~~作戦、三日め~~

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、わたしったら……
 眼鏡外すとほんとに世界がボヤボヤなんですっ。
 でも、ちょっとでも美人にみてもらいたくって……うう……ごめんなさい……」
 まだ若い店主の女性、フェルミーナさんは平謝りだった。
 半泣きのその顔を見てしまうと、女性に間違われたことなんかはもうどうでもよくなった。
「い、いいですよ、あの、えっとこないだも間違われましたから……
 こ、このジャケット着てるとそうなんですよっ。
 もう、妹にあげることにしますっ。ほしがってましたからっ」
 ぼくは一生懸命言葉を捜した。
「……あの、眼鏡ってすごくすてきですよ、だから大丈夫です!
 それで、その……」
「もちろん採用ですっ、というか採用させてください!!
 あなたが優しい暖かいお人柄のひとであるということはよーくわかりました!!
 お仕事はお教えします、ぜひここで働いていただけませんかっ?」
「あっ、はい、ありがとうございます、がんばります!」
 ぼくたちは握手を交わした(というか、どっちかというとフェルミーナさんにがっしり握られたのだけれど)。
 こうしてぼくのアルバイトは決まったのだった。


『あやしいと思ったらやっぱりそういうことだったのね……ミューのやつ!
 クレフをなんだと思ってるのよ、まったく!
 たしかにクレフは結構可愛い顔してるわよ、だからってねえ……』
 しかしその日の帰り道。アリスはぷんぷんと怒っていた。

 ぼくに女の人と間違われかねない服を着させる。
 そのうえでロビンと、ぼくのなかのアリスとを話させる――
 その狙いは(おくればせながらだが)ぼくにもわかった。
 それは、ロビンが恋人もちであり、リアナはロビンの恋人や、恋人になる可能性が現在ない、とまわりのひとに思わせること。
 そのほうが、お客や店員の男性も、リアナに声をかけやすくなる、というわけだ。

 けれどぼくは、別に怒る気にはならなかった。
 この服はもうすでに一度着てるし、話をしたのはアリスだ。
 そしてそれを勝手に、といってはなんだけど、まわりのひとたちが誤解しただけ(それも、ちゃんと“誤解”したかどうかもわからない)。
 だから、ぼくが怒らなくちゃいけないことはない、と思う。

「まあまあ、しかたないよ。
 うちにはほかに、そういうことできる人いないし……」
 でもそれを言うとアリスはさらに怒ってしまった。
『もうっ! 納得しないの!!
 こんなの、ある意味ただの女装よりタチがわるいわよ!
 はあ、ロビンがあんたを絶対に女装させなかったわけがよーくわかったわっ。
 あんたについてだけ導火線が短い理由もね!』
 アリスはそのままずんずんと喫茶店を通り過ぎて宿に向かおうとする。
 ぼくは慌てて引き止めた。
「あ、待って、ハナシしていかなくちゃ」
 するとアリスはこぶしを固めて深呼吸した。
 そしてなんともいえない笑顔で一言。
『………げんこつしていい?』

 宿に着くと、アリスとミューはやっぱり口げんかになった。
『恋人がいるなんて、ロビンの口から言わせればいいじゃないのよ!
 なんだってクレフを使ったりしたのよ!』
『聞かれもしなかったらいえないだろうニャ。
 口で言ったことより見たことの方が印象にのこるのだニャ。
 それに一度に多くのやつらに知らせることができるのだニャ。
 それに我輩は、クレフをつかったわけじゃないにゃん。ハナシをしたのはおまえだし、あくまでおまえがロビンの恋人役だにゃん』
『あたしの身体はクレフでしょうが!!』
『だからクレフのみてくれなら大丈夫だニャ。
 どうせバレることもないニャ、やじうまどもにはすきに誤解させときゃいーんだニャ』
『っ………
 あたしあんたと倫理観共有出来そうにないわ……
 とにかくっ! あしたからは行かないからね!
 どうしてもっていうなら………
 なんでもないわ』
 そのとき、ロビンとリアナが帰ってきて、けんかはそのままお開きとなった。


『せんぱいにおこられちゃった』
 ミミちゃんはそういいながら、なぜかうれしそうだった。
『えっ、なにかあったの?』
「うん、ミミね…じゃなかったわたしね、おさらをおっことしちゃったの。
 でね、割れたおさらをひろおうとしたら、おこられたの。
 あぶない、直接さわっちゃだめだろって。
 でもね、すぐにおこっちゃってごめんね、ケガしてない? ってすごくしんぱいしてくれたの。
 しんぱいしておこってくれたんだもん、わたしはだいじょぶですって言ったらそう、ありがとうっていって、ほうきとちりとりもってきて、いっしょにお片づけしてくれたの!
 ミミね、せんぱいのこと、ちょっとすきになってきちゃったみたい……』