍とかする。
しかしリアナはきっぱりと言った。
「いいえ、いきましょう」
「『リアナ?!』」
「どうせなら思いっきり満足できるようにしましょう。
服屋さんのお会計はさすがに領主様にお願いしたけれど、スイート宿泊料金くらいならまだわたしたちでも出せるわ」
『お金のことだったら心配しないで。
オーナーよんでもらって、入院したときできた、ボクの友達ですって言えば大丈夫だよ。
だってあそこ、ボクのパパがやってるホテルだもん!』
二軒目(だと思う)のケーキ屋さんを出たぼくたちは、もとの宿をチェックアウトすると、荷物を持ってクラシエルホテルに向かった。
だいたい、歩いて10分くらい。
白い石造りの、立派な入り口が見えてきた。
そこには、いましも馬車が乗り付けられるところ。
待ち受けていた従業員のひとたちに迎えられ、ひとりの恰幅のいい男性が降りてきた。
『あ、いたいた。パパー!!』
その声が耳に届いたのだろう、男性が振り向く。
口元にグレーのひげを蓄えたその顔は優しそうで、どことなくユーシス君に似ていた。
『じゃなかった、オーナーさんでいらっしゃいますか?!』
「確かに私は、当ホテルのオーナーでございますが……」
ぼくたちはそのまま応接に通された。
事情の説明(といってもうそなんだけど……)はユーシス君がしてくれた。
「おおそうですか。ユーシスの……。」
『はい。
たまたま仕事でこの街にやってくる機会に恵まれましたので、せっかくだからユーシス君にお会いしたいと思いまして、お邪魔させていただいたんです』
「ああ、そうですか……
ロビンさん、みなさん。
せっかく訪ねていただいたのに、大変申し訳ない。
実はユーシスは先日、病で神のみもとに召されてしまったのです…………」
お父さんは失礼、とことわって真っ白なハンカチーフをとりだし、目元に当てた。
「本来は私も喪に服している時分なのですが、どうしても引き継がねばならないことがございまして、外出していたのです。
しかし、丁度そのときにあなた方がいらっしゃるとは。
きっと息子が引き合わせてくれたのでしょう。
これも何かの縁です。この街にいらしたらいつでもお立ち寄りになってください。もちろんお金なんて要りません。あなた方は息子の大事なお友達なのですから、遠慮なさらず遊びに来てください。
そうだ、せっかくですから息子が大好きだった部屋にご案内しましょう。丁度開いておりますので、お気に召しましたらお泊りになってみて下さい」
ユーシス君とご家族は、このホテルと同じ敷地内にある館に住んでいるらしい。
というか、土地の一角にうちを建てて、ホテルとかを建てたという。
つまり、ここはお店であると同時に、家の客間のようなものでもあるのだそうだ。
ぼくとロビンも昔、うち兼店で暮らしていたので、その感覚はわかる。
「ユーシスはよく、ここの窓から外を見ていたのです。
窓際のテーブルセットの……この椅子にのぼって。
海がきらきらしてるよ、といって………。」
『ごっ、ごめん、ボクちょっと顔洗ってくる!』
ユーシス君は目元を覆い、洗面所へと走り出す。
お父さんはその姿をじっと見ていたけれど、やがて元通りの笑顔になって、もしよろしければ、お夕飯はうちでご一緒にいかがですかと言ってくれた。
そして直通の内線番号を教えてくれて、部屋を出て行った。