Neetel Inside ニートノベル
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~~作戦、一日目~~

 リアナのとなりの席で丸まっているミューは微動だにしなかった。
「ごめんなさい、仕事で人を待っておりますの」
 リアナはにっこり笑って、本日15人目の誘いをお断りした。

 ミューは本当に凄腕の情報屋で、昨日のうちに張り込み場所を提案してくれた。
『ここは近くにあるでかい会社に出入りする連中の通り道だにゃん。
 C&Nコンチネンタル。金融業を母体に持つ、流通系の商社だニャ。
 そこに出入りする連中は金回りもいいしイケメンも多く、必然的にモテるのだニャ。
 それなりのシゴト人であるからそうそうアホガキなのもいないし、ミミの眼鏡にかなう“オトナの”男を見つけるにはいい場所だにゃん。
 社会的ステータスや評判など、条件を満たした男がやってきたら我輩はごろりと一回転するから、そいつの誘いは受けてもいいニャ。ほかは断るニャ』
『うわ~、ミューちゃんが探してくれたひとって“しょうしゃマン”さんなの?
 どうしよう、ミミ今からドキドキしてきちゃった☆』
 なんでも、ミミちゃんのお父さんも商社マンだったそうだ。
 ミミちゃんはだから、いつかお母さんのように、商社につとめる男性と……と夢見ていたらしい。
『おかあさんはいきつけのカフェでランチしてるときにおとうさんと出会ったんだって。
 ひょっとしたらミミも……うわあどうしよう~!』

 昨日は大はしゃぎだったミミちゃんは、しかし今ぷっとほっぺたを膨らませていた。
『なんで~? いまのひとかっこよかったのに。
“しゃいんバッチ”だってつけてたよ?』
『残念だがあいつも妻子もちだにゃん。
 指輪は普段していないが、すでに二人の子供がいるのだニャ』
『う~……それならしかたないわ……
 でも、どうして恋しちゃいけないひとがおさそいしてくるのかなあ……ミミわかんないよぉ……』
 隣の席からだったけど、ミミちゃんの目に小さく涙がたまってるのはここからでもわかった。
 ミミちゃんは、身体はリアナなのだ。だから見た目には、リアナが涙ぐんでるように見える。
 もちろんミミちゃんもとてもかわいそうだ。でも、妻である女性の泣き顔を目にしてしまうのは本当に切なくて、ぼくは思わず立ち上がった。
『待ってクレフ。気持ちはわかるけど、今はミューに任せましょう。ほらロビンも座って』
 ぼくの中からアリスがぼくらを引き止める。
 果たしてミューは席を立つと、ミミちゃんのひざにとびのった。
 そして、まっすぐ目を見てこう言った。
『オトナのセカイは、そういう理不尽もちょっとあるものなのだニャ。
 もちろんそうでないやつもいっぱいいるニャ。
 そうでないやつはミミに声をかけてきてないから目立たないが、そうでないやつの方が、世の中にはいっぱいいるのだにゃん。
 わかるニャ?』
『……うん。わかる。わかった。』
『よーし、これでミミもちょびっとオトナだニャ。
 おまえは素質があるニャ。死んでからでナンだが、きっといいオンナになれるにゃん』
 ミューは前足を伸ばし、ミミちゃんの頭をなでなでした。
『ありがと~ミューちゃん! わーふかふか~v』
 その瞬間ミミちゃんはぎゅ、とミューを抱きしめた。
 さくさくすべすべとやわらかい毛が気持ちいいらしく、そのままほおずりする。
『むぎゅ、おま、なにするにゃん、こ、公衆の面前で昼間からそんなっ』
『ミューちゃんだいすきv んーv』
『ニャー! いかん、それはいかんニャ!
 おまえらみてないで助けろニャ!!
 我輩のクチビルはしーたちゃんだけのものなのだニャ――!!』


『どうやらこの方法では効率が悪いようだにゃん』
 ――あまり目立ちすぎてもまずいし、ミミちゃんの気力も持たない。
 というわけで一旦休憩。ぼくたちは宿の部屋へ引きあげた。
『思ったよりマナーがいいやつが多いのは幸いだが、それにしたって既婚者率が予想より高いのには呆れたにゃん!』
『まあ、リアナ可愛いからね……(リアナは「まあ☆」と頬を染めた)
 そろそろ場所を変えたほうがいいかしらね、いい加減変なのが寄ってくるかもしれないし』
 すると、ロビンが言い出した。
「あのさ、こういうのどうだろう。
 張り込み場所の喫茶店で、アルバイト募集してたらアルバイトするんだ。
 店の中にいて店員さんなら、変なやつがいきなりよってくることも少ないと思うし、食事の仕方とかで性格とかもわかるしいいんじゃないかな。
 まあ、半分あの本のうけうりだけどさ」
 するとアリスとミューがびっくりした顔でロビンを見た。
「え、なに? 俺なんか変なこといった??」
『あ、ううん、いいアイデアだと思うわ。
 でもちょっと意外で……』
『おまえからレンアイ系のアイデアが出る日がくるとはニャ……』
 そう言われてみれば、ロビンはぼく同様、恋愛とかにはうとかったし(ぼくと違ってもてるのに、不思議だけれど)、ちょっとびっくりかも知れない。
『いや失敬失敬。
 まさかの大金星にさすがの我輩も少々びっくりしてしまったのだニャ。
 しかしすばらしい進歩だと思うにゃん。
 第二候補の店でちょうどウェイターとウェイトレスを募集しているニャ、ミミさえよければあしたでも応募してみるニャ』
『あ、うん! ミミやってみたい!
 みんなさえよければいってみたいです!』

       

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