Neetel Inside ニートノベル
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「……駄目ね、これじゃ」
 私は扇を地面に落とす。既に、さっきの彼女のナイフによって右腕の感覚が無くなっていた。無理をしたせいか、少し頭もクラっとする。
「せめて、これだけは……!!」
 最後の力を振り絞り――最期の力を振り絞り、魔法を行使する。それは、扇の転移。ただし私は転移魔法というのが得意ではないので、少し工夫する。
 私の人格を、それに模写する。
 そうすることで、この転移は“物”の転移ではなく“自身”の転移として行使でき、その分簡単になる。
 そして扇が消える。転移先は自身――“時”の補正を加えて、未来の子孫だ。幸いにして子供はいるので叶うはずだ(暴露するなら、私とクオーツは既に結婚している。同様に、メスティアとエンドも然りだ。だからこそ、エンドが消された時にメスティアはあんな、らしくもない行動に出たんだと思う)。彼女の魔法を読み取って、将来『万魔の王』が再び覚醒する時代、そこに扇を送り込む。上手くいけばいいけれど、どうなることやら。
「さて、では終わりましたか? 最後の悪あがきは」
「まあね」
「そうですか、でしたらさっさと消えてくださいな」
 フッと彼女が消えた。私はもう抵抗しない、あるがままに流れに身を任せる。今回は敗れる、けれど次はそうはいかない。必ず、たとえ道連れだろうとも、勝利してみせる。次があるだなんていうのも馬鹿らしい話だけれど、それでも負けっぱなしなんてのはもっと馬鹿らしい。
 なぜなら私は、負けず嫌いだから。



【『パラ教』教典】
 
 ――なお、この宗教は『神魔戦争』と呼ばれる、数人の争いから学んだ事によって生み出された世界平和を目指すためのものである。かつて、世界には『神』と呼ばれる三人の人間と、『魔王』と呼ばれる人間が二人存在した。それぞれに人間は属し、そして争ったという。その争いを終結へと導いたのが『神』である三人とされた。その五人だけで集まり、決着をつけたと言われている。その内容は定かではないが、熾烈を争うものだったと伝えられている。その結果として『神』が勝利したものの、その三人の『神』さへも他の『魔王』二人と同様に、決着後に亡くなってしまったそうだ。しかし、その死の直前に『神』の一人はこう言ったそうだ。
《たとえ争いで世界を統一することになっても、指導者というのはこの世界には必要だ。たとえ何と思われようと、まずは世界を統一してから議論するべきである。しかし、決して驕ってはいけない。決して敗戦者の人間を下に見ることは許されることではない。相手も自分と同じ人間である――》
 そう言い残して、最後の『神』も息絶えたのである。よって、我々はこの遺志に則り遺志に従う必要がある。世界を救った『神』の遺志を蔑ろにしていい道理など、世界には存在しない。
 我々はここに、正々堂々たる統一を目指すことを宣言する。



「――という具合の筋書きでどうでしょうかねー。きゃはっ、実に偽善ぶってて私好みの筋書きじゃないですか。我ながら、なかなかいい物語を考えたものです。消した方々にも配慮を怠らないこの私、実に最高です。さて、では改ざんさせてもらうとしましょうか。世界の人々の記憶や書物や記録――その他諸々の改ざんですか、久しぶりに大仕事ですね。まあなんとかなりますよね――私ですし。……きゃはっ」

       

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