~~ちょっと、立ち止まるとき~~
「あのさ、リアナ………」
そのあと。
カトルさんとは河原で別れ、ぼくたち一行は、宿の部屋にもどってきた。
魂をうけいれることは、結構疲れること、らしい。
考えてみればそうだ、ふたつの魂がひとつの身体を使うのだから、身体は二倍忙しいし、心もその分忙しくなる。
そんなわけで、いつもはリアナが入れるお茶を、アリスが入れてテーブルに置いた。
いつもにこにこしているリアナは、いつになく疲れた様子。
そのリアナを気遣うようにして、ミューがひざの上にのり、ロビンが声をかける。
「……どうしたの、ロビン?」
リアナはいつもより一拍遅れて、すこしゆっくり返事をする。
「疲れてるところをゴメン。
だけど、聞いて欲しいんだ。
――単刀直入に言うけど、一度かえらないか?
というか、少なくともリアナには帰ってほしいんだ」
「…… どういうこと?」
「ああ。
俺たち、ミューから聞いたんだ。
『覚悟を決めてる』って……
それがもし本当なら、俺はリアナに、もうこの仕事をさせたくない。
俺たちはソウルイーターだ。その使命の前にはちっぽけな、馬鹿なことかもしれないけど、リアナには他の男のものになんかなってほしくない。
いや、その、クレフは別だけど……
でも、他のやつなんかは絶対嫌だ。
たとえ、俺やクレフのカラダを使ったとしても、それでも絶対、いやなんだ」
「ロビン…………」
ロビンは思いつめた表情で、妻である女性に気持ちをぶつけた。
つづいてぼくにも問いかけてくる。
「なあクレフ、クレフはどう思う?
もしも覚悟のうえで使命でも。
リアナがほかの男のものになるなんて、お前には我慢できるか?」
そうきかれると、ぼくの答えなんてひとつしかない。
「……ううん。
ぼくも、それは、いやだ」
「……クレフ……」
リアナがぼくを見つめた。
ぼくも、リアナを見つめ返す。
このキモチが、視線になって心に響いて欲しい。そう思ってじっと。
そこへロビンの声が響いた。
「つまり、そういうことなんだ。
リアナ、一度禁足地に帰ろう。
そして………」
「家を守ってくれ、というの?
使命も投げ出し、あなたたちとも遠く離れて……?
嫌ですわ。
それはわたしが、嫌よ」
「リアナ!!」
「……でもね」
リアナは、ちょっとうつむいて笑った。
「わたしも、ほんとは迷ってたの。
というか……
結婚の話になったときはね、正直ちょっとこまった。
わたしもソウルイーターだわ。だから、受け入れた魂のためにはなんでもするつもりでいた。
けれど……。
それでも、ロビンやクレフ以外の人のためにウェディングドレスを着るのは、やっぱり、うん、嫌だった」
「リアナ………」
リアナは、顔を上げ、泣きそうな顔で笑った。
「わたし、覚悟が足りないのかしら。
わがままなのかしら?
そんなことを考えたら、とても疲れてしまったの。
――帰りましょう、一度。
わたしも少し休んで、ちゃんと気持ちを整理したいの」
そして、ぼくたちに手を差し出した。
「………ああ。
帰ろう、一緒に」
ロビンがその手をしっかり握る。
「よかった、リアナ」
もちろんぼくもしっかり握る。
『……あたしもそれがいいと思うわ』
『よし、ならキマリだにゃ。
アルバイトが終わったら、禁足地へかえるのだにゃ』
アリスがうなずき、ミューが伸びをする。
――その数日後、ぼくたちは北へ向かう馬車に乗った。
ぼくたちのふるさとに、帰るために。
そしてもう一度、気持ちを整理してやりなおす、ために。
~~END~~