「君はなんと羨ましいことをしていたのかな。いや、ここでわざわざとぼける必要性はないさ。これは既に私の視覚的情報として入っているため、それは時間の無駄というべき愚行といえるだろうね。変態としてわざわざ言うなら、兄が妹と一緒のベッドで寝るという行為にはとても大きな意味があるのだ。そりゃ物心つく前に何度か寝た事はあるかもしれないさ、本当の兄妹ならね。けれど、物心ついてしまってからの、というよりは変態として自分に目覚めてからのそれは、以前のそれとは次元の違う話となるわけだ。それは私たちの悲願であり、気づいた頃には決して叶えることは出来なくなってしまっているというこの世の摂理でもあり、私たちを苛む究極の誘惑でもあるわけだ。ましてや君にとっては義妹であるメイラちゃんと、君はベッドを共にしたわけだ。それは私をさらに誘惑するものでもあり、同時に嫉妬に私を駆らせるものでもある。これもまた世の摂理であって、これから逃れることの出来る変態など世界には存在せず、もし仮にいようものならそいつは変態ではないと断言しよう。それが変態のルールというものだ。ではここでルゥ君に一つ例え話で質問をしてみよう。質問に答えないことは決して許さないので断念するように。君が変態のロリコンのシスコン、というか妹好きだとする。そして世の変態たちが渇望する状況を得た勝ち組――つまり本当の妹が君にはいるわけだ。……いや、もうこの際究極的に義妹ということにしておこうか。さて、そんな時に一人のどこの馬の骨とも知れない男が君の妹を君から奪って、そして彼に盗られてしまった。……いや、この場合変態としては、義妹がいながらそれまで手にかけなかった兄の方こそを責めるべきなのだろうが、そこは話の都合上無視させてもらうことにしよう。さて、君はそんな時どうするかな。――そう、考えるまでもないね、その男を抹殺すればいいんだよ。何も殺すことはない、人間を終わらせればいい。そんなの、どうとでもしようがあるだろう?けれど私が言いたいのはそんな抹殺方法なんかではない。私が君に考えてほしいのは、その兄の気持ちだ。一体彼はどう思うのだろうかな、妹が盗られたということに対して。これまで自分しか彼女の中にはいなかったというのに、遂に他人が侵入してしまったのだ。それは皮肉にも、一度入り始めたら悪循環が続き、それはもう留めることはできなくなってしまうものだ。兄は悲しいだろうね。世界に絶望するかもしれないね。出来る事なら少しでいいから時間を巻き戻して、その泥棒男を殴りたいことだろうね。私にはその想いが切実に伝わってくるよ、なぜならその兄の気持ちと私の今の気持ちとは同じなのだからね」
 ああ――それにしても眠いな。昨日はしっかり休んだはずだったんだが、それでもまだなんだか体が重い。食事もとってないからなのかもしれない。といあえず、今は目の前の食事に専念することにしよう。さっきからなんだか長い話が聞こえていたような気がするが、おそらく勘違いにちがいない。疲れているから幻聴っぽいのが聞こえたのかもしれないな。そうだ、そういうことにしておこう。一番それが無難な考え方だろうな。



「――分かった。じゃあ私はこの指輪をそういう人に渡せばいいのね?売れるっかなー」
「うん、そう。渡す人は慎重にしてね。それと売っちゃ駄目」
「了解。残念」
 だいたいシノイの時と同じような話をリリーにして、そして一行は礼拝堂を去る。
 ルゥラナの目が覚めてから一週間。そう考えてみれば、この町にいた時間は結構長いのかもしれなかった。少なくとも、この町に愛着がわくぐらいはいただろうと思われる。町を歩きながら、一行は話す。
「セルベルさんはね、死んだの」
 そう、メイラはどこか物憂げな顔で語る。
「あたしだけが使える、二つ以上の司力を合成させて使用する魔法、『失われた魔法』、つまり『禁術』でね。だから、死んだっていうよりはあたしが殺しちゃったってことになるんだよね。……ごめんねみんな、みんなとした約束をあたしが最初に破っちゃって。リーダーとして失格、かな……」
「いいさ、別に」
「そうそう、そこまで気にすることでもないよメイラちゃん」
「そんなこと言ってたら、私なんていつもレクシスさんを殺してるんですよ」
「精神的にね……」
「あはは。でもまあ……殺したっていうのも少しニュアンスが違うかもね。どっちかというと、“消した”んだし」
「……消した?」
「そ。この間るーくんに言った事の他人バージョンみたいなかんじだよ。つまり他人の存在を、消したの」
「また随分と規格外な……。それってつまり最強なんじゃねえか?問答無用なんだろ?」
「そんなわけないよ。むしろ、あたしのリスクが大きいもん。たぶんこれから先、あたしは無駄に魔法が使えなくなる」
「それはどういう意味でですか?魔力のに関係してるのか、それとも――別の何かに関係してるのか」
「――鋭いねメルちゃん。うん、たぶんメルちゃんが思ってる通りなんだけど、それは魔力以外のこと、だよ。どう説明したらいいのかよく分からないんだけどね、うんそう、病気みたいなものかな。魔法を過度に使うと、たぶんあたしは倒れるんだと思う。なんとなく、そんな気がするもん。今でも、なんだか胸の辺りが少し痛いし……。心臓辺りかもしれないね」
 これが、禁術の『対価』だよ――と彼女は言う。
「――ああ、そうだ。この機会にみんなに禁術について教えとこうっかな。あたしの属性って『全』だってことはみんな気づいてるよね。『魔王』さんのときもそうだったから、たぶんこれは遺伝なんだと思うよ。で、あたしは全ての属性を操れるわけなんだけど、それはそれでまた別の問題があるんだよね。一つ新しい属性の司力を使うたびに、そのつど『対価』がいるの。だからあたしは無闇に色んな司力は使えないし――使うこともできないの。全てを操る頃には、既に全てが終わっているってわけ」
「……どうしてそんな話を俺たちに?」
「んんっ?ううん、別に深い意味は無いんだけど、なんだかみんな知りたそうな顔してたでしょ?大方『禁術師』さんに意味深な事言われて気になってたんじゃないかと思って」
 本当に深い意味はないんだよ、と断っておき、そしてさらに話を続ける。
「まあつまり――あたしは二つの意味でそんなに戦えないんだよねー。だから――」
 三人の先を歩いていたメイラが立ち止まり、くるっと回って三人を見る。三人も立ち止まる。
「――あたしを守ってくれる?」
「……なるほど、そこに持っていくか」
 ルゥラナは苦笑する。そんなあたりまえなことを、とでも言わんばかりの顔だ。
「安心しろ。任せていい」
「うん、任せた」
 即答かよ、とルゥラナがつっこむ。それに応えてメイラも苦笑する。
「まあ私たちに頼っても構わないよメイラちゃん。こっちは一歩離れて見守らせてもらうよ」
「ですね」
「……なんで離れるんだよ」
「そりゃあほら、君は数日前にメイラちゃんと一緒に寝た間柄だからだろう」
「それは誤解だって言っただろ。つーかそれを言うならあそこで勝手に寝たメイラが――」
 そして一行は再び歩き始める。朝の買出し客たちを横目に、一行は町を去る。