Neetel Inside 文芸新都
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夏の文藝ホラー企画
掌編/不明/不明

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6月30日
 ぼくは今日、日記を拾ってきました。道に落ちていたのをそのまま持ってきました。黒の表紙をしていて、中にはいろいろなことが書いてありましたが、文字が難しすぎて読めなかったです。けれど、落ちてたものを拾うとお母さんが捨ててこいというので、これはひみつです。

7月1日
 ぼくは今日、お父さんから難しい漢字がたくさんある辞書を借りてきました。これで、昨日拾ってきた日記のことを知りたいです。日記の字はとてもきれいで、たぶん女の人が書いたんだと思います。けれど、調べるのは難しいです。今日は11時までずっと机にすわっていました。けれど、『凶』という文字がページにたくさん書いてあるのを見ると、怖くなって寝てしまいました。

7月3日
 昨日はお父さんとお母さんと遊園地に行っていたので、日記を書くのをわすれてしましました。遊園地はとても楽しかったです。

7月5日
 最近、お父さんがこしが痛いと言っています。お母さんは年のせいだといって、お父さんのためにシップを買ってきてはってあげていました。お母さんはやさしい人だなと思いました。

7日6日
 お父さんの腰はまだ痛いようです。明日会社に行くはずでしたが、それは休むことにしました。たまにお父さんが家にいないときもあるので、少しうれしかったです。

7月7日
 今日は七夕です。お父さんの腰はまだ治っていませんでした。しかたがないので、お父さんにリンゴあめを買ってくると約束して、近所の天きさき祭りに行ってきました。
友達の光一君やそう也君と、りょう太郎とたくさん遊びました。とても楽しかったです。

7月11日
 お母さんが、最近台所のフォークやナイフがいくつか無くなっていることに気づいた。お母さんは僕に知らないか、と聞いたけど、知らないと答えておいた。お父さんの腰はますます酷くなり、病院に行った。今日は検査があるので帰らないみたいだ。

7月12日 
 お母さんはお父さんの検査の結果を聞きに、病院へ行った。今家では僕一人だが、夕食が作ってあるところを見ると、帰りは遅くなるようだ。ひとりはなかなか怖いので、いつもよりテレビの音量を大きくした。

7月14日
 お父さんは入院をするようです。お母さんはこのごろ病院へよく行くようになりました。僕も一人でいることが多くなったので、いつもよりたくさんゲームをした。

7月16日
 今日は家に帰ってすぐ、紳すけ君と遊びに行った。でも、僕はあまり紳すけ君が好きじゃない。紳すけ君はイタズラをよくするけど、かえるをつぶしてみやこちゃんの給食の中に入れたり、ぼくのせ中にへびを入れたりするからです。きょうも紳すけ君は、電車のレールに石をならべてあそんでいた。先生に危ないと言われているからやめようと言ったけれど、紳すけ君はまるで聞かないで、おまけに僕に先生に言ったらどうなるかわかってるな、といった。ぼくもしかたなく石をならべたけれど、たのしくなかった。

7月17日


7月18日

(ここから先、23日目まで破けている)

7月24日
 お母さんがびょういんから帰るにと中のでん車がだっせんしておかあさんはしんでしまった。あれはぼくと紳すけ君がならべたいしだった。どうしよう。あかあさんがしんじゃった。けいさつのひとは線路にくだけた石がふちゃくしていたので、だれかがいしをおいてでん車をだっ線させてしまったといっていた。どうしよう。ぼくがころしてしまった。

7月26日
 今日は、紳すけくんとけんかをした。紳すけくんは、ぼくがいしをならべたせいでおかあさんがしんじゃったねと、笑いながら言ってきた。ぼくは持っていたえんぴつで、紳すけ君の右目をさした。紳すけくんはいたそうにゆかでころがっていた。
ザマーミロ。

7月27日
 おとうさんがしんでしまった。びょういんからとびおりた。おかあさんもいないのにおとうさんもいなくなった。

7月31日
 紳すけのおとうさんとおかあさんがもんくを言ってきた。なんで紳すけにはおとうさんもおかあさんもいるのにぼくのおとうさんもおかあさんもしんでしまったんだろうか。
そうだ。紳すけがせんろにいしをならべたからだ。しんすけが悪いしんすけが悪いしんすけが悪いしんすけが悪いしんすけが悪いしんすけが悪い

8月2日
 しんすけのおとうさんとおかあさんのあしをきっていえにもちかえってきた。二人ともなにかいってきていたけれど、ぼくはかんけいない。自由研究のテーマが決まったので、あしたから二人の観察をしてみようとおもう。

8月3日
 しんすけのおかあさんのほうにごはんをあげた。ぼくの家でとれたムカデとゴキブリとネズミをつぶしてすりあわせたものだ。ぼくはしんすけのおかあさんにこれをぼくのおとうさんだとおもって食べてください、といって食べさせてあげた。しんすけのおかあさんはなきながらよろこんでくれた。あしたはしんすけのおとうさんとあそぼう。

8月4日
 しんすけのおとうさんのキンタマをライターであぶってあそんだ。しんすけのおとうさんはとてもたのしそうにさけんでいた。おかあさんのほうもないてないてなきながらわらっていた。ほかにも、ここでかききれないほどたくさんあそんだ。たのしかったです。

8月5日
 ひさしぶりにくろいにっきちょうを開いてみた。しんすけのおとうさんもおかあさんもこわれてうごかなくなってしまった。そのままふろばにおいておいた。けれど、ひるまはとてもあつかったのでふたりからとてもいやなにおいがした。まどをあけてかんきする。一週間ぶりのそとのくうきはうまかったです。

8月7日
 くろのにっきちょうに、おかあさんとおとうさんのなまえがかいてあった。お父さんの名前のしたには「まど」とかいてあり、お母さんの名前のしたには「いし」と書いてあった。僕の名前のしたには「ふろ」とかかれていた。なんのことかわからない。でも、あしたおふろにはいろうとおもう。せんとうにいきたかったけれど、ぼくの家はまちからけっこう遠いところにあるので、いくのがめんどうだからだ。おとうさんとおかあさんが生きてるときはよくいったのに。

8月8日
 おふろにはいろうかとおもって、おふろばにいったらしんすけのおとうさんとおかあさんがたちあがってた。ふたりとも目があかかった。ぼくをみるとずるずるとあるいてきたので、こわくなってへやににげた。いまにっきをかいてると中にもへやのドアをどんどんたたくおとがする。まどからとびおりようかとおもったけど、こわくてできませんでした。こわい。こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいおかあさんおとうさんたすけておかあさんおとうさ



「なんだ、これ…」
ゴミ廃棄場で拾った日記を開いた江田は、その奇妙な内容に悪寒が走った。
ページはいくつか破れていて、中には血のべっとりとついた部分がある。不気味な黒さの表紙とマッチしてとてつもなく気味が悪い。
しかし、何か心惹かれるものがある。江田には日記をつける習慣などなかったが、この日記を見た瞬間に何故か胸ポケットにさしているペンに手を伸ばしたくなった。
ペンを手に取り、黒の日記帳を開く。不思議と、先ほどまでページを埋め尽くしていた文字も、破れていたはずのページも、血がべっとりとついたページも元に戻っている。
しかし、江田はそんなことを不思議にも思っていなかった。ただ、早く家に帰り、今日あった出来事をこの日記帳に書いてみよう。そう思いながら、ゴミ廃棄場を背に小走りで自宅に向けて進んでいった。









 














       

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