~その気持ちの正体は~
その翌日、ぼくたちはカトルさんに呼び出された。
いつかのカフェの隅っこの席で、悲しい話し合いは始まった。
「……これを見てください」
カトルさんが取り出したのは、見覚えのあるふたりが笑う写真。
7、8歳くらいの少年と、彼の腕に抱かれている幼い女の子。
少年はカトルさんと同じ茶色の髪、少女はふわふわの金髪もリアナに似ている。
「これは、むかしの僕と、妹の写真です。
妹は、4歳の春に亡くなりました。
妹を大好きだった僕は、あまりのかなしみに泣いて泣いて泣いて……
ついには妹の存在を忘れていたんです」
いつもにこにこしているカトルさんの意外な過去にぼくたちは、ただだまって聞き入るしかできなかった。
「あのあとうちで、偶然この写真を見つけて、気づいたんです……
ぼくは彼女に、妹を重ねていた……
この想いは、ひとりの異性としての彼女へのものじゃなかった、と……」
ぼくはがくぜんとした。
みんなも驚いた様子だ――意識を眠らせているミミちゃんと、ミュー以外は。
ミューはしっぽをぱたぱたとしながら言った。
『ふむ。やっと気づいたかにゃん。
おまえがミミにむける目は、あくまで兄貴のそれであって自分のオンナへのそれじゃなかったにゃん。
最初から最後までニャ』
「!」
カトルさんは目を見開いた。
「そんな、……
それならそうとどうして言ってくれなかったんですか?!
そのせいで僕は……僕はミミちゃんを傷つけてしまった……」
そうしてがっくりとティーテーブルに両手をついた。
『お前はそれを自覚していなかった。
その時点でそれを言っても、お前はムキになって否定しただろうからニャ。
そしてそのまま、暴走してしまうことも考えられた。
……それに、勘違いをしていたのはお前だけではなかったのだにゃん』
「……… え」
そのとき、かすれた声が響いた。
『………ごめんなさい、せんぱい。
わたしも、せんぱいにお兄ちゃんを重ねてました』
ミミちゃんは、目にいっぱいの涙を浮かべてこう言った。
『わたし、お兄ちゃんがいたんです。
せんぱい位の年頃の。
そのお兄ちゃんは、わたしが3歳のころに亡くなったんです』
「ミミちゃん……!」
カトルさんは絶句した。
『わたし、……わたし、せんぱいに失礼なこと、してました。
おとなの恋がしたい、なんていってそばに行って、……
なのに、ただのお兄ちゃん代わりとしか、見ていなかった………』
カフェの片隅の席からは、一切の言葉が消えた。
そしてぼくたちの耳には、店内に流れる音楽が、やけに空々しく響いた……
そのたまらない沈黙を破ったのは、こんな言葉だった。
『それでも、わたし、せんぱいといてすっごくすごくしあわせでした。
だからわたし、そろそろ天国に行きます。
……明日の夜、流星群が見られるんですよね?
それ、見ながら、天国に行こうと思います』
「ミミちゃん……!」
『わたし、これ以上カトルせんぱいやみんなに、こんなふうに甘えられません……
ううん、わたしはもう、じゅうぶんしあわせです。
このからだはリアナさんにおかえしします。
そしてせんぱいの時間も、せんぱいにおかえしします。
どうか、ほんとうにすてきなオトナのおんなのひとと、しあわせになってください』
カトルさんは黙ってミミちゃんを抱きしめた。
ミミちゃんは、黙ってカトルさんに身を預けた。