Neetel Inside ニートノベル
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ニーノベ三題噺企画会場
お題①/狂った人生から抜け出す方法/グロ中尉

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「どうしたのこの杖?」
 部屋に入るなり、エミはコウジに訪ねた。
「ああ、これ? 話すとちょこっと長くなるんだけど――」
 要約すると、コウジはエミが気づかぬうちに新興宗教にのめり込み、教主様が霊験あらたかだと謳う特別製の高価な杖を買った、ということだった。
「ふざけないでよ!」
 エミは怒鳴った。
「ご、ごめん。結婚費用のための貯金で買ったことは謝るよ。けどね、これは神の御加護がうんぬんで僕たちのこれからの生活も間違いなく良くなる素敵な杖なんだよ!」
 コウジの馬鹿げた言い訳で完全に堪忍袋の緒が切れたエミは、杖を手に取るとコウジの頭をそれで殴打した。
 醜いうめき声をあげてコウジは転倒する。エミはすぐさま彼に馬乗りになるとこぶしほどの大きさのある先端を喉元にぐりぐりと押しつけた。コウジの声にならない呻きが室内を漂う。
「コウジあなた狂っているわ。そんなうさんくさいものに引っかかって安っぽい木の棒を給料三カ月分もする値段で買っているんだもの。霊験あらたか? 馬鹿らしいわ」
 頭部の激しい痛みと喉元にかかる圧力によりコウジはまともに返事をすることができない。
「私の両親ね、あなたが入っているような胡散臭い宗教にのめり込んで身を滅ぼしたの。お給料のほとんどをその宗教に関するものに費やして、仕事がない日はずっと集会場で過ごしていた。私はまともに育ててもらえなかったわ。最終的に教祖と幹部が姿をくらませてその宗教は消滅、両親は自殺した」
 エミは涙を流しながらうったえる。
「ねえ、私愛する人にそんな目にあってほしくないの。愛する人がそんな愚かな人間でいて欲しくないの。ねえ、分かってくれる?」
 コウジは必至に首を縦に振る。その間も、エミは杖の先端を彼の喉元に押しつけていた。
「ありがとう。分かってくれて嬉しいわ。でもね、私は知っているわ。あなたは弱い人。だからこんな宗教にのめり込んでいる。すんなりやめられるとは思ってないわ。だからね」
 喉元から杖の先端を離す。コウジは激しく咳きこんだ。エミは杖の向きを変える。反対側は対照的に先端が細くなっており、鋭利に尖っていた。
「まずはどんな言葉にも惑わされないように、あなたの鼓膜を破りましょう」
 コウジの顔が青ざめる。そしてもがき始めたがエミに顎を殴られて動きに力が無くなる。
 今だ、とばかりにエミは鋭利な先端をコウジの左耳に突っ込んだ。ぎゃあ、と分かりやすい叫び声が上がる。
 うまく奥まで突っ込めないのか、エミは何度も何度も杖の先端を突き刺す。鼓膜以外の場所も激しく傷つけているのだろう。いつしか耳からは血が流れていた。
 それを見て鼓膜が破れたと思ったエミは右耳にも同じように杖の先端を差し込むと、血が流れるまで何度も突き刺した。
「これでいいわ。ねえ、コウジ聞こえる?」
 エミが問うがコウジは耳を押さえて呻いているだけだった。
「聞こえてないみたいね。よし、じゃあ次は目ね。宗教関係のものを目にして惑わされることがないようにつぶさないといけないわ」
 エミは杖を置くと、両手の親指をコウジの目蓋の上にあてがう。
「杖じゃ突き刺しすぎて脳みそまで傷つけちゃうかもしれないから」
 コウジは自分が次に何をされるかを悟り、頭を振る。だが手はガッチリと押さえつけられて離れない。ユミは親指をゆっくりと沈め始めた。
 ぶちゅり、という音とともに指と眼孔の隙間から水しぶきがあがった。「ああああああああああ」親指はさらに深く沈む「ああああああああああ」血がわき水のように溢れだした。
「目はこれでよし。ねえ、コウジ。私が見える?」
「ああああああああああ」
「見えないみたいね。これでよし。もうあなたは大丈夫。これからは狂った人生を送ることはないのよ」
 エミは血まみれのコウジに顔を近づけると、いとおしそうに頬ずりした。
「恨まないでね。あなたを想っているから、あなたを失いたくないからこうしただけなの……って聞こえてないんだったわね。残念だわ。私が耳元で愛を囁いても届かないんだもの。でもあなたが悪いのよ。こんなものにのめり込むから」
「……つ……き……!」
「どうしたの?」
「殺人鬼ぃっ! ああっ……あああああっ。殺せぇ。殺せよぉぉぉぉおおおおお」
「私は殺人鬼じゃないわ。あなたを殺したりしない。これからも二人幸せに生きていくためにしょうがなくしたんだもの」
 聞こえていないと分かっていながら、甘い声で囁き続ける。
「大丈夫。怖がらないで。私はあなたを愛してる」
 エミはコウジの口からながれる血の跡を舌でなぞると、そのまま口づけを交わす。
 血濡れの杖が、静かに床を転がっていく。

       

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