Neetel Inside 文芸新都
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夏の文藝ホラー企画
掌編/夕焦がれ/53

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 粉塵にまみれながら片手に湿布を持って歩いた。
足は間も変わらず、ずきずきする一方で。
三月にしては暑い太陽の光が私の髪と肌を焦がしていく。

 一昨日国立大学後期結果が出た。
私立も落ち、前期も落ちて地獄だった私は一気に天国に召された。
自分でも勉強してないのはわかっていたし、うかるとも思ってなかった。
それはそれで嬉しいが友人知人の態度はその日かれら急変した。
合格をしていた友達は後期の私を良かったねの一言で片付け、
落ちた友達は裏切り者の目を向けた。
知人は一気に高校合格と同じ態度になった。
さて、誰が素直に喜んだのだろう。私だけか。
 はっきり言って高校時代の成績は後ろから数えてすぐだ。
それを知っている友人は疑いの目を向けて当然だ。
神様が居るとして、私に大学合格の代わりの対価交換を承諾無しに契約させたみたいな状況だ。
日本では成立しないが神様には逆らえない。
ずきずきと足首が痛む。
合格発表の辺りから痛み出した足は昨日悲鳴をあげ、接骨院に行くこととなった。
それが、治療終了後に何故か携帯が繋がらず、
足を痛めているのに、充電し忘れた自業自得で家まで歩いて帰ることとなった。
 ふと、帰り道におじいちゃんのお墓がある墓地の横を通ることに気がついた。
湿布と共に前後に揺れている左手の数珠がまるで生き物のようにつやつや輝いた。
 おじいちゃんは私が高一の時に弱りきって死んで行った。
糖尿病で一時期超肥満体型だった身体はベットと同じ色をして枯れ木みたいに細かった。
死ぬ前日に危篤と知り、家族全員で病院に行った私は手を握ってぞっとした。
初めて、初めてこんな細いおじいちゃんを握った。
………その次の日の朝におじいちゃんはいなくなった。
その後の火葬場で壷におじいちゃんの骨を詰める時、
私は家族親戚の目を盗んでおじいちゃんの骨の粉を飲み込もうとした。
永遠に私の中で生きていて欲しいと思ったからだ。
でも、出来なかった。唾を付けた指におじいちゃんの骨は付かなかった。
さらさらと指先を撫でるだけだった。

 おじいちゃんの墓へは久しぶりの訪問だ。
正月以来。
湿布しか持っていなかった私は手で墓石の砂を払いのけ、
誰が活けたかわわからない花の水を換えた。
それが終わると数珠を持って手を合わせ、
―お久しぶり、奈央です。なんとか国立大学に入れたからご報告ー。
つっても、帰り道で手ぶらで申し訳ないんやけどね。
じいちゃんが力貸してくれたおかげやと思う。ありがとう。
そう心の中で唱えると、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。
じいちゃんの墓に背中を預けてすっと目を閉じた。
 墓石は暖かかった。
日差しに当たっている髪の毛はブローし過ぎたみたいにパリパリで赤茶になっているのに、
身体は生暖かいゼリーに包まれたよう。
湿布が冷たくなくなるなぁなんて思いながらうつらうつらと夢の世界に飛び立とうとしていた。
 その瞬間、ぽつっと水が頬に当たった。
雨が降るなんて予想だにしていなかった私は跳ね起きた。
空は依然快晴だった。
お天気雨か、と思うとおじいちゃんに濡れると困るから帰るね、と言い、
湿布を抱えてその場を離れた。
 帰り道、どこからか夕御飯の匂いが溢れて、早足に更に加速が加わり、
そのおかげか、家には濡れることなく帰れた。
途中知らないおじさんが道を尋ねてきて、お礼に飴をくれた。
小学生の時不審者みたいな人がくれたよなと思いながら、
舐めたそれは、薄いハッカのような味気無さを持っていた。
その後、家に帰ると、
「ちょうど夕御飯よナイスタイミング。」
と言われた。
結局、雨は降らなかった。
足の痛みと共に貰った飴の包み紙はポケットに入れたはずなのに無くなっていた。
どこかで落としたんだろう、そう思った時、胃からずくんと何かが血管に行渡った。
家族に今日おじいちゃんの墓に寄り道してきたと言うと、
今あの墓地は駐車場の建設中でその道からは入れなかったでしょと
訳のわからない事を言われた。

       

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