Neetel Inside ニートノベル
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 とりあえずはシノイが自分でメイラを治療する。それぐらいなら、彼でも出来る(治癒魔法ができるか否かは、向き不向きで決まる)。
 一方その傍らで、ルゥラナはメルミナに話す。
「メル、やってやれ」
「えいやっ」
 いつのまにやら、ルゥラナのメルミナに対する二人称が、かの変態に影響されてかは分からないが変わっていたが、はたして。
 それはさておき。
 ピュッとメルミナがナイフを古龍に向かって投擲する。
 それは寸分違わず、彼女が狙った古龍の頭の辺りに飛んで行き――そして弾かれた。鱗に。
「……ルゥお兄ちゃん」
「どうした」
「やっぱメルちゃん、静観しときます」
「まあそう言うなって。いつかは傷ぐらい付けられるかもしれねえだろ?努力は必ず報われるんだ」
「努力の結果がたかが傷一つだけで、その上反撃されて死んでしまうのはあまりに不公平ではないでしょうか」
「だな」
「まあ、いいです。気合でいきます、ここまで来たら。……さあ、かかって来て下さいバカドラさんっ!」
 なんというか、清々しいまでの開き直り精神だった。
 ただ、やはり古龍にもプライドというものは存在するらしく、メイラだけでなくメルミナにさえも“バカドラ”呼ばわりされたことに傷つくと同時に、そろそろ怒りのボルテージが上がってきたようだ。声に怒気が含まれ始める。
《我は戦いを好まぬ。……だが、挑まれたなら拒まぬ。その覚悟……汝らにはあるか》
「俺にはある。シノイを助けてやらなきゃ、せっかくこんなとこに来た意味がなくなるからな」
「メルちゃんはないです」
「変態も同じく」
「僕もないです」
「……待て、お前ら。」
 ここにきての、まさかの裏切りだった。
《ふむ……一人だけか》
「真に受けてるっ!?」
 よく分からないところで古龍の天然が爆発した。ついでにルゥラナのつっこみも炸裂した。
 しかし、もちろんレクシスとシノイは前言撤回したけれど(あと一人は?というつっこみはなしの方向で)。
「しょうがない。……メルちゃん、私にさっきのナイフをくれるかな」
「了解ですっ!」
 メルミナがレクシスに向かってナイフを投擲する。
 殺意のこもったそのナイフは、一直線にレクシスへと向かい、そして。
 レクシスがキャッチする。かろうじて。
「……くっ」
「今メルちゃんなんか『残念』みたいな顔をしたかな!?」
「え、えー?なんのことでしょう、メルちゃんにはさっぱりですよ。ゴリラ夢中です」
「……『五里霧中』?」
「それです、ルゥお兄ちゃん。流石です」
 だとしても、なんか使い時が違う――とは言えなかった。メルミナのその表情を見て、彼女のそんな嬉しそうな表情を見て、間違いを正すなどというのは、ルゥラナにはできなかった。なんともまあ、情けない精神だった。
「で、レクお兄ちゃんはメルちゃんのナイフでどうするつもりなんですか?それじゃ、バカドラさんには通用しませんよ?」
「ふふふ、私がこれを戦闘用に使用する?馬鹿を言っちゃいけないよメルちゃん。これは変態として、大切に保存するに決まっているじゃないか。メルちゃんが常に持っていた物を手に入れたのに、私が手放すわけが無いよ。たまにこれを見つめては、光悦の表情を浮かべさせてもらうよ」
「――」
 ありったけのナイフを、投擲した。
 どこからそんなに取り出したんだと言いたいくらい、正確には三十本ぐらいのナイフがレクシスを襲い掛かる。
 しかし彼は、そんなのは読んでいた、とでも言いたげな涼しげな顔でことごとくそれらを避ける。当たるかとも思ったものも、まああったにはあったのだが、それでも彼は全て避けきった。
 全力でもって力を使ったメルミナがぜぇぜぇと息を切らす。それを見てにやける(以下略)。
「いやいや、悪かった。冗談だよ冗談だ。……だけどね、メルちゃん。このナイフが通用しないとも限らないんだよ。やってみなくちゃ分からない。そう、やってみないと……ねっ!」
 メルミナ同様、レクシスがナイフを投擲する。その動きは熟練の冒険者を臭わせるもので、そして実際に狙いも正確だった。
(まさかこいつ……ただの変態ではない――)
 ルゥラナがそう考えた時。
 ナイフが、弾かれた。鱗に。普通に。
(……)
 絶句。というより、呆れ。
 期待した俺が馬鹿だった――とでも言わんばかりの顔のルゥラナ。
「うーむ」
 しばし考え込むような仕草をし、そしてレクシスが話す。
「やっぱり効かないか」
「……」
 ――さっきからそう言ってるだろ。
 そう、ルゥラナだけでなくシノイも思った。こういうところで考えることは同じだったようだ。
 ちなみに、古龍さえも呆れて物が言えない状態だ。ある意味それはあたりまえだった。
《汝ら……結局何がしたいのだ》
 やっとのことで、古龍が言葉を絞り出す。出した言葉も、なんとまあ悲しい言葉だが。
 対するレクシスは、なぜだか勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。メルミナも同様だった。
《……なぜ笑う?》
「え?いやいや、君が文字通りの“バカドラ”だと分かったからだよ。呆れて物が言えない――そんなことを戦いの最中にして、その上油断して、それで最強?笑わせてくれる」
 皮肉たっぷりに、レクシスは言う。
 ――いつもと、少し雰囲気が違う?
 ルゥラナがそう感じた時、続けてレクシスが叫んだ。
「さあ、いこうかメルちゃん」
「任せてください、レクお兄ちゃん」
 それに合わせて、メルミナが、レクシスが、“何かをした”。
 周りにいた人間からは、古龍からは、彼女が何をしたのかは分からないけれど、それでもたしかに何かをしたのだ。なぜなら彼女の叫びに合わせてレクシスが地面に手をついて、すると手をついた周囲にあった、先ほどメルミナが投げた三十あまりのナイフが光を帯びだして、まるで一つ一つのナイフ同士が光の線で結ばれるかのように、実際に光の線で結ばれたのだ。
 そしてメルミナが古龍の頭の方へと手を向けて、さらに続けて叫ぶ。――いや、“謳う”。
「『――絶対の存在たる古龍よ。我が結界の前に平伏し、そして堕ちよ。汝、我らの姿となりて、地上へと堕ちん』」
《――これは》
 それに呼応して、古龍の頭の部分からも、さきほどメルミナとレクシスがナイフを当てた部分からも光が発生し、そして同じように線を結んだ。
 古龍が狼狽しだすが、そんなことは意に介さず。
 メルミナと、レクシスが同時に宣言するかのように、言う。
「「『ドラゴンキラー』、展開」」
《――っ!?》
 三十あまりのナイフが描く模様と――正確には魔方陣と――古龍の頭の光とが呼応し、一気に光を放った。
 古龍の体全ても光り出し、そして。

 古龍が、堕ちた。

       

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