Act1-2. 行き倒れさんと人探ししてお医者様の助手になって別の街の恋人さんに花を届けてしごとの引継ぎをして街を出るまで。


Act1-2. 行き倒れさんと人探ししてお医者様の助手になって別の街の恋人さんに花を届けてしごとの引継ぎをして街を出るまで。


~~ソウルイーターのこと~~

 そのとき、ノックの音とともに、お医者様が入ってきた。
「皆さん落ち着いてください。どうされたんですか、クレフさん?」
 するとギルダーさんは泣きながらお医者様のひざにすがった。
『おれが……おれが……死んでる………
 先生。俺、お化けになっちまったあ………!!』
「お、落ち着いてくださいクレフさん。あなたは生きてますよ」
『違う、俺……』
「まさか、……ギルダーさん……」
『そうだよ! ギルダーだよ!!
 お化けになってこいつに取り付いちゃったんだ!! 頼む、たすけてくれ!!!』
 信じがたい、といった様子で目をむく先生。
 リアナが安心させるように微笑む。
「大丈夫ですわ。
 心の落ち着くお茶を飲みながら、ひとつずつお話しましょう、先生、ギルダーさん」


 そしてリアナは、二人にソウルイーターのことを話した。


 ソウルイーター。むかし、この国のために戦った特殊な能力を持つ人々。
 自分か相手の生命に危険が迫ると、相手の生命と魂を、自分のなかに吸い取る。
 吸い取った生命のチカラはソウルイーターの肉体にチカラを与え、同時に魂の主が生前もっていた能力も使えるようになる。
 そんな、戦場においては無敵の能力を持った彼らは、逆にそれゆえ平時には、ときの権力者たちに疎まれた。
 そして命じられた――
『国を出て、“輝ける神”の棲む、禁足地へゆけ』と。

 禁足地を汚せば神に殺される。地上に住むだれも“輝ける神”にはかなわない。
 事実上の死刑宣告だ。
 しかし辿り着いたさきでソウルイーターたちは驚いた。
“輝ける神”は彼らを迎えて言ったのだ。
『おまえたちは我らが仲間、神族である。
 これからはこの地をふるさととするがいい。
 心身の傷がいえたら旅に出よ。
 そのチカラをもって、無念を残した死者の魂を、その身に受け入れ救ってやるために』
 それがお前たちに与えられた、真の使命、生きる意味だ――と。

 ぼくたちは彼らの末えいだ。
 それぞれいきさつは違うけれど、輝ける神の禁足地に集い、使命のために旅立ったことは同じだ。
 そしていま、ぼくたちはここにいる。


「つまり、ギルダーさんは、……
 クレフさんに助けていただいたんですね。心残りを果たすために」
「えっと……そういうことに…なるのかな……」
『冗談だろ? こいつと飲み比べなんかしなきゃ俺は』
「おい」
「ギルダーさん!」
 ロビンが口を開こうとした、そのときに滑り込んできたのは、お医者様の声だった。
「このままでは先が長くないといわれながら、それでもお酒をやめなかったのはどなたですか?
 昼間倒れたばかりだというのに、酒場で相手を挑発し、飲み比べの勝負を始めたのはどなたでしたか?
 あなたというひとは。本当に、後先も周りのことも考えないで。
 親兄弟じゃないかも知れませんが、心配している人間だってあなたには、……
 すみません、ちょっとだけ失礼します」
『……ゴメン、先生』
 お医者様は目元を片手で覆ってうつむき、席を立ってしまった。
 ギルダーさんは消え入りそうな声で、その背中に謝っていた。



~~新生活(まずは入院させられた)~~

「それで、皆さん。これからいかがなさいますか?」
 戻ってきたお医者様は、すっかり元通りの笑顔になっていた。
「ギルダーさんのお心残りは、あのロケットの女性を探すことですよね。
 もしよろしければ、うちを拠点になさいませんか?
 ギルダーさんはしょっちゅうここに運び込まれてましたし、二人と一匹増えましてもあんまり変わりませんから」
「えっ、いいんですか?」
 ぼくたちは顔を見合わせた。
 ギルダーさんだって、もうずいぶん探していたはずだ。それでも見つからないとなると、長期戦になるかもしれない。
 リアナが代表して言う。
「ですが……いつまでかかるかわからないのです、そこまで甘えさせていただくわけには……」
「でしたら、ここにいる間だけでも、うちを手伝ってはくださいませんか?
 こんな小さな医院ですが、意外とやることはたくさんあるんです。
 たとえば医術は身につけておいででなくとも、どなたか一人でもお力を貸していただければ、とてもありがたいんですよ。
 それにここには、毎日色々な方がおいでになります。情報を集めるにもいいでしょう?」
 するとリアナが言った。
「……そうね。
 みんなさえよければ、わたし、先生をお手伝いしてみたいわ。
 もっと医術を勉強するいいチャンスですもの。
 わたしたちはソウルイーターだけれど、何かあったときにやっぱり手当ては必要だし、これからの旅のためにも身につけておきたいの。どうかしら?」
『リアナの言うとおりね。あたしは賛成よ』
「そうだな。俺は力仕事とか得意ですし、クレフはちょっと教えれば会計もできると思います」
『仕方ないニャ。ならば我輩も、このあふれる気品を活かして看板ねこ様をやってやるにゃん。あいつは野郎だが悪いやつじゃなさそうだし、ちょっとぐらいならモフらせてやっても構わんニャ。ありがたく思うにゃん』
 ミューはそういいつつ、お医者様に向けてニャー、と鳴いた。
「あ、ミューも看板ねこをやってくれるそうです」
「よかった。それではしばらくの間、よろしくお願いします。
 あっ、申し遅れました。私はフェリペと申します」
「よろしくお願いします、フェリペ先生」
 ぼくたちは握手を交わし、ここに新生活が始まった。


 それからぼくたちが最初にしたことは、昨日の事後処理だった。
 ロビンは酒場でぐでんぐでんになったぼくを見た瞬間、頭に血が上ってしまったらしい。
 そして、ちょっと派手に暴れてしまったらしい。
 そのため(リアナに連れられて)そのことを酒場に謝りに行き、片付けを手伝ってくるという。

 一方元凶のぼくはというと、寝巻き姿で病院のなかにいた。
 どうやら、昨夜ぼくは急性アルコール中毒を起こしていたらしい。
 ソウルイーターでなかったら、ギルダーさんと一緒に天国に行っててもおかしくなかったということだ。
 そのダメージは、ギルダーさんを“食った”ことで飛んでいるはずだが、大事をとって入院することになったのだ。
 ミューによれば『飲み比べをした相手が死んでいて、ぼくだけ無事にすぐ出てきたらそれこそ、人殺し扱いされかねない。ロビンがあれだけ暴れた理由も申し訳つかなくなる』というのが本当の理由らしい。
 本当はぼくもロビンとリアナを手伝いに行きたかったのだけれど、そういうわけで、今日一日はこうしていなければならなくなってしまった。

 しばらくぶりの、何もない一日。ぼくは病院においてある本を読んで過ごすことにした。
 ロビーの本棚から、一冊を手に取り、ぱらぱらとめくってみる。
 内容は、優しい雰囲気の童話風小説。なんとなくよさそうだ。
 するとギルダーさんがこんなことを言ってきた。
『なんだ、お前こんな字ばっかの本読むのかよ。男ならエッチな本でもぐごっ』
『あんたねえ、今度オトメの前でそんなこと言ってみなさい。氷付けにして粉々に砕いてやるんだから!』
 そのまま、二人はまたしても口げんかを始めた。
 ぼくはもうどうしようもないので、その本をベッドに持って帰り、二人が鎮火するまでひたすら読みつづけることに決めた。
 ため息をつくと、ミューが肩に飛び乗ってきた。
『お前もタイヘンだニャ、クレフ』
「ありがと……」
 ミューはぽんぽん、とほっぺたを叩いて慰めてくれた。
 ぷにぷにの肉球がきもちいい。ぼくはちょっぴり癒された。