Neetel Inside ニートノベル
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 元リーダーが、その『元』である国に宣戦布告をしたことが首都に伝わったのは、彼女が自身を追いかけてきていた兵士を撃退してから一日後のことであった。
 それが、それほどまでに早く伝わったのには理由があって、というのも、リーダーが(正しくは元)兵士の一人を無傷のままわざわざ首都に帰したからだ。他の十数名の兵士は殺してはいないものの重傷。あのときの近くの町にいることが後に確認されている。
 リーダーは、別にミスをして一人を帰したわけではない。意図的にだ。
 今現在、彼女は自身で言っていたように一人ぼっちだ(かわいそうに言うならば)。そのため仲間を増やしたいのだが、やはり一人であるために時間がかかってしまう。
 だったら――仲間になりたい人を、そちらから来てもらうようにすればいいのではないか、と彼女は思いついた。
 首都などでは『魔王』などと呼ばれているらしいが(それと対比して、メイラ以外のリーダー格であった3人は『神』などと呼ばれている)、それでも少なからず仲間に出来る人はいるはず、と彼女は考えていた。
 そのため、彼女は本拠地を創り、わざわざその場所の情報までその一人に持たせて帰らせたのだった。
 元々彼女は人望もあったし、その策略のかいもあってか、一ヶ月ほど過ぎた頃には多くの仲間を集める事ができた。
 数としては、『魔王』側は『神』側の十分の一にも満たないほどだった。けれど、それだけ仲間を集められたなら十分すぎた。もっと少ないと予想していた彼女にしてみれば、それは嬉しい誤算だったといえる。



 『浮遊大陸』。
 元リーダーが創ったのは、それだった。自らの力に物を言わせて、地面を空中に浮遊させる。
 そう言ってしまえば簡単に聞こえてしまうけれど、言うまでもなくそんなのは簡単ではない。「できるわけねーだろ」と言いたくなるようなものだ。
 だが、彼女はできた。
 そのあまりの無茶苦茶ぶりなど、誰にも理解など及ばないけれど、それでも彼女は実際に創ったのだ。自らの力で新たな土地を(まあ、空中に浮かび上がらされた所の、元の土地は彼女の知った事ではないけれど)。
 それはいくつかで創られ、一つの大陸としてではなく、各地にいくつかの大陸として存在した。そして、彼女はそこに仲間を誘導し、そして住まわせた。
 その大陸は、どういうわけなのか地上と大差なく、作物も育ったし、もちろん木だって育った。
 集まった人々はそこに簡易なものではあったが家なども作って、そしてそこに住んだ。
 仲のよかった兵士たちも、彼女の仲間になってくれた。普通の人々だって、彼女に賛同してくれた。もちろん普通の人々に戦わせたりなんかはしない。ただ、そこにいてくれるというだけでよかった。
 こちらの人数が増えれば、より人が集まってくれる。そうして、少しずつこちらの勢力を強くすればいい。地味ではあったが、それでも一番確実な方法だった。



「……さてと」
 元リーダーが宣戦布告してから、既に一ヶ月あまりが過ぎた。そろそろ、少しずつ戦いに入る頃合だ。『神』の方から攻めさせるか、それとも『魔王』が先制するのか迷っていた彼女だったが、最後は結局『魔王』だから、という理由で先制攻撃を仕掛けることにしたようだった。
 今日は、新たな勢力のリーダーとなった彼女が、皆を集めて(一つの『浮遊大陸』に集まる分には流石に人数が多いから、それは地上で)感謝と、そしてこれからのことについて話す日だ。
 人前に立つのは慣れているとはいえ、それでも緊張しないことはない。どれだけ慣れようと、それは変わらなかった。
 それでも、その表情には緊張などよりも責任感とでもいうのか、そういう表情が見て取れた。
 そして彼女は、(自分で用意した)壇上に上がり、そこに集まった人々を見やる。老若男女問わず――とは、まさにこのことだった。時刻は昼。天気は快晴。まさに、うってつけの日であった。
 彼女は深呼吸をし、そして話し出す。
「えー、と。……皆おなじみの、イリザ・シュライナよ。知ってる人は、どうも、知らない人は、初めまして。……え、皆知ってるわよね?知らない人とかいたら、ちょっと私はショックなんだけど」
 冗談交じりに、彼女、イリザは話す。聞く方も緊張していたのだが、この一言で全員緊張が解れたようだ。何人かはくすくす笑っている。自身で冗談を言っておいてだが、彼女も緊張は解れていた。はっきりと、イリザは語りかける。
「まずは、皆に感謝。ここに集まってくれた人は、わざわざ『魔王』だなんて呼ばれている私の所に来てくれた、勇者諸君。あ、でも別に魔王討伐が目的な勇者っていう意味じゃないからね。勇気ある者っていう意味――なんだけど、分かっているわよね、やっぱり。というわけで、まずは。ただただ、感謝させてもらいます」
 心を込めて、皆に言う。頭は下げない。リーダーとなった以上、下げるわけにもいかない。それでも、彼女は気持ちは伝わると、そう信じている。
「ここに集まってくれている人は、私の考えに賛同してくれている人、そう信じている。知っての通り、私たちはこのパラシアという国を、私たちの思う正しい方向へともっていくつもり。人数は、たしかに少ないかもしれない。けど、別に『神』側全員を倒さないといけない、というわけではないの。文字通り、これは『神』と『魔王』の争い、ま、仮に『神魔戦争』とでも名づけておくとして。そして、この国が戦争を仕掛けているのは『神』である3人、クオーツ・センセントルートと、エンド・クルノアと、メスティア・シャイナルによるものなの。これについては、元々そこに入っていた私が保証する。つまり、私たちはその3人を倒せば、それで目的は達成できるの。だから、私はできればこの3人以外は殺さないようにしたい。その3人だって、殺したくないし、その3人以外を殺さないのだって、無理だろうとは思う。けど、できれば皆もこの考えで統一しておいてほしい。この戦争を、私は血塗られた戦争なんかにはしたくない」
 イリザだって、それが奇麗事だとは分かっている。
 誰も殺したくない――なら、戦争なんて仕掛けない方がいいのだから。けれど、仕掛けなければそれはそれで“普通の”戦争が引き続き行われてしまうわけで、どうしても仕掛けざるをえなかった。
 だから、この戦争で多くの命が散ってしまうことになれば、それはイリザの敗北を表す。たとえ勝ったところで、それでは負けている。
「私が言いたいのは、それだけ。だからこそ、その“それだけ”を大切にしてほしい」
 人々は沈黙する。だが、それは拒絶などではもちろんない。承諾の沈黙だった。
「まあ、堅苦しいのはここまで。皆、力を抜いてね」
 少し真面目な話をしたので、再び人々は緊張していた。それを、イリザの人懐っこい笑みが打ち消す。
「今から、私がリーダーとして『神』に自分から宣戦布告してくるわ。まだ、人づてにしかしてないからね。と、ゆーわけで」
 大きく息を吸って、これまで以上の声で言う。というより、叫んだ。
「留守番、よーろしっく!」
 人々も、それに負けないような声で、叫び声で、それに応えた。
 留守番、という表現に笑う者もいたが、その光景は決して悪いものなどではなかった。
 微笑ましい。
 その言葉こそが、相応しかった。



 そして、イリザの姿が、その場から消えた。
 人々は、イリザを信じて、そして待つ。

       

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