Neetel Inside ニートノベル
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帝都で踊る
はじまりのラブホテル?

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「おい、起きろよ」
 十馬のぶっきらぼうな声が部屋にひびく。
 肩を揺らされ、ようやく夢から覚醒し始めた晶は目に映った光景に眠気は彼方へと飛び去った。
 腰にタオルを巻いた上半身裸の男が自分の前にいる。風呂上りらしく湯気がでている。
 晶はベッドの上にいた。見覚えの無い部屋。どこかのホテルのようだった。
 言葉にならない声をだし、動揺する晶を追い詰めるように十馬が言った。
「目がさめたか、ハニー。見た目と違って激しいんだな、ベッドの上じゃあ」
 甘ったるい声が耳元で囁かれる。絶望的な甘い言葉が。
 とうとう越えてはならないラインを飛び越えてしまったのか。晶の顔はみるみる青ざめて、うつろな目で金魚のように口をパクパク動かしている。
 すると突然、十馬は笑い出した。
 少し離れたところから声がする。
「意地の悪い人ですね、こんな状況で」
「こんなときだからだよ、きのこ」
「笠野です」
 そちらのほうに顔を向けるとパソコンをいじっているきのこ頭の小さな子がいた。
「笠野です。中学二年です」
 自称中学生(しかし、どうみても小学生ほどの背丈しかない)の笠野はそう言うと、またパソコンに目を向け、それ以上なにも言わなかった。
 晶は訊きたいことがあったけれど、一生懸命な様子なので開きかけた口を閉じた。
 笑いすぎて腹が痛くなった十馬は苦しそうだった。
「悪いな。冗談だよ、冗談。あんたがあんまり驚いてるんでからかいたくなったんだよ」
 十馬を押しのけて、脂が乗って頬の肉の垂れた男が晶に顔をずいっと近づけた。趣味の悪い金の装飾品をつけた中年の男だ。名を金蔵と言う。
 金蔵から漂うきつい匂いに晶は顔を背けた。もちろんそれだけではなく醜い顔をそれ以上見たくなかったからでもある。
「いや、わかるで。こんなべっぴんさん見たら、そらからかいたくもなるわ。ワシだってこんな美人と寝てみたいわ」
 晶は押し黙ってしまう。金蔵の笑った顔に寒気がした。
「俺は男だ。そういう趣味はない」
 晶は言い聞かせるように言った。十馬と金蔵はもちろん、パソコンをいじっていた笠野すら驚きの声をあげた。
 三人になめるように見られ、居心地が悪かった。特に金蔵のなめるような視線が気持ち悪くてしかたなかった。
 自分の着ている洋服をみてから、何もそんなに驚くことはないだろう、と晶は思った。確かに彼はよく女顔と言われるが、間違われるような格好ではない。
 晶はベッドから降りて、部屋の中を見渡した。
 部屋の隅にで自分の体を抱くように縮こまって座っている人がいることに気づいた。
「かりん?」
 晶が呼ぶとその少女は顔をあげ彼を見た。一呼吸あけてから晶の名前を呼んだ。
「Akira?」
「なんや? 二人は知り合いかいな」
 金蔵の言葉に晶が頷いた。
「かりん? 祥子ちゃんじゃなかったの? てか、なんでローマ字?」
 十馬が次々と疑問をあげる。
 かりんは佐倉祥子のハンネ――ハンドルネームである。同様にAkiraは晶のハンネだ。二人はネット上のあるサイトで知り合い、意気投合、リアルでも会う友達になっていた。
 十馬がかりんの発言である「アキラ」が何故「Akira」であるとわかったのかといえば、さっきからずっと誰かが口を開く度にその人の顔の横に漫画の吹き出しのようなものが浮かび上がっているからだ。
「……あだ名です」
 かりんがそう言うと十馬は曖昧に頷いてそれ以上追求しなかった。それほど興味がなかったらしい。
「ところでどこです、ここ?」
「どっかのホテルみたいだな。ラブホ?」
 十馬はウッシッシと笑う。男ばかりでラブホというのはキツイものがある。普通のホテルでもラブホテルでも関係はないのだけれど。問題は晶に、この場にいる全員にこのホテルに入った覚えがないことだ。
「避難所のかわりじゃあないでしょうか」
 笠野が言った。
 全員が覚えている最後の記憶。強烈な閃光と立っていられないほどの揺れ、地震だった。
 その時に気を失ってしまい、避難所代わりにここに集められたのじゃあないか、というのが笠野の言い分だった。
 晶はビルの上のほうが崩れて落下していく光景を見た気がした。
 彼は笠野の話を聞きながら、何気なくポケットに手を突っ込んだ。すると何かクシャと潰れる音がした。それを取り出してみると、丸まった紙だった。それに見覚えの無い晶は気になって広げみた。
「とりあーえずさ、全員起こしちゃわない? 議論はそれからでいいじゃん」
 十馬が言う。この部屋には後二人、人間がいて、二人はまだ気を失っていた。
 金蔵と笠野が頷き、それぞれが寝ている二人に近づく。
 晶が声を張り上げた。
「なんやねん?」
 少しぶっきらぼうに金蔵が訊く。
「最初に起きたのって十馬……くん?」
 晶の突然の質問に十馬は戸惑つつも肯定した。
「次が金蔵さんでその次がかりん、笠野くん、最後が俺。当たってる?」
 四人は驚きつつ頷いた。
「だからなんやねん、それが」
 金蔵はイラついた口ぶりだった。まだるっこしい言い回しが気に食わなかった。
 晶は少し青ざめた顔で、ポケットに入っていた紙を十馬に渡した。それを受け取ると十馬は笑い、それを他の人にも回す。
「つまり、なんや? わけわからんみたいな顔してお前さんもグルってわけか?」
 金蔵が晶に詰め寄る。
「知らないよ。気づいたら入ってたんだ」
「んなもん誰が信じんねや。悪いヤツはみんなそう言うんとちゃうか!」
 金蔵が晶を怒鳴りつけると十馬が笑い出した。
「こんなかで一番悪そうな顔してそういうこと言うか? おっさん」
「なんやとお、クソじゃり!」
 金蔵が十馬に掴みかかる寸前にかりんが二人をとめる。
「待ってください。Akiraは地震が起きるまで私達と遊んでました。こういうこと仕込む暇はなかったと思います」
 晶が頷く。それに加勢するように笠野が言う。
「もう少し待ってもいいじゃないですか。その紙の通りになるかどうか」
 晶の持っていた紙にはこう書かれていた。
  目をさますのは十馬くん、金蔵、祥子くん、笠野くん、そしてキミだ。
  あとの二人は僕のもちょっとわからないな。
  ただ言っとくよ。最後まで寝ていた方は死ぬよ。

     


       

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