Neetel Inside ニートノベル
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ニーノベ三題噺企画会場
お題②/ふみちゃん

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 私は文ちゃんが大好きだ。

 あるときは幼さの残る声で恋話に花を咲かせ、またあるときは内に秘めた怒りを滲ませつつ静かに世の理不尽を嘆き、そしてまたあるときは昨晩の夢や空想を膨らませ上機嫌で語り始めたかと思うと、ちょっとした身振りを交えておどけてみせる。そんな文ちゃんが大好きだ。
 幼稚園からずっと一緒だったけれど、普段の彼女は特に目立つ訳ではない。どちらかといえば大人しい方だと思う。でも私と違って勉強ができるので、答案返却時に発表される上位陣の中に必ずといっていいほど名を連ねていた。そんなときなどに視線を集めてしまった彼女が頬を染めつつ浮かべる困ったような、それでいてちょっと誇らしげな表情も私は大好きだった。県外の進学校に行ってしまった今でも、たぶん変わってないんじゃないのかなと思う。
 学校が別々になってからも、毎週のようにお互いの家を訪れたり、買い物や遠出をしてみたり、一緒にカラオケで好きな歌手の全曲を上から下まで制覇をしてみたりと、しばらくはそんな感じで共有していた私達の時間が薄れていったのは、二人に彼氏が出来たからだ。

 高校一年のある日、緊急会議を召集する! というようなやけに短いメールを寄越した彼女が、既に三杯目のコーヒーを前にしながら遅いと悪態をつく私の前に現れた。そしてカラフルなトッピングのボールドーナッツにぷすぷすと穴を開けつつ、実は告白されちゃったんだ、と切り出した。告白、なぜか私はその言葉で彼女の魅力を再確認できたような気分になった。男と女の言うかわいいは全く違うと聞くけれど、男から見ても文ちゃんはやっぱりかわいいんだ、と。背が低く昔から運動がそんなに得意でなかった彼女の肌は白く透き通っていて、ストレートの黒髪が一層それを引き立てている。指は3歳の頃から続けているというピアノの影響かすらりと伸び、そこから皮膚組織の下で静脈がゆったりと絡み合いながら手首・腕・脇、さらに服の下の少し控えめな胸へと綺麗な模様を描いている。視線を上に向けると制服の首元にも覗く、静脈と細く美しい鎖骨のライン、そして――。
 彼女はすっかり穴だらけになってしまった一つ目のドーナッツを飲み込んだあと、どうすればいいかなぁ、と呟いた。普段なら私の瞳にまっすぐ投げているであろう視線は今、眼鏡の奥から手元へ落とされている。いつも彼女のことが眩しくて目を逸らしてしまいがちな私はここぞとばかり、あの時のような複雑な表情の上で瞬きに踊る睫毛を追いかけていた。
 相手は誰? そう切り返すと、最近仲の良くなった同級生の男の子と答えた。さらに質問を続けると彼女は堰を切ったように、文化祭の準備で良く話すようになった、だの、どんなCDの貸し借りをした、だの、先刻の相合傘、だの様々なエピソードを交えつつ説明し始めた。
 どうやらまんざらでもないようだ。
 で、文ちゃんはどうなの? と訊くと、まぁ……アリ……かな、と彼女は一時間に及んだマシンガントークのためかそれとも、すっかり上気した頬にエクボを作りながらはにかんだ。
 文ちゃんがこんな様子のときは、もう既に答えは出ているのだ。ただ、私がそうして欲しいのと同じように、話を聞いて背中を押して貰いたいだけなのだ。
 一方の私は夏休み直後から、一コ上の先輩と付き合っていた。今になって思い返してみれば、彼女と離れて過ごした高校生活、ずっと一緒にいた夏休み、そして新学期を迎えて再び訪れた寂しさや不安を埋め合わせるため、でもあったような気がする。
 もうひと押しと思った矢先、突然照準は私と彼氏の馴れ初めへと向けられた。予想外の不意打ちに、もう教えたでしょ、と回避を試みると、会話の主導権を渡してくれているのかそれとも何かを得ようとしてるのか、いいからぁ、と猫みたいな声色で追撃をされた。降参しますというそぶりで話し始めると、彼女はいつものようにまっすぐこちらを覗き込みながら相槌を打ち出す。そうして気が付くと私もさっきまでの彼女と同じような熱を帯びていた。

 結局閉店時間まで話し込んだあと、寄り道しながら帰った。雲が去り澄み切った秋の夜空の星はいつもより明るく思えたので、月が綺麗だねというと、読書家の彼女らしく夏目漱石の話をしてくれた。途中公園に寄って滑り台のてっぺんから二人で愛を叫んでみた。少し寒いね、と呟いたので私が彼氏ならこうすると笑いながら抱きついてみた。そして、久しぶりにキスをしてみた。上手くいくといいね、そんな私の言葉に、彼女はゆっくりと頷いた。

       

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