~~星に願いを~~
流星群がふる、その夜。
ぼくたちはふたグループにわかれ、別々に運河のほとりの河原へいった。
一方は、ロビンとミューとカトルさん。
もう一方は、残りのぼくたち――ぼくとリアナ、ぼくたちのなかにいるアリスとミミちゃん。
ミミちゃんとカトルさんは、決めたのだ。
お互いの想いは恋愛感情じゃなかった。
だから、あれですっぱり、お別れしよう、と。
そしてそうなった以上、互いに変に未練が残るような真似はやめよう。
流星群は、一緒の河原でだけど別々に見て、互いをきれいな思い出にかえよう、と。
――だからぼくたちはいま、ここにいる。
いつになくにぎわいを見せる河原に、夕闇に紛れて、互いを心でだけ思いあいながら。
「……ミミちゃん、本当にいいの?」
リアナがミミちゃんに尋ねた。
「カトルさんには、確かに失礼な事をしてしまったかも知れない。
けれど今回のことは、こういってはなんだけどお互い様じゃないかしら?
まだ、ほかのひとを探して恋をしたっていいんだし……」
『………』
ミミちゃんはさびしげに微笑んだ。
『ありがと、リアナさん。
でも、もういいの。
せんぱいと一緒にいて、すごくしあわせだったし……
それに。
わかっちゃったの。
あたしは、どんなにがんばっても、ただの5さいの女の子なの。
……だから、オトナの恋なんて、したくても、できないの』
「そんな………。」
そういわれるとぼくには、もう何もいえなかった。
『あたし、天国にいく。
そうして、もういちど生まれかわって、ちゃんとオトナになって、それからオトナの恋をするの。
そうしてしあわせになるわ。せんぱいや、クレフさんや、ロビンさんみたいな人と。
……リアナさんみたく』
「ミミちゃん………」
するとぼくの中からアリスが口を開いた。
『ねえ、ミミちゃん。恋人としてじゃなくても、そばにいる方法ならまだ……』
「あ、来たっ!」
突然、誰かが声を上げた。
地に落ちる影が、ほんの少し濃くなったような気がした。
見上げると、ひとつ、またひとつ。
西の空から尾を引いて、銀色の星たちが流れてくる。
「うわあ!!」
「流星群だ!!」
河原は一気に沸きかえった。
星明りのなか、天を指差し流れ星を数えるひと、カメラを向けるひと、友達と手を取り合ってはしゃぐひと、なぜかひとり泣いているひと………
そして、願い事を唱えるひとたちがいた。
何人も、何人も。
『そっか、いちおう流れ星だから……』アリスがぽんと手を打つ。
「まあ、素敵ね! わたしたちもやってみましょう!」リアナがぱん、と手を打つ。
「そ、そうだね」ぼくは相槌を打ち、
ミミちゃんはぽつり、つぶやいた。
『……いたい』
「?」
『せんぱいに会いたい。
カトルせんぱいにあいたいよー!!』
『まったく。そういうことはもっと早く言うのだニャ!』
すると、後ろの方から声が聞こえてきた。
ふりかえるとそこにいたのは、首にリボンを結んだミュー、ミューを抱えて軽く息を切らしたロビン、そして、息を弾ませ涙を浮かべたカトル先輩。
『せんぱい……ロビンさん、ミューちゃん……!』
ミミちゃんは大きく目を見開き、しかし涙を浮かべて目をそらした。
『ご、ごめんなさい、いまのは、……
あたしには、せんぱいにあう資格なんかないんです。
だってもうあたしは、せんぱいをふっちゃいました、から……』
「きょうだいでもいいじゃないか!」
とそこへ、ロビンの声が響いた。
「ミミちゃんは“お兄さん”としてカトルさんがすき。
カトルさんは“妹”としてミミちゃんがすき。
それは、ぜんぜん、いいと思う。
恋人どうし、という関係と比べて、劣ってなんかいない。
だから、それでいいと思う!
最後なら、……呼んであげればいいじゃないか。
『お兄ちゃん』て!」
『あ、………… ああ…………』
ミミちゃんは言葉を失った。
そしてその目から、涙があふれた。
カトルさんも言葉を失った。
その目からも涙があふれた。
ミミちゃんが歩み寄る。
『……ん……』
カトルさんも歩み寄る。
『……ちゃ、ん……』
ミミちゃんが駆け出した。
『カトルおにいちゃ――ん!
……だいすきだよ。これからもずっとずっとずっと!!』
カトルさんが、ミミちゃんを受け止める。
そして、涙で告げる。
「うん。僕も、ずっとミミちゃんが大好きだ。
妹になってくれて、ありがとう……」
『おにいちゃん………』
ふたりはそのまま、しっかりと抱き合っていた。
流星群の光が降り注ぐなかで、ただふたり、じっと。
やがて流星群は天のかなたに消えた。
するとその後を追いかけるように、ミミちゃんの魂はリアナの身体を抜け出した。
『みなさん、ほんとにありがとうございました。
おにいちゃん、あたし、もう一度ちゃんとおにいちゃんのところに生まれてくるね。
きっときっと、やくそくだよ』
星色に輝くミミちゃんは、ちょっとだけ大人っぽくなった言葉と微笑みをのこして、天の高みへ昇っていった。