Neetel Inside ニートノベル
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六打数ノーヒット
お昼どき、中学生女子の苦悩

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 中学校の頃、お昼の主役はクラス一の食いしん坊でも運動部のエース達でもなく、私達の存在であった。今になってそう思うのだ。
 中学生男子というものは乞食みたいな行為も平気でやっちゃうもので、お昼頃になるとその日のおかずの行方が注目されていた。「おい、今日の給食唐揚げだぜ」なんて誰かが言い出したら、もう戦争である。少食そうな女子に目をつけては「なあ、今日唐揚げくれよ!」なんて交渉を始める。余ったおかずをジャンケンで奪い合うなんて事はあまり効率的ではないらしく、女子から貰うのが一番手っとり早いと思ったのだろうか。
 これが、我々としては非常に厄介な話なのである。
 そりゃ、あんた。「お肉くれ」って言われて「いやだ!」なんてハッキリ言えないでしょうが。断られた時の男子の表情といったら、失望と驚愕、破壊と絶望入り混じるこの世の終わりのような顔なのである。しかも、その目にはしっかり「この食いしん坊野郎! 女子の癖に!」なんて非難の意も込められているのだから始末に負えない。
 当時のクラスには、そういう「狙い目」な女子が三人ぐらいいた。
 家がお金持ちで成績優秀で美人の丸木、可愛いけど頭の弱そうな横山、ちょっと太めの中村ちゃん。三人はいつも男子に狙われる率のトップ3で、満足に給食を口にすることなどほとんど無かったのではと心配になるほどだ。
 ちなみに私はと言うと、紙パックの牛乳を三年間通じて堀木(第一項参照)に譲渡する契約を結ばされてはいた。別に牛乳は好きでも嫌いでもなかったのでそれはどうでも良かったのだが、ある日恋心を抱いていた相手に「青谷ー、牛乳くれよ」と言われた事がある。
 それはもう、胸を躍らせたものである。瞬間的に心の中ではあっさり堀木を切っていて、残りの人生はその彼に牛乳をあげ続けようとも思った。が、立ちはだかるは堀木。「おいダメだぞ!! 青谷は俺に牛乳くれる契約してるんだからな!!」なんて言い出して、私の淡い願望はあっさり終わってしまった。家で飲めよ。牛乳。
 おっと、話が脱線してしまった。そんな私よりも、あの三人はもっともっと辛い給食人生を送ってきたのである。
 いや、とは言え丸木は例外か。一人余裕を感じさせていた。彼女がお金持ちの家の子であるのは誰もが知るところで、男子も「丸木さ~ん、唐揚げくらい下さいよ。いつも良い物食べてるんでしょ? ヒッヒ」というスタンスだったのではないかと私は思う。丸木も笑顔で「良いよ良いよー。私お肉好きじゃないし」なんて言うものだから、丸木のおかずの競争率は凄まじかった。
 しかし、単に丸木とお話がしたくておかずの交渉をしていた男子も中には潜んでいたのではないか。
「丸木、唐揚げくれない? あ、もう後藤にあげることになってるの? あ、じゃあメルアド教えてくれない?」
 なんつって。
 少し辛そうだったのは横山である。彼女は顔も可愛らしく男子との付き合いも良好であったが、それ故に相当の我慢をしてきたのではないか。女子だって唐揚げ食べたいのである。お肉好きなのである。だが、横山のようなギャル風女子が堂々とそれを言うのはかなりの勇気が必要だったのだろう。
「唐揚げ? ああ……うん、良いよ……」
 文字に起こすとかなりの哀愁が漂ってしまうが、当時の横山はこんな感じであった。彼女も高校ではお母さんに好きなお弁当を作ってもらえていれば良いなあと、私が思ったかどうかは定かではない。
 だが、何と言っても一番辛い思いをしたのは間違いなく中村ちゃんだ。あまりハッキリ言うのもはばかられるが、彼女は中学生にしては随分なポッチャリ系であった。つまり、食べてるのである。家でお肉たくさん食べてるからそういう体つきに落ち着いているのである。
 そんな事も考えず、男子は中村ちゃんのおかずを狙う。彼女もかなり内気な性格で、迫りくる亡者を払いのける事は出来なかったのだろう。あまりにいじらしい話ではないか。彼女も家ではお母さんに好きなメニューを作ってもらえていれば良いなあと、私は思うところである。
 もし私が中学校の教師になったら、きっとおかずのやり取りには規制をかける筈だ。もし私が総理大臣になろうものなら……いや、何も出来ずに辞任するのだろう。(了)

       

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