Neetel Inside ニートノベル
表紙

ドラゴンボールN
ベジータの異次元世界旅行

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「おい、トランクス!ゲームは一日一時間半までだぞ!」

「分かってるよ、父さん」
そう言い、トランクスはゲーム機の電源を入れた。PSPと言う名前の丸長い箱状のそれは、ベジータの初めてのバイトの給料にてトランクスに贈られたプレゼントだ。
ソファに座っているトランクスは、すでに世界に入り込んでいる。傍から見ると何かと口を出したくなるが、それが逆効果であることをベジータはすでに知っていた。それに、時間はしっかりと守っている。それだけでも十歳の子供としては褒められたものだ。
今日は日曜日であるのだが、生憎と外は雨だ。遊園地に行く予定も潰れてしまったし、ブルマもブルマで朝食を食べ終わった後も部屋に閉じこもって何かをしている。中から奇妙な音がするのをたまに耳にするが、それがブルマの発明の開発によるものと言うことは知っている。
妻と息子はそれぞれ好きな時間を過ごしている。それなら俺も、普段の日課のトレーニングをいつもよりハードにしてみよう。
居間にトランクスを残し、トレーニングルームまで飛んで行こうとした。が、ドアを開けたと同時にブルマの声がまた激しいドアの音とともに飛び込んできた。

「ベジータ、トランクス!見て見てねえ!新しい発明が出来たわよ!」
そう言いながら、ピョンピョンと跳ねながらおかしな白い物体を抱えている。
「おい、又何か新しい物か?ブルマ」
話しかけても、声が耳に入っていないようだ。なにやら嬉しげにはしゃぎながら部屋を飛び回っている。いつもの反応とは少し違う。何時にない喜びようだ。
「母さん。今度は何発明したの?わたあめ作れるやつ?」
PSPを机に置いたトランクスがブルマに話しかける。
「違う違う、そんなものじゃないのよ!それがねえ、カンタンに言うと別の世界に行ける機械なのよ!」

「別の?別の世界…?」

「そうそう、たまに聞くことあるでしょう?異次元世界とか平行世界とか。それにねえ、なんと!行けるようになったのよー!!」
俺には何のことやらさっぱり分からない。トランクスも同じ様な表情だ。とにかく冷静さを欠いていて、ブルマにとてもじゃないが詳しい話は聞けない状態だ。
それほど興奮をしているとは、やはりとてつもなくすごい発明なのだろうか。とにかく、時間を置いてブルマの興奮が冷めるのを待とう。その白い代物は、一体どのような物なのかも興味はある。


それが数か月にもわたる冒険への序章だとは、神にも思いがよらないことであった。

     

「・・・うーん・・・」
ベジータは眠っていた。
(なぜか眠くて体がけだるい。しかもやけに辺りが騒がしいぞ。今は何時だ?俺はさっきまで・・・)

バッ

「な、なに・・・」
深い眠りから覚めたベジータは、目の前に広がる光景に思わず目を疑った。
辺りにたくさんの人々。やかましい子供の声に、そしてメリーゴーランドや観覧車など、まるで遊園地だ。
「ここは・・・どこだ?ブルマ。トランクス・・・」
どうやら俺はベンチで寝ていたようだ。しかし、なぜこんな場所にいる?さっきまではブルマやトランクスと同じ部屋にいたはずだ。それが・・・
「なぜ・・・なぜなんだァーーーーーーーーー!!!!」
わけも分からず俺は叫ぶ。ベジータの周りにいた人々は、驚いて奇妙な髪形のその男を見た。
「くそったれーーーー!!一体ここはどこだーーーー!!」

バシューーーー

不安に駆られたベジータは、自分に向けられた視線も気にせず空を飛んでいった。
「ひ、人が・・・飛んでった・・・」
「な、なんなんだ・・・今のおっさん・・・」
「トリック・・・でしょうか・・・」
呆然としている大人たちに混じって、歩美、元太、光彦の三人はベジータの消えていった空を見つめていた。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

ベジータは当てもなく空を飛んでいる。
(おかしい、おかしいぞ・・・俺たちの住んでいる地球と全く同じ広さだ)
さらに速度を増してベジータは飛ぶ。
「この調子じゃ後十分足らずでこの星を一周するか。それにしても、この星の文明はなんて遅れてやがるんだ・・・」
もしかして、俺は何か悪い夢でも見ているのか?もしかすると今は夢の中にいるのか?
「よし、それなら・・・」
飛行スピードを落し、体の力を抜く。眼前に街が見える。徐々に落下していく。それでも飛ぼうとしない。地面がどんどん迫ってくる・・・迫って・・・

ヒュ ドォォォォォォォォン

「ぐ、はぁ・・・」
コンクリートで舗装された道路に、ベジータは頭から落下していった。ベジータを中心に月のような巨大なクレーターが道路の真ん中に出来上がってしまった。
(何という激痛だ・・・夢じゃない!?)
幸い車や人には被害はなかったが、辺りにいた人々がどんどん群がってきた。
「なんだ、どうしたんだ今の!!」
「隕石が落ちたぞ!!っておい、人がいるぞ!!」
「おい、カメラ無いかカメラ!!」
一人、二人からたちまち数十人の野次馬の群れがベジータの作ったクレーターを取り囲んだ。
「ちくしょう・・・」

ピーポーピーポー

この音には聞き覚えがある。警察のパトカーか。それとも救急車か。
今のベジータにはそんなことはどうでも良いことだった。いきなりわけの分からない別の世界へ連れてこられたようだった。
「ん?別の・・・世界・・・?」
聞き覚えがある言葉だ。いつ聞いたんだ。そういえば・・・
「おい、誰かいるぞ!!救急車呼んで!救急車!」
野次馬の一人のおばさんがベジータを見て叫んだ。
(ここにいれば厄介ごとに巻き込まれそうだ。チッ、くそったれめ・・・)

バシューーーーーン

ベジータは空高く舞い上がった。下から何か叫び声が聞こえたが、よく聞き取れなかった。
「思えば、あの遊園地で目が覚めたんだ。そこにいけば何か分かるかもしれない。うかつだったぜ、俺としたことが・・・」
先ほどの遊園地の方向へ、ベジータは飛んでいった。五分ほどで目的地に到着するだろう。
そのとき、ふと脳裏に一つの言葉が過ぎった。

 「違う違う、そんなものじゃないのよ!それがねえ、カンタンに言うと別の世界に行ける機械なのよ!」

「あっ・・・」
おかしな白い物体を抱えたブルマが、頭に思い浮かんできた。

つづく

     

ベジータは遊園地に戻っていた。事の始まりの場所がここなら、何かしらの手がかりは残されているかもしれない、と考えたからである。
この世界の時刻はベジータの世界の時刻と一致しているようだ。柱時計の針は九時三十分を指している。
「しかし、どうするんだ・・・俺は・・・」
ベジータは当てもなく遊園地内をうろついている。初めに目覚めたベンチの場所に行ってみたが、ほぼ手がかりは無しだった。
(このまま日が暮れるまで俺は一人で・・・)
辺りを見回すと、楽しそうな様子の親子連れやカップルがやけに目に付く。
(ブルマ、トランクス・・・)
どうしようもない孤独感に襲われた。ベジータは叫び出したい衝動をこらえ、思わず走り出した。
大勢の人ごみも構わず走る。人の間をまるで魚のように滑らかに通り抜ける。
(ブルマ、ブルマ・・・もしこれがお前の仕業だとしても、俺は怒らないから・・・出てきてくれ、ブルマ・・・)
一層強くなった孤独感は、さらにベジータの歩を進める。
目の前に『Mystery coaster』と書いた文字の看板が見えた。ふと、その入り口の前に異様に人だかりが出来ているのを目にした。
立ち止まって、人だかりの中の様子を伺う。なにやら少年が一人、三人ばかりの不良らしき男に囲まれていた。
「おい坊主、オニイチャンたちにぶつかっといてごめんなさいだけで済ますつもりかぃ?」
「あーあー、足折れちまったよー。慰謝料として有り金全部貰いたいなぁー。えぇ?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ごめんですむならマッポはいらねぇーんだよねぇー。きみぃー」
一人の不良が少年の両肩に手を置き、しゃがみながら脅しをかけ、後の二人もそれに同調している。
自分たちの周囲の状況に気をかけていないようだ。四人を取り巻いている人々も、不良たちに注意をする者が現れないらしい。
ふと、その少年と目が合ったような気がした。トランクスと同じ年頃か。不思議と顔も身長も髪型も似ているように見えた。
「おい、貴様ら!やめないか!」
気づいたら体より先に声が出ていた。人ごみを掻き分けて出てきたベジータに、不良らを含めた周囲の人間全員が注目した。
いきなりの乱入者に不良たちは戸惑ったように見えたが、すぐに一人が薄ら笑いを浮かべてベジータの元に歩み寄る。
「ぁん?やんのニイチャン?え?オイ。まさか俺に喧嘩売ってんの?」
金髪の不良がベジータに立ちはだかった。ポケットから取り出した手には、小さな彫刻刀が握られていた。
耳ピアスの不良とガングロの不良はベジータを無視して少年を脅しにかかっている。ベジータは一呼吸置いて、
「聞こえなかったのか貴様ら!やめろと言っているだろうが!」
と、声を上げた。
その声に、耳ピアスとガングロもベジータのほうを向いた。少年に置いていた両手を離すとベジータを三人で囲んだ。
「なあマサル、マジコイツ殺っちゃっていいよね?なあ?」
「うっぜーオヤジだな。正義のヒーロー気取りですかー」
「何?ヤル気なら言っとくけど俺ら強いよ?この前もなんかウゼーセンパイとか十人くれーは病院送りに・・」
ベジータは三人を無視して、いまだ立ち竦んでいる少年に向けて言い放った。
「さっさと行けボウズ!邪魔だ!」
少年はハッとして立ち上がり、人ごみを掻き分けるように不良たちの元を走り去った。
「あーぁ。逃げちまったよ。ったく、引っ込んでろよ、ヒーロー気取りのおっさん!!」
金髪が言い終わらないうちにベジータに彫刻刀を振りかざす。
ベジータは金髪の額に強烈なデコピンを叩き込んだ。もんどりうった金髪が左右の鼻の穴から鼻血を噴き出して後ろに倒れこむ。
すかさず左にいたガングロに足払いをかけ、地面に倒れたところでガングロの両足を掴んだ。
背後にいた耳ピアスが殴りかかってきた。ベジータはバッティングの要領で掴んでいたガングロを耳ピアスの腹部に投げつける。
ガングロと耳ピアスは周囲の野次馬に向かって吹っ飛んでいった。そのうちの数人にガングロたちが命中してしまった。
鼻血を垂れ流してピクピクと痙攣している金髪を、ベジータは掴んでガングロたちのもとにに投げた。数人の不運な野次馬の上に、三人の不良の屍の山が出来上がった。
周囲の野次馬たちは、たった五秒の間で不良三人を倒したベジータを、称賛と驚きの目で見つめている。
その視線を無視し、ベジータは立ち去ろうとした。ふと、背後から声が聞こえてきた。
振り向くと、さっきの少年と母親らしき女性がいた。
「おじさん、さっきはありがとうございました。」
少年がベジータにぺこりと頭を下げた。
「うちのヨシトを助けていただいて、有難うございます。
その母親も、ベジータに丁寧にお辞儀をした。
「フン、礼には及ばん」
なんとなく照れくさかったが、ベジータは表情に表さずにそのまま立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと待ってください。コレ、」
母親がバッグから一枚のチケットを取り出し、ベジータに差し出した。受け取ったそのチケットには、目の前の建物と同じ『Mystery coaster』の文字が見られた。
「つまらない物ですが、受け取ってください。本当にどうもお世話になりました。」
最後に親子そろってお辞儀をし、そのままどこかへ立ち去っていった。
先ほどの野次馬も不良もどこへともなく居なくなり、まばらな人混みの中一人残されたベジータは手にしたチケットをもう一度見た。
「ここのアトラクションのチケットか。なるほど、気晴らしに入ってみるのも悪くないかもしれん。」
ベジータは目の前の建物に入ろうとした。奥から係員らしき人物が出てきて、こう言った。
「すいません。ミステリーコースターは十時からです」

     

ベンチに座ると、いくらか心が落ち着いてきた。時間の経過とともに遊園地内の人ごみも数を増していく。
体を前に沈め、両膝に両手を置いた体勢で座っている。ふと目を瞑り、ほんの一時間ほど前の出来事をまとめようと考えをめぐらせた。
ナメック星での激戦の後に住むようになった地球と似ているようで遅れているこの星に、何故かベジータは何ともいえないような居心地の良さを感じていた。
ふと、下腹がほんの少し軽くなるよう感じ、きゅぅー、と腹の虫が間の抜けた声で鳴き出した。時計の針は十一時を指していた。普段のベジータは大抵トレーニングのメニューを終え、早い昼食を摂っている時間であった。
ベンチから立ち上がり、園内に幾らかあるほどの屋台を見つけると、そこへまっすぐと歩いていった。ポケットには小銭がある。それで何とかホットドックくらいは買えるだろう。
屋台の前まで来ると、店員らしき女が「いらっしゃいませー」と声をかけてきた。メニューはやきそばやかき氷など、レパートリーが豊富だ。しかし、特にこだわるものも無かったので、一応始めに頭に浮かんできたホットドックを買おうとした。
しかし店員は、ベジータがポケットから出した小銭を手に取り、しばらく眺めたり裏返したりした後、
「すみません。このお金はちょっと…。あの、お客様。日本円はお持ちでいらっしゃいますか?」
と、ベジータに恐る恐る聞いてきた。訳がわからない。エンだと?この女は何を言ってやがるんだ。
「おい、貴様。そのカネでは食い物は買えないのか。」
「いえ、このお金は見たことが無くて…すみません。ちょっと待ってください。」
店員はポケットから携帯を取り出すと、誰かを呼び出した。
「店長、店長。すみません。ちょっと緊急で…。来てもらいますか?…はい、すみません。」
店員が何かの機械に話しかけている。見たところ古いタイプの通信機のようだ。
だが、そんなことはどうでもいい。俺は腹が減っているのだ。
「おい、貴様!まだなのか!」
空腹時の妙な怒りのせいか、店員に声を荒げてしまった。
「す、すいません…少々お待ち下さい」
次第に店員はオドオドとしだした。ベジータを見るその目には怯えが浮かんでいた。
(…チッ)
ベジータも冷静になり、怒りを落ち着ける。腕を組んだ姿勢のまま目を瞑り、一分、二分と待った。
さっき店員の言っていた店長とやらはまだ来ないのだろうか。やっぱりカキ氷の屋台に行こうか。そう思い始めたとき、
『おやおやベジータさん、お久しぶりですね』
聞き覚えのある声が俺を呼んだ。とっさに振り返った。そこには…
「あ、て、店長!!」
店員が店長と呼んだそれを、ベジータは凝視した。
そこにはあのフリーザが居た。未来のトランクスが倒し、地獄へ送ったはずの、あのフリーザが。それも、体に【ハッピーイーツ】とかわいらしいロゴ文字が描かれたピンク色のエプロンを着て。
ふざけたような格好のフリーザを目の前に、ベジータはさらに混乱してしまった。
本当にこの世界はどうなってやがる?

       

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