Neetel Inside ニートノベル
表紙

禁術師
レクシス=シナディンの記憶

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「――お久しぶりですね、レクシス=シナディンさん」
「……ああ、お久しぶりだね」
「どうしたんですか?せっかくこうしてたまたま会えたんです。語り合わないんですか?」
「ふふふ……そんな間柄でもなかっただろう、メルミナ=ナミルちゃん」
「メルちゃんで結構ですよ」
「……そうかい」
 偶然とは、このようなことさえも起こしてしまうものなのであろうか。
 私がメイラちゃんを通じて、彼女、メルミナに出会った時のこと。私は、本当に驚いた。
「……あの時は悪かったね、メルちゃん。本当に、すまない」
「いいんです、それぐらい。いつかはそうなると思ってましたから。こうしてまた会えたことを、メルちゃんは素直に喜びます」
 私、レクシス=シナディンは、元々は、現在では既に神国の一部となってしまった国の出身だ。
 かつては民が中心となって政治を行い、とてものどかに、平和に過ごしていたという、そんな国だった。“世界一平和な国”とまで揶揄されるほどの平和っぷりだった。そんなところで育った私は、その雰囲気そのままで育ち、とても争いに関わるようなタイプの人間ではなかった。
 けれどそんなあるとき、神国が他の国を神の名の元に侵略し始めたのだ。
 争いなど到底できようはずもなく、私の国はすぐに神国に取り込まれてしまい、そして今に至る。
 別にそうなったからといって、特に変化があったというわけではない。その地は現在でも依然として平和であり、かつてとなんら変わりはない。十台後半にさしかかっていた私は、心は既に大人であり、それぐらいは受け入れる事のできる人間だった。
 だった、はずなのに。
 どういうわけか、私は神国に対して恨みを持つようになった。
 生活が変化したわけでも、なんでもない。恨みを抱く要素など、何もなかったはずだ。一つを除いて。
 “村人が数人死んでしまった”という報告があった。
 神国に取り込まれる前に、少なからず私の国は抵抗した。とはいっても、他の国よりは少ない方で、死者だって随分と少ない方だったらしい。けれど、たまたまその“少ない”中に、私の村の住民が含まれていたのだった。
 平和な国の中でも特に田舎の村だった。そんな所の数人が死んだところで、たいして印象に残るような話ではない。国では、そんなことは忘れ去られていたであろう(そもそも、神国に取り込まれたという騒ぎでそれどころでもなかったんだろうけれど)。
 だが、その時私は生まれて初めて恨みを抱いた。
 数人だろうとなんだろうと、私の世界を壊した神国。それへの、復讐心が日々高まっていった。
 そしてそれから後、いつだったかは忘れたが、私は神国から出る事にした。それは思いつきだったのかもしれないし、計画的だったのかもしれない。
 争いなどしたことがないと言っても過言ではなかったこの私だ。もちろん生き延びる事ができるのか、などの不安もあった。
 けれど、そんな不安は杞憂だったということがすぐに分かった。
 自分で言ってしまうのもどうかと思うが、私は天才だったのだ。戦いの天才、何をしようと人並み以上、それどころか達人レベル。天才の中の天才だった。
 結果――私は一年足らずでその名を大陸中に轟かせることとなり、ルゥ君と同様に二つ名のようなものだってついた。記憶は曖昧だけれど、たしか『百禍繚乱(ファイナイトスパイラル)』とかいう、長ったらしい名前だったと思う。誰が考えたんだか、暇な人もいるものだと思った。
 それから私は、現在では神国の隣にあたるサレティンシア帝国へと客員剣士として招かれ(一応私の武器は双剣だ)、そこでしばらく身を置くことになった。
 当時は神国とは国境を接していなかったので、直接神国へと攻め入ることはできなかった。それでも私は、色々な国を攻め落とし、そして着実に手柄を立てていった。手柄などどうでもよかった、私は復讐がしたかっただけだったのだ。
 だが世界とはそう上手くいくものでもなく、あまりに功績を立てすぎてしまった私は多くの人間の恨みを買う事になり、結果として客員剣士としての地位が奪われることとなった。
 当然、帝国の暗殺部隊に命を狙われることとなったが、かろうじて逃げ切った。いくら私でも、暗殺専用の部隊の人間をずっと相手していて生き延びられるという自信はない。あそこで逃亡という選択肢をとったのは正解だったであろう。
 そしてその時に、私に逃亡するように促してくれた人物こそが、彼女、メルミナ=ナミルであった。
 子供、であったにもかかわらず彼女はどういうわけか帝国の中枢付近で働いていて(おそらく持ち前の『情報』によって何かをしたんだろうけれど)、私に危険を伝えてくれたのだ。
 “もうすぐ命が狙われる”と。
 普通の人間なら、そんな子供の言葉になど耳を貸さなかっただろう。けれど、私は直感でそれが事実であると悟った。天才だったから、というわけではないだろうが、それでも私の勘が昔から冴えていたというのもまた事実で、それに従う事とした。
 私が誰にも言わずに逃げ始めてからの翌日。
 私の解雇(と言うのかは不明だけれど)が決定した。
 この時になって、メルミナの言葉に従っておいて正解だったと確信した。あのまま逃げなければ、おそらく暗殺者の手にかかっていたんだろう。
 ただ、誰にも言わずに、というのは嘘かもしれない。なぜならその時、メルミナも私についてきていたからだ。理由を尋ねると、「だって、あのままあの国にいるより、貴方といた方が楽しそうじゃないですか」とのことだった。思わず私は、その時笑ってしまった。
 それは、私が復讐を決意してから初めての本当の笑みだったのかもしれない。「そうかもしれないね」と私は返答したものだった。
 それからしばらくは彼女と共に各地を旅して、世界を見てまわった。半年足らずだったとはいえ、それは私のこれまでの人生で最も充実した時間であった。
 とはいえ、私の本来の目的であった復讐をしないわけにもいかなかった。
 メルちゃんには悪かったけれど、私は彼女が寝静まった頃に(どこかの町で宿をとった時で、もちろん別々の部屋)姿を消す事にして、一人でまた旅に出ることにした。
 行く当てもなく、どうしようか迷った結果、とりあえず私は神国へ行く事にした。理由はなく、本当にただの気まぐれだった。
 時々どこかで働いてお金を稼いだり、また町を移ったりを繰り返して、私は日々を過ごしていった。それはのどかで、平和で、私の故郷を思い出させる日々だった。
 そんな日々の中の、ある日。私は『禁術師』と名乗る女の子、メイラ=シュライナと、『殺人周期』と呼ばれるルゥラナ=メグザと出会った。くしくもそれは、再び“宿屋”という場所だった。
 『禁術師』。
 噂には少し聞いていた。決してメジャーな名前でもなかったけれど、その強さだけは伝わる人には伝わっていた。それはつまり、『情報操師』たるメルちゃんには伝わっていた、ということだ。おそらく彼女以外は知る人もなかったであろう。ここにきて、私は再びメルちゃんに感謝することとなった。彼女にその存在を聞いていなければ、おそらく私はメイラちゃんについていくこともなかったであろう。本当に、彼女には感謝してもしきれない。
「――本当に、私の人生は怪奇じみている」
「……どうしたんですか?」
「いや……なんでもない。なんでもないさ」
「……?変な人ですよねー」
「そりゃそうだろう。私は変態なのだから」
「うふふ、まだそんなこと言ってるんですか?貴方は変態とはいえ、メルちゃん一筋ですよね」
「さあ、どうだろうね。一筋と言っても、一度は捨ててしまった身だからね。自信を持って一筋とも言えない」
「ですね」
 彼女はより一層笑う。それにつられて、私も笑う。
 いくら私の人生が怪奇じみていようと、そんなことは関係ない。運が良い、そう受け取ればいいだけだろうから。
 私はただ純粋に、彼女との再会を喜ぶ。

       

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