Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「『導き』っていうのはつまり『あたしの仲間となるに相応しい人を探す魔法』のこと。ほんとは、厳密に言うなら違うんだけどそういう認識でいいとあたしは思うわけよ。で、次にあたしが仲間にしたいと思っているのはあたしの『敵』。意味分かる?」
「毎度のことだが分からん。なんで仲間に敵を加えるという結論に至るんだよ」
「そういうものなのよ、あたしというのは。昔からね」
「……?」
「まあ……いずれ話そうとは思うんだけど、今はその時じゃないから少し待っていて欲しいわね。とりあえずあたしというのはそういうもの、と認識しておいてくれたら十分よ」
「はあ。で、その敵っていうのはどういう観点から見て敵なんだ。もう既に会いに行こうとしてるのはいいとしても、それぐらいはおしえてほしいな」
「やだ」
「やっぱ酷いよ、メイラ」
 メイラ曰く、「仲間といえばニックネーム。とはいえそこまで期待はしないから、せめて名前で呼ぶこと。いい?」だそうだ。別に強いて反対する気も無いので大人しく従っている(一応俺は大人だからな……ということで)。


「いとエクセレントっ!」
 それが、次にとある町の中の宿屋みたいなところで出会った男の第一声だった。
 そしてこの瞬間、俺は悟る。メイラが言っていた、『敵』の意味を。否が応にも。
「おっと失礼、初対面にも関わらず思わず本音が。いやいや、そんなに喜ばなくてもいいさ。ん?違う?ああ、そうだったかい、ごめんごめん。私は昔から変だと言われているものでね、まあつまりは『変態』と呼ばれているのだけれどね。……ところで私はふと思うんだよ。この世界の森羅万象あらゆる物事は全て『変態』というだけで、それを許容し認めることができるのではないか、とね。例えば変態である私がシスコンだと仮定……いやシスコンなのだけれど、そうだとする。そして君のような可愛らしい妹がいたとする。もちろん、まあ、変な事をするね?……ああ、ここで反論は認めないからよろしく。さてさて、話を進めよう。ずばり訊くよ、……どうなると思う?ああ、ああ、皆まで言わなくても私には分かるさ。そうだね、『変態』という言葉を言われるだけで、それ以上はお咎め無しだ。つまり、どんなことをしようとも、それが『変態』であるというだけで赦されるということなんだよ」
「「絶対に違う」」
 『敵』、つまりは女性の敵ってところか。俺からしてみれば、女性だけでなく人類の大部分の敵だと思う。
 というか。彼の演説は前提から全て間違っている。なんで許されると思ってるんだ(彼としては、赦される、の方がポイントだったりするのだろうか)。
「ええっと……もう必要なさそうだけれど、一応確認。あんたの名前はレクシス=シナディン。通称『変態』。職業……変態?こ、これは職業なの……?好きなものは……妹?あー、……好きな者ね、なるほどなるほど。……なんでだろう、次の言葉を言うのに物凄く抵抗を感じるのだけど、ルゥ」
「だろうな。でも見物だから言ってくれ」
「まさかの推奨っ!?」
 文脈から分かるだろうが、俺のニックネームはルゥに決まったらしい。そんなに変なのじゃなくて一応俺は安心した。ただこの変態、自分でそう言うのもさることながら、他人からも言われているのかよ。相当に違いない。
「えー、と。じゃ、言うわよ。あんた、あたしのお兄ちゃんにならない?」
「喜んでっ!」
「「……」」
 や、やはりこうなるのか……。展開としては物凄くやり易いはずなのに、なぜだろうか。大切なものを失った気がする(メイラが)。
「いやあ、私は嬉しいよ!君みたいな可愛い妹が欲しいと思って過ごした私の人生、ついにここにきて進展があろうとは誰が思っていただろうか、いや誰も思っていたはずがないっ!」
「そりゃ誰も思わないだろうな」
 思う奴がいたとしたら、俺は断言しよう。そいつも『変態』だと。
「君、変態を馬鹿にしたら変態に泣くことになるよ」
「絶対に泣くことはない」
「むしろあたしは自分に泣きたくなってきた……」
「だ、大丈夫かい!?何があったんだい!?ま、まさか病弱な女の子要素もあったとでもいうのか。そ、それはそれでなんとなく私のストライクゾーンど真ん中ちょっと外れぐらいなのも事実だけれどっ!」
「……それってただのストライクゾーンじゃねえ?」
「そうだよ」
 認められた、本人に。どうでもいいところで。
「ところでだね、突然だけど私の好きな言葉を教えてあげよう」
「本当に突然過ぎるまさかの展開だな」
「聞いたことあるだろうけれど、私が好きな言葉、それは『無知の知』」
 ……これまでふざけていた分、まともであることに抵抗感を感じてしまう俺。いや、そりゃそうだよな、いくら変態といえども、いくつかはまともな所もあるんだろうさ。そうさ、そうに違いない。
「だってこの言葉、『鞭の血』っぽいだろう?」
「SM系のノリっ!?」
 まともを変態に期待した俺が馬鹿だった。……すまん、馬と鹿。ほんとに俺はお前ら以下の存在かもしれない。俺、自信喪失。
「ところでなんだけれど、君は、君たちは誰かな?」
「今更かよっ!?」
 最初に訊いておくべき最重要事項じゃねえか、それは!よく今の今まで訊かずに話を進めていたものだ(実際ほとんど話は進んでいない)。そしてメイラは、待ってましたとばかりに、盛大にそれに答えた。こいつは自己紹介がしたいだけなのか……?
「ふふん、あたしはあたし、もちろんあたし。そしてそしてやっとのことでよくぞ訊いてくれたわね。待ちくたびれて昇天するところだったわ。そう、あたしがかの有名なメイラ=シュライナ。通称『禁術師』」
「で、だ。……一応俺はこいつの仲間のルゥラナ=メグザ。二つ名『殺人周期』……で分かるか?」
「私が興味あるのは、私の妹たりえる素質のある者だけだ」
「お前は人間として終わってるよ」
「いや、もちろん冗談だよ?」
「できれば出会ってからのこと全てを冗談だったことにしてほしい」
「それは無理な相談だね。なぜなら私は、私が変態であることにほくろを持っているのだから」
「ほくろなんて持ってても何の意味も無い」
「失礼した、誇りだ」
「どっちもどっちだ」
 そんなことに誇りを持たれるぐらいなら、ほくろがある方が断然ましだ。
「ではメイラちゃん、私はどうしたら君の本当のお兄ちゃんに認定されるのかな?キスでもしたらいいのかい?」
「そんなことしたら無に帰すわよ」
 メイラの目が本気でやばいことになっている。俺はここでも悟る。こいつ、本当にやりかねん、と。
「うーん、……やっぱこの言い方、本当の意味では伝わらないのかしら」
「俺もそれは言った」
 お兄ちゃんにする……などと言われたって、意味が分からないか、そのままの意味で受け取るかのどちらかに決まっている(後者は非常に珍しいパターンにちがいない)。どこをどう解釈して、仲間になる、と受け取れるのか。
「じゃあ……普通に言うわよ?……あたしの仲間になってくれない?」
「喜んでっ!」
「やっぱりかっ!」
 物凄く予想通りだった。
「つーか仕事はどうした、仕事は。お前、ここの宿屋もどきで働いてるんじゃないのかっ!?」
 あまり宿屋にも見えないから、あくまでもどき。今回だってこの宿屋の店主に頼んで、この変態……もとい、レクシスと話をさせてもらっているだけにすぎない。だから働いている以上、そう簡単に了承してもいいはずがない。
「あー、いいよ、それぐらい。やめたらいいだけじゃないか」
「簡単すぎる……」
「それに……あのメイラ=シュライナが勧誘してくれたんだ。断る道理などあるはずもないだろう?」
 と、言われたところで俺は気づく。メイラって……有名なのか?自分ではやたらと誇張して言ってるように感じたんだが、まさか、本当に有名だったのか?どうみても、見た目からは想像もつかないのだけれど。
「『禁術師』メイラ=シュライナ。見た目などは一切不明。ただし、一人で一国を滅ぼせるほどの力を持つ、と噂されている人だね。それがまさかこんな可愛い女の子だとは私も思いもよらなかったが、なるほど、実に可愛い」
「……お前、可愛いって言いたいだけだろ」
「妹だからね」
「もう兄になったのかよ……」
 なんだ、……案外こんなものなのか。仲間集め、そう最初聞いた時は物凄く大変そうに感じたものだったけれど……なんてことはない。それほどでは、ない。それもこれも、メイラの強さ、ってか。俺はたまたま知らなかったとはいえ、メイラ=シュライナ。強いどころじゃない、それ以上だ。ただ、そうなると俄然一度は戦ってみたいと思ってしまう俺の癖は悪いものだろうか。……まあ、今はやめておこう。いつかは戦ってくれるんじゃないかと、俺は思えるから。
「……そういえばお前って何歳なんだ?」
「二五歳ぐらいかな」
 なら、これからはお前という二人称はよくないから、せめてあんた、にしておこう。
 つーか、……その歳で『変態』なのかよ。

       

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