Neetel Inside 文芸新都
表紙

リセットロケット
一、ガーガーシュリッカ

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 人間たちは空に逃げてきたまではよかったが、そこでも新たな脅威が発生した。
 生活環境の急激な変化が引き起こす、未知なる病。かかった者をほぼ確実に死に至らしめるほどの凶悪な風邪が、数百年前から人々を苦しめていた。
 それによってあるロケットでは生存者が数人まで落ち込み、またあるロケットは死に絶え、永劫に空を放浪する不可触の廃墟となった。
 そしてこのロケットでは、生き残った者はたったひとりになってしまった。
 私の名前は、ガーガーシュリッカ。
 このロケットの唯一の生存者。


 私が目を覚ますと同時に、私の中の二日酔いが激しく蠢き始める。私はベッドから転げ落ちるとともに、豪快に頭を床に打ちつけてしまった。鈍い痛みと鋭い痛みが頭の中で徒競走をしている。脳味噌を何周かしたところで彼らがバテてきたので、私はようやく言葉を呻き出すことができた。ファック。
 憂鬱な朝が始まる。
 私は何とかこの不快な気分を静めようとあれこれ考えるが、結局迎え酒をするという安易な解決法に落ち着いてしまう。新たにウイスキーの樽を開け、コップについで、氷で割って飲む。
 喉の渇きも癒え、痛みも治まってきたところで再び睡眠への欲求が湧き上がってくる。私はテーブルに突っ伏して、それを甘んじて受け入れる。
 これが私の生活。
 本当にどうしようもなくなった時は、誰もがこんな生活をするのだろうと思う。実際どうしようもない私はそれを地で行っている。思うに、私みたいなのがこのロケットの最後の生き残りでよかったのだ。結局誰が生き残ろうと、たいした差などないのだから。
 私はまどろみながら、そんな悟ったような事を考える。
 私の意識は酷く濁った荒波の間に沈んでいく魚の死骸のように、安息を求めた。それを遮って、船内スピーカーが震えた。
「おーい、リッカ、生きてるか?」
 私の耳に私以外の声が聞こえるとするなら、それはライトニンライドの声だ。
 しかしその声は私に認知されはしたものの、私の意識を包み込むどろりとしたまどろみを拭い去ることはできなかった。私が深く眠りを求めようとすると、その持ち主の人となりが分かるようなひょうきんな声がおちょくりを始める。
「リッカ、どうしたの? まさか死んじゃった? エーンエーン、リッカが死んじゃったよう。思えばあいつも嫌なやつだったな、一日中酒に酔っては愚痴ばっかりして。本当にいなくなって清々した……じゃなくて、オイラは悲しいよ。エーンエーン。あ、でもあいつのことだから化けて出てくるかも。成仏できるようにお祈りしておこう。アーメン」
 私は噴き出しそうになった。彼はいつもこうやって私の返事を待とうとする。心地のいい眠気は、もうどこかに吹っ飛んでしまっていた。
 私はふざけた彼に一泡吹かせようと、ふらつく足取りで操縦室の通信機へ向かった。


 

       

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