Neetel Inside ニートノベル
表紙

夕暮れの魔法使い
第一話

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太陽が半分ほど沈みかけた夕暮れに

僕は――魔女に会った。





第一話




何処にでもあるような、何の変哲もない高校の一教室
まどろみの中で教師の熱弁が聞こえてきた。

「この様に、中世では魔女狩りと言って他宗教の人間を火あぶり等にかけていた訳だ・・・全く信じられん事だ!!」

どうやら教師はこの範囲が専門なのか、教科書に載っていない事まで熱く語りだしている。
――もうひと眠りするか

僕、枯野恭一は別段不真面目な生徒ではない。だが、どうしても歴史の授業だけは好きになれず、睡眠に当てていた。
そのせいか世界史はおろか自分の国の歴史すらなんとなくでしか知らない。

枯野がもう一度机に顔をうずめようとすると、声がかけられた。
「ほんっと恭一は歴史だけは不真面目だよな」
「そうそう、まぁそう言う純一は全部不真面目だけどね!」
「うるせーなー志乃みてーに頭良くないんだし仕方ねーだろ・・・」

後ろで夫婦漫才のような掛け合いをする二人は、斉藤純一と浅井志乃
中途半端に目を覚まされた僕は、二人の会話に参加することにした。

「ところで恭一知ってるか?」
「ん、何を?」
「いや、先生の魔女狩りで思い出したんだけどさ・・・」

僕はこの日、この話を聞いてしまった事を、深く後悔することになる。

いつも通り寝ていれば良かった。そうすれば、そうすればいつもと変わらない日常だったハズなのに・・・

いや、むしろ僕は心のどこかで望んでいた、いや"理解していた"のかも知れない。変わらない日常なんてなく、この世界は不思議に満ち溢れているという事を。

純一はもったいつけるように間を置き、口を開いた。

「・・・夕暮れの魔女の話さ」

教壇では相変わらず、教師が歴史のネタを語っている。

     

第一話 中

放課後になり、生徒たちが部活へ向かう中、枯野はバイト先に向かっていた。

枯野恭一は部活に所属していない。
片親な為に、生活費を自分で稼がないといけず、その為に週の大半をバイトに費やすからだ。

「今日は駅前でバイトか」
バイトの細かな予定が記されたメモ帳を開き、今日のバイト先を確認した時ふと、枯野の頭に授業中に純一が話していた話を思い出した。

「駅前の廃ビルって知ってるか?」
「ああ、今度コンビニになるだよね」
「夕方にそこの3階から夕陽を見ると、魔女に会えるらしいぞ」
「何よそれ?都市伝説?」

怪談の類が嫌いな志乃は怪訝な顔をして反応をした。

「いや、まーたぶんそんな感じなんだろうけどさ、バイトの先輩が話してくれたんだよ」
「でもその分だと誰か試しに行ってそうだね」
「いや、先輩も試したらしいが・・・なぜか行けないらしい。」
「何それ?どういう事?」
「ああ、例えば転んだり、急に電話がなったりでたとえついても日が沈んでるらしい・・・まぁ先輩が怖がらせようとしたのかもしれないけどな」
「ふーん、まぁ私はどうでもいいや、怪談嫌いだし!」

そうこうしてる内に、騒いでいるのに気付いた教師がこちらを睨み出したので、三人はそれぞれ前を向きなおした。
結局話はそこで終わり、僕はまた眠りの旅へ出たのだが・・・

「魔女・・・ね」
どうせ何も無いだろう。
しかしなんとなく、枯野は気になってしまった。
別段自分の目で見たモノしか信じないわけではないのだが、何か惹かれるものを感じていたのかもしれない。
「バイトが終わるのが5時30分、まぁ行くだけ行ってみるか」
まだ見ぬ魔女に、少しの期待をのせて、枯野はバイトへと向かった。


噂の廃ビルと、枯野が働く店は結構近い。
駅前の、人が混雑する通りを挟んで向かい側なのだ。
近いうちに廃ビルは取り壊され、コンビニエンスストアになるらしい。大方取り壊される事を聞いた誰かが作り話を作ったのだろう。枯野はそう心の中で結論づけながらも、どことなく期待していた。

バイトが終わり、廃ビルの前に立つ。
                                    「ヤメロ」
少し、寒気がしたが、枯野は怪談を上っていく。
                                  「ヤメテオケ」
電気がついておらず、薄暗い階段を上る中で
別段第六感に優れている訳ではない、
にも関わらず、枯野は予感していた。
                                  「イイノカ?」
自分を"何か"が待っている感触。
気づくと三階の、今は使われていない
旧オフィスに通じる扉の前についた。
ドアノブに手をかける
                                 「モドレナイゾ」
「ああ、それでいい。もう日常には飽きたよ」
僕は何かを確信して、ドアを開いた。そこには――




















――何も、無かった。







     


ドアを開けると、方角的な理由か、窓から差し込む夕陽の光を真正面に感じ、枯野は思わず目を細めた。

やがて目が慣れてきて、枯野は目を開けて辺りを見渡した。

「ああ、少し暗いな」
そう感じドアの付近にある電気をつける。
そして改めて辺りを見まわし、しばらくして肩を落とした。

「何も無いじゃないか・・・」

そう、何も無かった。

正確には今は使っていないであろうオフィス机がいくつかと、古ぼけたソファーがあるのだが、他には何もない。
奥の壁は窓ガラスになっているのか、外が良く見える。

枯野が息をつくと、ソファーの上で何かが動いた。
もしやと思い、枯野は目をそちらに向けたが、またもや肩を落とす事になる。

「猫か」

ソファーの上には黒猫がいた。どうやら人が使わないこの廃ビルを住処にしているのだろう。黒猫は一瞬こちらを見たが、興味が無いかのようにそっぽを向き、ソファーに寝転がり出した。



「無駄足・・・か」
分かっていたとはいえ少しは期待していた枯野は、落胆した様子で振り返り、部屋から出ようとドアノブに手をかける

「・・・あれ」

何か違和感を感じる。頭の中に純一の言葉がよぎる
(ついても日が沈んでるらしい)
(少し暗いな)

頭の中でビルに入ってからを回想し、ようやく気付く。
僕は入ったとき、何に目を細めた?

そう、"夕陽の光"に目を細めたのだ。
しかし目を開けた時には暗くなっている・・・
枯野は腕時計を確認した。
「5時・・・45分」
この時期の日の入りは6時過ぎ、つまりまだ沈んでいない筈だ

枯野はバッと振り返り、枯野は驚愕した。

「夕陽が・・・出てる?」

さっきまでは薄暗かった部屋が、窓から差し込む夕陽でオレンジ色に光っていたのだ。

それだけではない。

先ほど猫が寝転がっていたソファーを見直して、枯野はもう一度驚く。

猫が、人になっていた。

ソファーを凝視し、愕然としている枯野に、猫いや人が口を開く
「貴方・・・私が見えるの?」






それが、僕と魔女との出会いだった。









――――――第一話 了

       

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