Neetel Inside ニートノベル
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 正門をブチ破ってからは早かった。自分の庭ともいえる町を、ただひたすらに真っ直ぐに城(まだちょっと崩れている)へと向かう。さっきの轟音で目が覚めたのか、ちらほらと人が見えるものの、それでもイリザが歩いているのを見た人々は特に騒ぎ立てることも無く静かに家へと戻っていく。町の人々も、心の底ではイリザを信頼している。それでも他の三人とどちらが正しいのか判断がつかずに、ただ流れに任せて三人の方へと味方しているに過ぎない。だから別に邪魔するわけでもないし、協力するわけでもない。
 そして城へと着くと、そこには門番の兵士が二人いた。多くの兵士はもう一つの町の方へと行っているのだろうが、それでも全員行っているというわけではない。最低限の警備は残してあるままだ。
 そんな彼らにイリザは言う。
「『魔王』様の降臨よ。『神』様たちにお伝え願えるかしら?」
 沈黙。張り詰めた空気――ではなく、なんだか気まずい空気が流れる。
「……え、なにこれ、私?私が原因?」
「他に誰がおる」
 的確な迅速なつっこみ。珍しいシチュエーションと言うべきか否か。しばらく気まずい空気に包まれたままとなる。それに耐えかねたのか、イリザはいい方法を思いついたかのような表情になる。
「そっか、別に正攻法で行く必要性はないのよね。立場的に『魔王』を名乗ってるんだし。ふふ、ふふふ……」
 兵士たちが一歩後ずさる。ついでにルートも。
「この世の地獄を見せてあ・げ・る♪」
「怖いわっ!」
 的確に迅速に畏敬の念を込めてつっこむ。



 結果として、別に何もしなかった。なぜなら既に彼らは“イリザがやってきたら素直に通すように”と命令されていたからだ。だから初めから素直に通すつもりだったらしい。
「まるで私が今日やって来るのが分かってたみたいね――クオーツ」
「――まあな」
 そして三人がいる部屋へと通される。既に中には三人が待機していて、まさにこのタイミングでやってくることが分かっていたかのような手際のよさだった。
「こんなタイミングで、自然に『最古の古龍』が山から下りてくるわけはないだろうからな。何か仕掛けてくるなんてのが分からないわけがないだろ。むしろ分からない方が重症だ」
「ま、当然よね。わざわざ分かり易くしてあげたんだから」
 答えるイリザも、別に驚いてはいない。事実、わざわざ分かり易いような作戦を考えたのだから。
 “どう対応するか迷っていた”イリザだったが、実際は“どうしたら分かり易い作戦を考えられるか”で迷っていただけだった。頭が回りすぎるイリザは、逆に分かり易い作戦というのがどのようなものかが理解できなかった。彼女としては、いくらでも奇策と呼ばれるものは思い浮かぶ。相手の裏をかく事に関しては自分の右に出る者はいないとさえ彼女自身自負していて、現実問題それは正しい。
 ただしそのせいで簡単な策というのが思い浮かばなくて困っていたところで、ルートの“分かり易い策”というのが登場した。彼女としては、「ルートさえも思い浮かぶんだし、誰でも思い浮かぶわよね」という考えの下での採用だった。本人には言っていないが。
「みんな、久しぶり。きちんと会うのはいつぶりかしらね」
「ああ、久しぶりだな」
「お久しぶりです、イリザさん」
「お……お久しぶりです……」
 さも普通、とでも言わんかのような挨拶。
「馬鹿げた改革を断念するために来た……ってのじゃもちろんねえよな。やめるなら、もっと早くからやめてるだろうしな」
「ま、そりゃそうよね。ここまできて、引き下がるような人間じゃないもの、私は。それはみんなも知っているだろうし」
「私はイリザさんのそういうところが好きですし、そして尊敬しています。私には、そういうことができませんから」
 そう言うメスティアの言葉は決して嫌味だとかそんなのではなく、ただ単に尊敬しているというものだった。
「貴女はそれでいいのよティー。攻めの要のクオーツ、攻め兼守りの要のティー、後方支援のエンド、そして作戦指揮兼特攻隊長のこの私イリザ、それが私たちの理想形だったんだから。自分に足りないことなんて、他のみんなが補ってくれるから大丈夫。だから貴女はもっと自分に自信を持った方がいいわね。……もちろんエンドもね」
「ごもっともですね」
 間違いを正すかのように諭すイリザ。そしてそれを三人は止める事も無くむしろ聞き入る。それこそが、昔からの四人の日常だった。その日常を、イリザは自らで終わらせる。
「……分かってるだろうけど、そんなに時間は無い。騒ぎになってるかはともかくとして、時間をかけるのは私にとっては得策じゃない。だから世間話的なのもここまでにしておくとして、そろそろ本題に入るわよ。ここまできたらもう――言葉なんて無駄。どちらも譲れないのだから、潔く決着をつけましょう。戦いに入る前に言っておきたいことは何かあるかしら?」
「……一つ、ある」
 クオーツが、イリザを真っ直ぐに見据える。今にもその均衡がはちきれそうな、そんな静寂。ただ静かに、言葉を発する事も無く沈黙する。それから数瞬の後、ゆっくりとクオーツがそれを告げる。そう、“神魔戦争”の終戦を。
「俺たちは、あんたに投降する」
「……………………んんっ?」
 呆然としているかのような返答。イリザとルートの目が“点”になる。
「……ごめん、今なんて?」
「だから、この戦争ごっこはやめにするってことだよ。あんたの思想に賛同する」
(…………え、えええええっ?)
 イリザは、ズバリ戸惑った。ルートは、固まった。

 戦争は、終戦へと向かう。

       

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