Neetel Inside ニートノベル
表紙

アナタの神様なんていうの
結成

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 *対話の園 案内書き*

 今、日本は未曾有の危機に包まれて、いません。
 大災害も無ければ、原因不明の病理に犯されているような事も、ありません。
 では、この日本に何の問題があるのでしょうか?
 その答えを今、貴方は持っているのでしょうか?

 私たちの団体は、あらゆる観点からその答えを探していく、
 ……いえ、探していこうとするその動機が出発点の団体なのです。
 もし、貴方が言いようも無い不安に襲われていて
 その答えや、生き方、動機などを探して行きたいのであれば
 一度お話をして見ませんか?

 無名神は、いつでも貴方の覚醒を待ち続けています。





 1





「宗教団体を作らないか?」
「あ?」

 じわーりじわーり、と蝉も愛の歌を歌う夏。
 家賃とか、食費とか、光熱費とか、光熱費とか、光熱費とか、そういったものも汗伝うような、夏。
 ぴんぽこ間抜けに鳴り出した扉を、はいはーいと汗水流して開いて見たら、宗教団体の響きがあった。
 思わず、「あ?」なんて聞いてしまうけれど、あ? ってなんだよ。というか宗教団体ってなんだ。というかこいつは誰なんだ、いや知り合いだ友達だ仲間だ。高校からの付き合いだ。宝田正平、大学生。僕とは違う大学に通っている大学生。
「何を言ってるんだ、お断りしまう」
 やや甘噛みしつつも扉を閉めようとすると、昭和懐かしい強引なセールスマンよろしく足を扉に挟まれて閉めることが出来ない。
「いやいや、話きこうよ。おいしい話だよ、どのくらいおいしいかって、それはそれはおいしい話だ」
「説明になってないぞ…!」
 躊躇なしに、力強くドアノブを引っ張るが、僕よりも体格のいい宝田は、力任せに扉の隙間を作り、既に体半分を間に滑りこませていた。胸板を過ぎるとどうやっても扉を閉めることが出来ない。でも、やめない。なんとなくだ。
「いたっ、いてえよ! 落ち着けよ! 悪い話じゃないから!」
「だから、僕は入信なんかしねえって言ってるんだ」
 宝田は体の大半をドアの内側に滑り込ませていた。諦めて扉を開けてやると、息も絶え絶えに、小さくイテェよ…と儚げに呟いた。何故だか笑える。
「だれも、宗教に入れなんていってねえよ」
「じゃあ、どういうことか説明してから入れよ」
「入れなかったろうが」
「今入れてるだろ」
「ああ、糞、禅問答かよ……とりあえず、あがるぞ」
 そういうと、宝田は勝手知ったるなんとやらという調子に部屋に入り込み、部屋の中央にある座椅子に座り込む。その椅子はこの部屋に転居したときに買ったお気に入りなのだけど。安いが黒い皮で出来ていて、おまけに回転するのだ。中学時分にこの椅子に出会っていたら、帰るたびに社長さんごっこなどと言って遊んでいたかもしれない。……まあ、自分で想像してもぜんぜん可愛くは無いのだけど。ましてや宝田など
「かわいくねー」
「あ? なに。」
「いや、こっちの話。で、なんだよ宗教がどうとかってさ」
 話題を振ってやると、待っていましたと言わんばかりに輝きだす向かいの顔を見て、どうせろくでもないことだろうな、と予想できた。
「そうだ、宗教団体を作ろう!」
「そんな、京都に行く感じには作れるもんじゃねえだろ」
「いや、京都行くよりも簡単なんだよ宗教作るなんてさ」
「それは冗談にしたって言いすぎだ」
 会話にしても、なんだか深夜の通販番組のようだななんて思うのだけど。会話が脱線して、面倒な風になっても困るからなあ。まあシュールだが、許容範囲内だ。
「まあ今すぐになんて言う訳じゃないがな、でもすぐ作れるのは本当だ」
 得意満面にいう宝田の顔を観察する。
 その自信があふれ出ている顔から少し前……大体二年から三年ほど前のことを思い出した。

 宝田と知り合ったのは、バンドだった。
 その当時僕は、モテたいけど運動部ではレギュラーとれないだから軽音楽部へ! みたいな軽い衝動から、軽音楽部に所属していた。
 もちろん、本気でやっていた……わけではない。モテたい、という動機から音楽にのめりこんでしまう人間もいるように、モテないから音楽に失望してしまう人間だって居るのだ。はじめた理由も不純であれば、諦める理由も不純を通り越して、不憫だった。
 宝田も同じようなものだった。
 ギターにもドラムにも、ベースにも触れず。備え付けのアンプの種類さえわからない宝田は軽音楽部の部室の端っこで、たけのこの里を頬張っていた。
 ああ、旨そうに、満足せず食っていた。
 落ちぶれた者同士、仲良くしようとするのは別に悪いことじゃない。ちらりと、典型的な天才主人公を苛める、嫌な上級生の像をみた。ああいった輩は、こんな風にして自分の居場所を探していたのだろうか? そう思いつつも僕は宝田に声をかけた。
 宝田は、僕に声をかけられても、最初何の興味も示さなかった。始めから、僕と同じように落ちぶれていた宝田は、この空間というものに、そしてそんな所に居る自分に対して嫌気が差していたのだ。自分と、そのほかの連中をやんわりと呪っていたのだろう。
 いや。
 今、冷静に考えると宝田は違うのかもしれない。
 宝田は始めから軽音楽部という部活に、ギターを、ベースを、ドラムを、キーボードを、ポップソングを、ロックを、アコースティックを、ジャズを、求めていたわけではなかったのだ。
 こいつはその時、何かを探していた。
 それが何かということは僕にはわからない、言葉にすることが出来ない。しかし、実体のない像はぼんやりと僕の目の前にある。
 声をかけた当初僕はそのことを知らなかった。
 そもそも、宝田に関して落ちぶれたなんていう表現は過去を回想する以外に使いたくない。
 今の宝田を見ても、過去の宝田を見ても、こいつはまったくすっぱり、落ちぶれてなんかいなかったのだ。人よりプライドが高く、野心家である点を過去の僕には気づくことが出来なかったのだ。
 その後、僕がどういった境遇に陥ったのかはまたいずれ語る機会があるだろう。
 とりあえず、この男は人を使うことに長けていた。
 そして、今日何かを思いつき僕に協力を求めてきたのだろう。まあ協力というよりも、はっきり言って利用なんだろうとも思うけど。
「というかな、僕が聞きたいのはそこじゃねえんだよ」
「なんだよ」
 クーラー勝手に付けるなよ。
 いやいや、それでもない。
「なんで、宗教団体をつくろうなんて思ったんだ」
「ああ、動機? んー…強いて言うなら、有名になりたいってことかな」
「……そんなわけ無いだろ」
「あ、わかる? ホントはね、金持ちになりたいのよ」
「そんなの僕だってなりたいさ」
「だろ?」
「だから、そんな途方も無い事を聞いてるんじゃないんだって。宝田自身は、それをやってどうなりたいんだって話」
 核心に迫ることをちょっと凄んで言ってみるが、当の本人は転がっていた僕の団扇とエアコンで、部屋の涼しさを堪能している。殴ってやろうかとも思うが、宝田はこういう奴なのだと、いつものように諦めた。
「今度は何がしたいんだよ」
「お金持ちになりたいのは本当さ」
 シャツを捲って団扇を仰いでいる姿に多少苛立ちもするが、宝田の表情は先ほどよりも真剣だった。もちろん些細な違いであって付き合いの長い僕だからこそ判る変化だったのだけど。
「お布施でも、ぼったくるのか?」
「いや、そんな判り易い事がしたいわけじゃないさ」
「お布施とかが一番楽だろう?」
「あのな、お布施なんて人数がいて、戒律、経典、教え、カリスマが揃った時に初めて出来るものだ。現時点でパっとお金持ちになれるわけじゃない。」
 まあ、判っているけどね。
 というか誰だってわかる話だ。
「じゃあ、何をするんだよ」
「共同生活さ」
「共同生活?」
「そう、共同生活だよ。ひとつの村を作るんだ。その中で内部需要を貨幣じゃない形で円滑に廻す」
 内部需要を、貨幣じゃない形。
 つまり、金に変わる何かで村を作るって言うことか。
 そんなことは出来るのだろうか? 必要最低限の生活だとしても人間には衣食住は絶対必要だ。ああ、なるほど、つまり住を此方で用意する代わりに、衣食をみんなで作りあいましょうって事なの…か? ちょっと判りにくい。つーか判りにくく言うなよ。伝わらねえだろ。僕とか、ほか、もろもろに。
「なんだか言ってる事が難しいな。つまりあれか、弥生時代あたりの生活をしようってことか」
 確認するように尋ねると宝田は団扇を叩いた。拍手の代わりだろうか。
「そう、それだ」
 テクノロジーの蔓延る現代で、そんなことする奴いるのかね。
 なんとも馬鹿げた話を聞いてしまったものである。それに、それが宗教と金とにどうやったら繋がると言うのだろうか。
 突飛押しも無い話にしたって、ちょっと行き過ぎだと思う。
「で、それがどうやったら金に結びつくんだ?」
「いや、金には繋がらない。だけどな、大切なものは手に入れることが出来るんだよ。金に一番近いものだ。」
「何だよ」
「マンパワーさ、人がいれば金は実を結ぶ」
「けど人が幾ら居たって金には結びつかないことだって、あるだろう?」
「最初はそれでいいんだ。そうじゃない、大切なのはその後どうやって方向性を決めてやるかなんだ。もともと利益を欲しないという条件があれば、人というものは集まってきやすい。なぜかというと、そこには金という名の呪縛が存在しないからだ。もちろん、ここで言っている人というのは、若い人間のことだ。利益権力を欲するおっさんおばさんは必要ない」
 ご高説を、矢継ぎ早に述べる宝田だが、僕はいまいち納得することが出来なかった。どうしても途方の無い話のように思えてしまう。人を集める? それに宗教が必要? 馴れ合いに集まるだけでは駄目なのか。そういった考えが堂々巡りに頭を駆け回り、最終的には面倒だ。と思えるようになった。
 だが、言っていることは途方も無さ過ぎて逆に面白い。
 僕は意地悪に質問を投げかけることにした。
「それで、どうやって人を集める」
「ネット、または人海戦術だ」
「地道に、か。それはまたアナログだな。」
 ネットというデジタル媒体なのにな。なんて、上手くも無ければ面白くも無い。
「まあそこら辺は得意分野だからな、うまくやるさ。しかし、今まで話した中に実は問題点がひとつある」
「言わなくても判るさ。…金だろう? 先立つものが無ければ何も出来ないからな」
「半分正解だが、俺が求める答えは別だ。人だ、幹部クラスの人間が足りないんだよ。金なんてのは働けばどうにかなる。最初の資本金の用意は確かに大変だが、出来ないわけじゃない。俺たちは一応、大人になったんだからな。」
 過去の僕たちに対するあてつけのように、宝田はその言葉を言った。その通りだとは思うが、僕は参加するなんて一言も言ってないぞ。
 でもこいつの顔は、『もちろんここまで話したのだから参加しないわけ無いよな』と、僕の参加を疑っていない。
「なあ、宝田最後にひとつ教えてくれ」
「なんだ? 教えることはたくさんあるぞ」
「違う、参加表明として受け取ってもらってもいい。だけど、そのためには絶対にきかなきゃいけないことなんだ」
「そう、改められると怖いな」
「……、お前はまた、トップになるつもりはないんだな?」
「……ああ」
 堂々とした表情で宝田は告げた。
 僕の参加を疑っていない宝田と同じように、僕も宝田の行動を信じている。だから僕が言うことなんて決まっていた。
「わかったよ、ならいい。また付き合ってやるよ、お前の途方も無い作戦ってやつをさ。何がしたいのか、どうなりたいのか、いまいちよく判らないけども。それでも、お前がノビノビやれるっていうなら、僕に断る理由は無いもんな」

       

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