~~ギルダーさん、走る~~

『ちょっと! もう、買い物するんじゃなかったの?!』
 そうしてやってきたのはうちの前。
『それどころじゃねえ!!
 俺は行く。行かなきゃならないんだ』
 ものすごい勢いで待合室を突っ切る。
 モップをかけてたロビンが唖然とする。
「え、ギルダーさん?!」
『行くってどこへ』
『マーガレットのところへだ!!』
 部屋に駆け込み、札入れをつかむとポケットにねじ込む。
『誰、そのひと。まさか』
『俺の恋人だ。
 俺はやっぱりここにいちゃいけない。俺はマーガレットに会う。
 会って、決着をつけるんだ。
 おいロビン!!』
「なんだよ、どうしたってんだ」
『ちょっとクレフ借りるぞ。行き先はメルファンの町だ。晩飯は頼んだ』
「ってまさか」
『ああ全部思い出した。
 俺は恋人の元に戻ってプロポーズをする。
“うまくいく”よう祈っててくれ』
「そんな、……待てよ!! 何があったんだ、おい!!!」

 丁度やってきた乗合馬車に飛び乗った。
 馬車集合所まで乗って、乗り換える。
『メルファンは隣の隣の町か。
 くそ、この時間じゃ今夜はどっかで泊まりだな』
『プロポーズするつもりならその方がいいわよ。
 あんた思いっきり普段着じゃない。
 もうちょっとぱりっとした服と、最低限花束も必要ね。
 ひげはクレフほとんど生えないからいいとして、髪とかはそうね、散髪屋さんでブラッシュアップしてもらいなさいよ。
 お金が足りなきゃクレフの名前出して領主様のツケにすればいいわ』
 するとギルダーさんの(魂の)あごが落ちた。
『……おまえら一体ナニモノ??』

 言い忘れていたが、ぼくはあれからいったん領主様――シストバーン様の元に戻り、無事と真相と決意を報告した。
 領主様はとても喜んでくれた。
 そして以降全面的に、ぼくたちソウルイーターを支援してくれることになったのだ。
 もっともあまり甘えてもいけないので、普段の路銀とか生活費なんかは自分たちで働いて稼いでいるけれど。


 そして翌日。
 すっかりぱりっとしたギルダーさん(身体はぼくだけど)は、花束を持ってマーガレットさんの家に向かった。


 その日、町はマーガレットさんの結婚の噂でわいた。


 そしてぼく(たち)は、小ぬか雨のなかを歩いていた。



~~お別れは、いわないで~~

『なんなの?! どうしたのよ一体?!』
 アリスがギルダーさんに詰め寄る。
『どうして……』
『いいんだよ。
 マーガレットには、あいつがいる。
 俺の入り込むスキなんかはもうねえよ』

 ――それは、ついさっきのこと。

 呼び鈴を押すとドアが開き、その人が出てきた。
「はい、どちら様ですか?」
 リアナに似た、亜麻色の髪の女のひと。
 確か名前は、マーガレットさん。
『えっと、……俺は、……』
 そのとき彼女の後ろに、見覚えのある男性がやってきた。
 ロケットで見た、ハンサムな男の人だ。
 彼はそっと支えるように、マーガレットさんの肩に手を置く。
 ギルダーさんは、一つ大きく息を吸い込むと名乗った。
『ギルダー……
 さんからの使いです』

 ぼくたちは驚愕した。
 しかしギルダーさんはぼくたちをしゃべらせないまま、言葉を継いだ。
『これはギルダーさんからお預かりしました。
 どうか受け取って差し上げてください』
 そして花束を押し付けるようにマーガレットさんに渡す。
「あ、ありがとう……ございます。
 それであの、ギルダーは……あのひとは今どこに?!」
『神様のみもとです』
「……………」
『トレジャーハンティングの際の事故で、記憶をなくしさまよっておいででしたが、お亡くなりになる直前に、すべてを思い出されて……
『俺は天から見守ってる。キャンベルと幸せになってくれ』との言伝を残して、天に召されました。
 最期は……安らかなお顔でした』
「ギルダー……」
 マーガレットさんは、涙で花束を抱きしめた。
「ありが、とう……」

『ねえ、あんた……じゃなくて、ギルダー…さん。
 ほんとにこれでいいの?』
『いーんだよ。
 なに辛気臭いカオしてんだよ。いいんだよこれで。
 だいたいそもそもムリだろ、俺はもともと“わいるどばっとふぉーまる”なちょいわるオヤジだぜ。こんなお嬢ちゃんみたいなかあいいぼっちゃん顔じゃ……
 あいやそういうイミじゃなくてな、えーと、俺のダチそっちのシュミ多いの忘れてたわ、だからいろいろ危険だろ、単にそういうイミなんだってば。クレフは別段悪くないんだ、それだけは確かだから、うんっ』
「……?」
 そういう意味って、どういう意味なんだろう。ていうか、そっちの趣味ってなんだろう。
 考えてみたがぼくにはさっぱりわからなかった。
『ク、クレフはわかんなくていいわっ。
 それじゃ、サクサクうちに帰りましょう。
 先生心配してるわよ!』
『いや、俺はもうかえらねえ。
 心残りははたしたし、天国いくわ。』