Neetel Inside ニートノベル
表紙

六打数ノーヒット
筆者と流れ星との密接な関係について

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 私が初めて流れ星を見たのは中二だか中三だかの夏頃で、二度目はまだ無い。
 あれは午前授業の日だったと思う。無限に広がる午後の使い方に夢膨らませながら帰る途中で、私は満天の青空にキラリと横切っていく何かを見たのである。下校を共にしていた友人達も何人かはそれに気がついたようで、その場は一時騒然とした。
「えっ! 今の何!?」
「なんか! なんか光った!?」
 思い返すと今でも少し興奮してしまうのだが、本当に、何か言いようのない感情に包まれたものである。漫画やら何やらでさんざんその存在だけを知らされてきた流れ星。青く光るそれは本当に一瞬だけ空を駆け抜けて、そして一瞬で去っていった。実際には、その正体が流れ星だと解るにはもう暫くアホの女子中学生達の議論を必要としたのだが。
 とにかく、感動的なシーンに巡り合えた私は非常に良い気分で再び足を動かすのだが、その余韻の中で誰かが「あれ? 願いごとは?」なんて言い出したところから今回の一悶着は始まる。
 おいおいおい、そうだよ。流れ星だーなんて言って感動してる場合じゃない。せっかく願いごとを三回言えば叶ったのに! もったいないことをした。
「でもさー、あんな一瞬で願いごと三回とかムリじゃね?」
 あれっ? 言われてみればそれもそうだ。あ、何かが光ってるーと思ったら、もうその瞬間には消えているのだ。これではどう考えても無理に決まってる。
 一体、「流れ星が見えてる間に願いごと三回言えたら叶うんだよ」などと最初に言い出した奴はどこの誰なのだろうかと私は考える。絶対、そのクソルールの後には「どうせ間に合うわけねーけどな!! 一生願ってろバーカ!!!」という一文が続いていたに違いない。相当ひねくれた奴である。
 でなければ、もしかするとそいつ自身は流れ星を見たことが無いのかもしれない。
 酒の席でちょっと適当言いふらしたら、まさか現代まで言い継がれる伝説になってしまった。やばい。どうしよう。俺流れ星なんか見たことないのに。やめろよ。嘘つきとか言うなって。
 てな風に焦っている姿を想像すれば、私のこの行き場の無い怒りも少しは鎮まるというものである。
 そこで私は、きっとこの伝説の起源は後者であることを信じ、ルール改正というところでこの件の落とし所としたいのだがどうだろうか。
 例えば、簡単なところでは繰り越し制などが考えられる。一度に三回は無理でも、流れ星に遭遇する度に落ち着いて一回ずつ唱えれば良いのである。いや、一回に満たなくても良いぞ。唱えた分は次回へ繰り越し。通算三回分に到達すれば願いごと成就! 素晴らしいではないか。流れ星協会の皆様、是非一度ご検討いただきたい。
 とは言え、私自身二十年近く生きてきて未だ一度しか見たことのない流れ星。そうそう都合良く遭遇出来るものではないかもしれない。と、そう心配される方にもご安心の制度がこちら。「流れ星シェアリング制度」とでも名付けようか。これは凄いぞ。まず三人で徒党を組み、流れ星の登場を待ち構える。そんでいざキラリと夜空を横切ったら、三人で一斉に願いごとを唱えるのだ。
 一人一回で良い。それで三回唱えたこととカウントし、願いごと成就! ワンダフル! これなら何度も流れ星に遭遇しなければならないこともないし、成功の暁には多大なる達成感と共に友情も深まること請け合いである。ただし、一体それが誰の願いごとなのかは神様にもきちんと分かるようにしなくてはならないので、「恋人が欲しいです!! あっ、これは北海道札幌市北区北×条西×丁目×番在住、岸村瞳ちゃんの分です!!」と付け加えよう。なあに、なにやらの達人が三人揃えば容易である。
 だが、お気づきの方もいるかもしれないが、この三人一組というのがネックになりかねない。たとえば修学旅行の夜、担任の先生が「よおし、今夜は流れ星が見えそうだから皆で待ち構えよう! 三人一組を作ってくれ!」なんて言い出したら大変だ。
「先生! 由美ちゃんが余りました!」
「なに!? よし、じゃあ由美は先生と組むぞ!」
 つって。
 まず、自分の願いごとを先生に知られるというのが相当キツイ。恥ずかしがって無難な願いごとに妥協せざるをえなくなる。とは言え、先生が素直にチャンスを譲ってくれるようならばこれはまだマシなのだ。この制度には、「三人の内、誰の願いごとを唱えるか」という最大最強の議論ポイントがある。何しろ一生を左右しかねないイベント。血みどろの戦いは避けられない。それは先生とて例外ではなく、由美ちゃんが先生の願いごとを唱えるよう強制されたら由美ちゃんはもう泣くしかない。
「よし、二人で頑張ろうぜ! ほら、これ先生の住所だから」
 つって。
 何より、二人で三回分唱えるには一人一回半担当しなければならない。それは由美ちゃんの滑舌を過信しすぎというものである。ううむ、この制度もイマイチか?
 と、言うより。そもそも流れ星に向かって三回叫んだくらいで願いごとが叶ってたら誰も苦労はしないのである。「こんな事を考えている暇があれば夢に向かって努力しなさい」。初めて「流れ星三回」のルールを提案した例のアイツは、そう言いたかったのかもしれない。なあんて、ちょっと綺麗にオチのついたところで。(了)

       

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