Neetel Inside 文芸新都
表紙

夏の文藝ホラー企画
掌編/ペアルック/中田たかな

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 ほら、恋人とかできると誕生日とかに彼女とお揃いの物とかを買ったりするだろ?
 お互いの気持ちを共有できる品を身につける、そんな感じさ。
 そういう感覚の延長線上なんだ、あいつの悪癖っていうのは――

   *

 始めはお揃いの携帯のストラップだった。その3ヶ月後あいつの誕生日にペアリングを、とはいってもドン・キホーテに売ってるような安物だよ。それまでなら可愛いものだろ?
 だけどそこからはお前の知っての通り、自動的に坂を転げ落ちるようにエスカレートした訳だ。
 付き合い始めてから最初の俺の誕生日には、ペアのデザインのTシャツを貰った。派手なショッキングピンクの趣味の悪い奴だ。
 あいつには似合うんだが、如何せん俺には似合いやしない。
 それで俺が文句を言うと唇を尖らせるんだ。俺はそれに弱くてな。嫌がっていても結局甘い、その押しつけをなし崩し的に受け入れてしまっていた。
 その後はもっと酷かったよ。クリスマスにはあいつの持ってるのと同じワンピースとミュールを、1周年記念には髪型まで一緒にして化粧までさせられた。
 それが今じゃ日常化してしまって、休日に出かける時にゃ道行く人に姉妹と間違われる始末さ。
「服に髪型も同じ、それで来月には結婚か。全く、何もかも一緒になるんだな。大した奴だよ」
 はは、そりゃどうも。
「でも式まで1ヶ月だってのに、この時期に仕事辞めるなんてな。彼女、大丈夫なのか?」
 ああ、それは大丈夫。ハネムーンから帰ってきたら、あいつがこの会社で働く事になるからさ。社長も了承してくれたし。
「それで、ハネムーンはどこになりそうなんだ?」
 フィリピンさ。あいつのたっての希望なんだよ。
「また未来の嫁の我儘かよ。好い加減、キレても良いんだぜ?」
 あはは、でも僕も大分前からその日が来るのを凄く待ち望んでいたからね。全然、大丈夫さ。


   *


 そんな会話を交えた一ヶ月後、彼は新婚旅行のフィリピンへ行ったきり行方不明になってしまった。
 無事に帰ってきたその嫁は戸籍を入れて7日にして未亡人になり、いなくなった彼の代わりに入社してきた。彼女の話によればフィリピンで手術を受けた後は消息がわからないらしい。
 あえて何の手術だったかはプライベートの事なので聞かなかったが、「お願いですから彼の事はもう聞かないでください」と陰りを見せて言う彼女は、いなくなった彼と瓜二つで、童顔な顔も、髪型も、声も、時折見せる仕草も本当にそっくりだった。


       

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