Neetel Inside ニートノベル
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シェンロン・カイナ
『01 病室にて』

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『病室にて』

「フゥーム」
 架々藤未流那(カカトウ ミルナ)は愉快そうな顔で少年を見やった。これから悪戯をするぞ、という顔だ。唇から覗いた八重歯がきらりと光る。
 病室のベッドに身体を横たえている少年は、見舞いの少女などいないかのように、窓の外を見ていた。
「私の考えを聞きたい?」
「いいや」
「聞かせてあげよう」ミルナは人の話を大抵聞いていない。
「私たちは、生まれながらにへんちくりんな超能力を持ってる。たとえば、手から魔法の糸が出せたり、水と空を超時空で繋いじゃったり、個人差はあるけど、それでも魔術みたいになんでもござれ。
 あのさ、それって、べつに特別なことじゃなくね?」
「そう思えるおまえの神経が俺にはわからんよ」
「ちょいちょいちょい。人を奇人扱いするなってのよ」
 こほん、とミルナは咳払い。手をうしろで組み、病室をぐるぐると歩き回る。
「私が思うに、君たちは、主人公と悪役をこの無意味な世界で演じようとしてしまったのだ。なんの理由も意思も介在しないつまんないこの世のど真ん中で、特殊能力なんて持っちゃった君たちは、自分能力の理由が欲しかった。役割、使命、意義。善悪は関係ねえの。ただ欲しがった。そんだけ」
「それが悪いと?」
「悪いとは言わないけど、誰も幸せにならなかったじゃん」
 言葉と裏腹にミルナの口調は明るい。
 そういった悩みとミルナの脳の間には、数万光年の隔たりがあるのだろう。何か革新的な変化が起こらない限り、ミルナは迷わない。
 ゆえに少年は敗北したのだった。
「いいも悪いもないってのよ。いいじゃん、どこからも能力者にしか倒せない敵が襲ってこなくたって。地球防衛軍のエスパー部隊の先輩が勧誘に来なくたって。実は神様の生まれ変わりじゃなくたって。友達が死んで覚醒イベントなんか起こらなくたって。
 君は君なのだから」
 とても難しいことをその少女は、簡単だよ、と言ってのける。
 少年は、ミルナのエメラルド色の瞳に揺らめく輝きを、ほんの少しだけ、うらやましく思った。

       

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