Neetel Inside ニートノベル
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 ランドルーザの町で開かれる祭りというのは、思いのほか神国内では有名な部類に入るらしく、メイラたちが思っていたよりも多くの人が集まっていた。
 メイラたちが参加する事になった『剣舞』は午後から始まるようで、それまでは各々の自由時間。
 メイラはとりあえず祭りを楽しむらしく、出店巡りを。
 ルゥラナはそういうのが嫌いではないものの、それでも好んではいないので、行き交う人々を眺めつつの休息。
 レクシスは案の定というべきか、片っ端からナンパ(やりすぎて今回の祭りの一大名物になっていたというのはまた別の話)。
 メルミナは最近休業していた『情報操師』としての仕事を久々にするらしく、どこかに行ってしまった。
 それぞれが自由に行動しているものの、それでもやはり時間が過ぎ去るのは早いものだったようで、気がついたときにはもうすこしで『剣舞』が始まる、といった時間になっていた。そこはやはり祭りの力、とでも言うべきなのかもしれない。
 本来なら『剣舞』に参加するには事前にエントリーしておかないといけないらしいが、今回に限っては特例であるため、シノイ自らがそういった手続きは済ませてくれた。その辺りは、流石『神官』であるとメイラたちは思った。
「じゃ、そろそろ行ってくるわ」
 開始の十分ぐらい前になったので、メイラは言う。その辺りの常識は流石にしっかりしていたようだ。ルゥラナが予想していたのは開始してから登場、といったような常識外れをする、であったので、良い意味で予想を裏切ってくれたといえる。
「ルゥはあたしのことをどう思ってるのよ……」
「自己中」
「自己中じゃない、自分勝手なだけよ」
「同じじゃねえ!?」
「ちなみに私は変態だ」
「訊いてもねえし聞き飽きたしどうでもいいし!」
 相変わらずというべきか、よく分からないところにこだわっていた。言葉の響きを大切にでもしたいのだろうか。それにレクシスにはルゥラナは一度たりとも話は振っていない。もしもここにメルミナが戻ってきていようものならば(まだ仕事とやらから戻ってきていないようだ)、彼女も「ちなみにメルちゃんは妹ちゃんです」などと言ったにちがいないだろう。目に見えている。



 円形闘技場。
 ……とまでは言わないでも、それに近い施設がこの町にはあった。
 なんでも、毎年の祭りでの『剣舞』用に数年前に作られたものらしい。普段は子供達の遊び場としても開放されているようで、そういう意味で民の事を考えているといえる施設だ。こういうことでも、信頼を集めているシノイだ。
 とはいえ、今日は祭り。本来の用途に応じた使い方をするので、流石に今日は子供達はいない。いるにはいるが、今日彼らがいるのは観客席側。普段彼らが遊んでいる所にいるのは、神国中から(あるいは他国から)集まった腕自慢。ようするにほとんどが噂を聞きつけた冒険者だ。
 『剣舞』のルールはいたって単純なトーナメント制。そして優勝した人に褒美を与える、というもの。
 殺しはなし。子供たちだって見ているのだから、それは当然だ。そのため、剣を使う人は木刀もどき(木刀に魔法を使って重くしたりだとか、色々と細工したもの)を使うことになっていて、もちろん救護班も完備してある。なお、剣以外の武器も同様なものとなっている。
 そして、ルゥラナとレクシスが特別席(参加者の付き添いみたいな人が使える、最前列の席)へと座った頃、やっとのことでメルミナが帰ってきた。そして同様に座る。
「どうも、遅れてごめんなさい」
「いや、まあまだ始まってないからいいんじゃないか?それより、お前は何してたんだよ」
「愚問ですよ、ルゥお兄ちゃん『情報操師』たるメルちゃんが顧客情報を漏洩するわけがないじゃないですか」
「んー、……そりゃそうか。だな」
「それよりもですね、お姉ちゃんはいつ登場するんですか?メルちゃん的にはそっちの方が気になっていたり」
「最初らしい。だからもう少ししたら出てくるんじゃないか?」
「なるほど、メルちゃん了解です」
 という会話をしてから数分後、ルゥラナの予想通りすぐに現れた。観客の応援の声が彼女に投げられる。
 今回の『剣舞』で、女性で最年少、それがメイラだった。女性というだけでもなかなか珍しい上に、あの年齢(見た目16歳)だから注目も集まるというものだ(案外可愛い部類だから余計かもしれない)。
 対する、対戦相手の方はこの町の外から来た冒険者。昨年の『剣舞』でなかなかの好成績だったらしく、故にそちらも注目が集まっている。今年こそは優勝、という決意が瞳に見られる。
「あんたが、注目の『赤の美少女』か」
「へえ、あたしってば、そんな風にこの町で噂になってるんだ。うん、悪くない悪くない」
「……言っとくが、手加減するつもりなんてないからな」
「うんうん、その方がいいわよ。後悔、とまではいかないでも、死ぬかもしれないからね」
「……順序逆じゃないか?」
「うん、そうね」
 戦闘開始については自由らしく、登場してからはいつでもいいということになっている。不意打ちも当然ありなのだから、両者共にそのタイミングを見計らっているというところか。ルゥラナたちも、真剣に見入る。初めてのメイラの戦いに。
 そして、先手を取ったのは相手だった。
 剣を抜き、一気にメイラへと間合いを詰める。見た目からして魔法使いであることは一目瞭然であるため、一気に接近することを選んだようだ。一撃で決める。そういう勢いだった。
 対して、メイラがとった行動は、いたって単純なものだった。
 扇を振る。
 ただ、それだけだった。にもかかわらず、
「――っ!?」
 相手は、吹き飛ばされた。不可視の力に吹き飛ばされたかのように。実際は、おそらく風を操ったんだろうと思われる。
 さきほどまで彼がいた所を通り越して、壁まで吹っ飛ぶ。壁にぶつかった衝撃で、その破片が空中に舞う。
 観客たちはその予想外の番狂わせに驚き、そしてしばらく理解が追いつかなかった。そこで起こった出来事を、まるで理解できなかった。
 壁にぶつかった相手が、バタッと地面に落ちる。地面の土が、少しばかり舞った。
 その頃になってようやく観客たちの理解も追いつき始め、そして同時に歓声が上がった。
 『赤の美少女』の一瞬の勝利を、観客たちは良い意味での畏敬の念も込めて褒め称えた。
 相手は起き上がらない。既に彼は気絶してしまっていた。まさに、これこそを一撃でのノックアウトというべきだろう。
 しかし、ルゥラナたちが注目していたのはそんなことではなかった。
 ついさっき、メイラが使った魔法。その、属性。
 それは確実に、昨日礼拝堂で見せたそれとは異なっていた。『記憶』のようなものと、『風』との間に関連性があるとは思えなかった。
 ルゥラナたちは、彼女の言う『禁術』というものの片鱗を、ここにきて初めて垣間見たような気がした。
 それから何度かメイラの戦いがあったが、その時に使っていたのはすべて『風』属性。基本的に一回戦同様、一撃必殺であり、それ故観客の応援もどんどんと強まっていった。
ルゥラナたちからしてみれば予想通りだったが、終わってみればメイラは優勝。メイラ以外に飛び抜けて強い参加者がいなかったとはいえ、それでもやはり圧巻としか言いようがなかった。あまりにあっけなかったが、それはメイラの強さ故、ということなんだろう。
「それではここで、今回の『剣舞』優勝者であるメイラ=シュライナさんには、我らが町のリーダー、シノイ=サルルーナ様と一騎打ちをしていただきます」
 と、司会の人がそう言うまで、ルゥラナたちはそう思っていた。
 言われてから、ルゥラナたちは気づく。昨日シノイが言っていた言葉、『面目がある』。
 ルゥラナたちは、なるほど、と思った。これだけ準備が整っているならば、彼の言う面目というのにも影響はすまい。町の人からしてみれば、シノイが昔は冒険者であったことは既知の事実であるだろうし、だからこそ、見世物としてシノイとの一騎打ちを企画したところで、それは一種の余興として認識されるはずだ。『神官』であったところで、それならば何も問題はない。
 ――そして、ついに『天空の契約』シノイ=サルルーナが登場した。

       

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