Neetel Inside ニートノベル
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~~そして初デート~~

 それはぼくが、遅い昼食をとるべく薬局をでたときのことだった。
 向こうから歩いてくるのは、大きな袋をかかえた二人――
 リアナと、どこかで見たような男の人。
 男の人は、さらさらとした茶色い短髪がさわやかな感じの、優しいお兄さんといった感じの人(たぶん先輩さんだ)だった。
 リアナの身体を動かしているのは、どうもミミちゃんのようだった。
 ふたりは楽しそうに話をしていたのでぼくは、そのまま見送ることにした。


 その晩、ミミちゃんはほっぺたを赤くして報告してきた。
 なんと、先輩さんにデートに誘われたというのだ。
 今度の定休日に、この町の遊園地で。
 もちろんいきなり一対一じゃない。
 つまり、形式としてはミニ懇親会、というわけだ。

 招かれたメンバーはほかに二人。
 まずは仲間にして同期のロビン。
 そして――
『ロビンさんの恋人さんもぜひ、だって。
 ロビンさん、恋人さんなんていたっけ……?』
「俺も心当たりないんだけど……
 それじゃ、お友達でもってカトルさん(先輩さんの名前だ)言ってくれたんだけどさ、なんなんだろうな??」
『…………………………………………………』
 ミミちゃんとロビンは首をかしげ、アリスがミューをじろっと見る。
 当のミューはというと涼しい顔でひとこと。
『ああ、それは誤解だろうニャ。
 何度かアリスが話しに行ってたのを誤解したんだにゃん。
 いやはや、人間は男と女が話しているとそれだけでデキていると思いたがるので困ったものだにゃん』
『……………………………………………………………』
 アリスは無言でミューをにらんだ。
 しかしミューは構う様子もなく
『とりあえず、誤解を解くためにクレフ、お前がいってやれにゃん。
 劇団員をやっていて、女の役をやる練習をしていたのだということにすればいいのだにゃん。そうすればたいていの奴はなっとくするニャ。』
『……………………………あんたって猫は………。』


 しかし結局、ぼく(たち)はその設定で行くことになった。
 先輩さん、改めカトルさんは、ロビンの口からその設定を聞かされると大いに驚き、しかし、にこにこと笑って「頑張ってくださいね!」と言ってくれた。

 カトルさんが連れて行ってくれたのは、この町にある遊園地だった。
 なんでも、ミューが調べてくれた……C&N、という会社が経営しているという。
 ぼくたちは四人一緒に、ざっくりと園内をまわり、メリーゴーランドやジェットコースターに乗ったり、青空レストランで食事を取った。

 カトルさんはとてもきさくで面倒見がいいひとだった。
 ミミちゃんがチョコアイスで口のまわりをべたべたにしちゃったときなんかも、にこにこしながらぬれティッシュを取り出してふいてくれたりもして、ほんとうにやさしいお兄さんのようなひとなんだなとぼくたちはみんな思った。


 だから午後は、二人二人に分かれて遊ぶことにした。
(正確には三人三人なんだけど)
 夕方の鐘がなったら、観覧車の前で待ち合わせ。
 その約束でぼくらは解散した。
 カトルさんと一緒に、ミミちゃん(とリアナ)が歩いていく。
 ぼくとアリスとロビンは、ちょっとはなれてその後を追いかけた。

 ふたりはゴーカートに乗ったり、びっくりハウスに入ったり、コーヒーカップに乗ったりしたあと、オレンジジュースとキャラメルポップコーンを買ってベンチに腰掛けた。
 あんまりいいことではないけれど、場合が場合だ(リアナがついているとはいえ、ミミちゃんはまだ5歳の女の子なのだ)。ぼくたちは後ろからそっと様子をうかがった。
『でねっ、でね……』
 ミミちゃんはものすごく楽しそうにカトルさんにいろいろなことをしゃべっている。
 カトルさんは笑いながら相槌を打ち、とても仲むつまじい様子だ。
 と、ふいにミミちゃんが手を滑らせ、ポップコーンをぶちまけてしまった。
『あ! あ、あ~!! そんなあ!!
 ごめんね、カトルせんぱい!!』
 ミミちゃんは泣きそうな声で叫び立ち上がる。
「ミミちゃん、大丈夫だよ!
 ポップコーンなら僕のをあげるから。それに」
 カトルさんが立ち上がってミミちゃんの肩を抱いた、そのとき。
 近くにいた鳩たちが、いっせいにふたりをとりまいた。
 そして、我先にとポップコーンをつつき始める。
「ほら、鳩たちは喜んでくれてる」
『……ほんとだぁ!』
 ミミちゃんは目に涙を残しながら、いっぱいの笑顔になった。
「よし、僕の分もあげちゃおうか!」
『うん! ほーら!!』
 ミミちゃんが両手にポップコーンをつかみとり、手のひらを開いてかかげると、そこにも鳩たちは飛び乗ってくる。
『きゃはは、くすぐったいよー!
 はいおかわり! そんなにいそがなくってもだいじょうぶだよー』
 ミミちゃんは鳩だらけになって笑い声を上げた。
 もちろん隣に立つカトルさんも鳩だらけだ。
「はははっ、ミミちゃんて可愛いね。
 無邪気できれいで、まるで子供みたいだ」
『……………え』
 そのとき、ミミちゃんの笑い声がやんだ。
 鳩たちがぱっと飛び立った。

 それからミミちゃんの口数は、ぐっと少なくなってしまった。
 そろそろ限界だろう。そう判断したぼくたちは、さりげなく合流し、結局その日のデートは予定より少し早くおしまいになっしまった。

       

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