Neetel Inside 文芸新都
表紙

死を覚悟するほどの胃もたれ
シェルティ②

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 翌日、シェルティは無残な姿で発見された。頭と胴体は切り離され、二度と戻らなかった。村雲幸彦の家族はそのことをひどく悲しみ、簡単な葬儀を行った後、警察に届けを出した。
 幸彦は微塵も悲しまなかった。あの生意気な犬が死んだところで、知った事ではない。むしろ、散歩という仕事が減って助かるくらいだ。
 しかし、気がつくと幸彦は部屋の壁を何度も殴っていた。手が腫れ、血が出るくらいに。腑に落ちないのだ。何故、あの犬が殺されなくてはいけなかったのか。悲しみの代わりに、怒りが彼の頭を包み込んだ。

 ペットの不審な死はその後も続いた。幸彦の住む地域で3件発生した。犬、猫、犬。皆一様にシェルティと同じ姿で発見された。警察は本腰を入れ捜査を初め、全国ネットのニュースでも取り上げられた。
 被害にあったペットは小屋の中で死んでいて、朝飼い主に発見された。傷口にはのこぎりで切られたような跡があった。

 幸彦は近所を歩き回った。犯人を見つけるために。シェルティのことは今でも決して好きになれないが、事の始末はつけてやりたかった。
 気がつくと、幸彦は川原に来ていた。シェルティと一緒に来た、あの川原だ。誰もいないだろうと思っていたが、そこには先客がいた。

「こんにちは」
 そう声を掛けてきたのは、二十代半ばくらいの若い女性だった。短く切り揃えられた黒髪が、白いブラウスによく映えている。この辺りではまず見ない顔だった。
「こんにちは」
 幸彦は疑いを持って挨拶を返した。不審な見た目ではないが、時期が時期だ。警戒するに越したことはない。
 女性は昨日幸彦が座っていた石に腰掛けていた。そのことが、幸彦をたまらなく不安にした。
「ねえ、今日はあの可愛らしいワンちゃんを連れてないの?」
「……なんでそんなことを聞くんですか?」
 予期せぬ言葉に、幸彦は身構えた。
「だって昨日ワンちゃんとここに来てたじゃない。対岸にいた私には気づかなかった?」
「あ」
 帰り際に見た女性。あれがこの人だったらしい。
「私、あの犬種が大好きなの。今日も来るかなあって思って、ついこっち側に来ちゃった」
「……あいつは死にました。今流行りのペット殺しにやられました」
 その言葉に、女性は表情を曇らせた。
「ごめんなさい。そうだったの」
「いえ、別に。俺はあんまり愛着がなかったので」
「その割には今日もここに来てるのね」
「……」
 幸彦は何も言わなかった。
 風が強く吹いた。

「あなた、犯人じゃないですよね?」

       

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