Neetel Inside 文芸新都
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リセットロケット
プロローグ、リセットロケット

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 私のお母さんから聞いた話によると、昔人間はこの空の下に広がる大地の上に家や街を作って生活し、それによって発展した大小さまざまの国が繁栄をきわめていたらしい。
 私はお母さんに「それは本当なの?」と尋ねたけど、「私も私のお母さんに聞いたことだから、あまりよくわからないの。ごめんね」と返されるばかりだった。恐らくお母さんも私と同じような質問をして同じように返されたから、そうとしか答えられなかったのだろう。
 お母さんは話を続けた。
 国々はしばしば宗教や価値観の違い、利害関係などから争いごとを起こしたりして多数の死者を出したりした。しかし地上の人々が滅んでしまったのは、そのような自業自得な因果によるものではなかった。それは酷くシンプルなものだった。
 巨大生物の襲来。
 体長はおよそ五十メートル、大きなものではゆうに百メートルを超える。岩石のようなごつごつした皮膚、それらが無数の節で繋がっていて、先端にある大きく裂けた口であらゆるものを捕食する――人々はその恐怖の権化を「ドラゴン」と名づけた。
 ドラゴンは、突如地中から人間の住む世界に現れ始めた。家畜を食べ、他の凶暴な生物をも喰らい、そしてついに人間すらその餌食となった。
 いがみ合っていた国々もこのときばかりは互いに団結して、凶悪なドラゴンに陸海空の戦力をもって対抗した。しかしドラゴンは戦車の砲弾を弾き、戦闘機の爆撃にもものともしなかった。そして絶望的に数が多かった。
 結果、知性をもった人間は、ただ圧倒的な力と数の前に敗れ去った。
 しかし人間もただでは終わらなかった。地上をこの粗暴という言葉を体現した生物に明け渡す代わりに、自らは空に逃げて種の存続をはかろうとした。ある一定の軌道上を周回し続ける、ロケットに乗って。また再び人類が地に足をつける、その日を願って。
 そのロケットは、「リセットロケット」と名づけられた。


 

       

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