Neetel Inside 文芸新都
表紙

臭い女とババア
2、竹と田

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 久しぶりに同世代と話したりする飲みは楽しい事この上無い、はずだったのだが。案の定と言えばそうなのかもしれない。あまり気の合わない女だと思っていた主催者の斜め前に座ったのがダメだったのか、ぐちゃぐちゃと文句を垂れ流す女に相槌返しマシーンと化した私。どうでもいい。好きな男に近づくために飲みを主催して、その横に座ったのはいいが、嫌いな女に横取りされたって事をその女の近くで不機嫌に喋る女に小学校でも帰れと言いたくなる。大体そんな目的ならその男に直接メールでも何でもしろよと言いたいがぶち壊しになるから我慢。自分が中心で世界が回っていると思いたいならもう少し整形してからにしろと悪態を付きたくなる。大人しく話しを合わせてやけ食いとやけ飲みをした。勢いをつけてポン酒を手酌で飲む私は恐ろしい女に見えているかもしれない。金払っててめぇの愚痴聞きに来たわけじゃねぇんだよ糞アマ。
 ちょっとトイレと笑って立ち上がって、入り口間際に居る酔っ払った男にごめんなさーいと笑いながら軽く蹴りを入れて逃亡する。久しぶりに来たサークルの飲み会は総勢30人程の大所帯で居酒屋の一部屋を占拠している。完全に酔っ払った数名と色目を使う女とそれに乗りかかる男。大声が至る所で響いて、これに合わせるにはもうちょっと酔わないといけないなと溜息をつく。トイレでメイク直しに何十分もかけてやろうかと思ったけれど、女子トイレの前で友達と立ち話をする。ビール瓶でも持ってくれば良かったと開放感に笑った。
「またアヤ変な位置座っちゃって」
「そっちもでしょー、お互いご愁傷様」
 笑いながら自己中心女の文句を言って、ストレス発散する。女同士ってこういう悪口があって面倒くさいが、今日はイラついていたから有難い。男子、女子トイレ入り口の間の壁に寄りかかって喋る。二人とも程よく酔っ払っているから声も自然と大きくなって、コンスタントにしーっと注意しあう。彼女から漂う甘い香水の臭いと酒臭い口臭が心地よい。トイレの前で二人で話していると、佐竹先輩が近づいてきた。
「お前らこんなトコで話してんのかー、女の子居なくなるとむさ苦しくなるだろーが」
「えー知らないですよぉ。二人くらい良いじゃないですかーガールズトーク中ですー」
「ねー」
「何なんだよー、俺も混ぜろよー」
「えー、先輩ガールじゃないでしょー、お断りー」
 私が適当な相槌しか返してないのに、彼女はきちんと先輩と会話をしてくれる。身長の高い先輩に上から見下ろされながら私は笑顔を心がける。先輩が来たせいで甘い香水とお酒の香りが漂う場所に男臭いのが混ざる。男の制汗剤と煙草の臭いが、急に混じってきて気持ち悪くて、鼻を啜る仕草をして手首の香水の臭いを嗅いだ。ムスクの臭いがして、落ち着く。
「お断りてお前ー……、そういやさ、キヨ別れたんだって?」
「ちょっとー先輩超ーむしんけー!」
 彼女はにこにこ笑いながら私を抱くように盾になる。今まで仲間だと思っていたのに、何となく繊細な部分への抉り方の薄っぺらさに彼女に嫌悪感を抱く。一挙手一動に好き嫌いが分かれて面倒くさい女だと自分を思うが、まぁいいやと酒のせいにする。そんなに仲良くない人に無神経とか言われる筋合いは無いし、そんな言葉を仲間意識のために使うお前が無神経だ。先輩は、ごめんごめんと笑いながら、全然悪びれた様子無く私の顔を覗き込む。
「キヨ長かったもんなー、入ってきた時から彼氏持ちとか喧嘩売ってんのかと思ったぜ」
「別に喧嘩は売ってないですよー」
「喧嘩ってー」
 彼女は自分の話題じゃなくなったからか、喧嘩ってーと言い残してトイレから出てきた男と皆の居る部屋に戻って行った。先輩と二人きりになって、先輩は私の横に手を付いた。何か閉じ込められているみたい。
「キヨ、フリーなったんだからさ、飲みとかもどんどん参加しろよなー」
「そーですねー、ま、だから今日来てるじゃないっすか」
「まーなー」
 先輩はぽんぽんと私の髪を撫でた。何度もカラーリングして細くなった髪の割れ目に先輩の手が触れる。上目遣いに先輩を見つめると、先輩は顔を近づけてきた。煙草の臭いが近づく。
「何ですか?」
「はー、お前は……。今度俺ん家で宅飲みすんだけど来るか?」
「先輩おごってくれますー?」
「宅飲みくらいはおごってやるよ」
 なら行きまーすと返事をして、先輩の拘束から逃れて部屋に戻った。キスでもする気だったのかなとあの距離感を思い直すが、大声で話している男の間に入って傍にあったビールを一気した。五月蝿い男達はダサい一気コールをしてくれて、私は飲み干したジョッキを卓上に音を立てて置いて歓声を浴びた。

     

 ビールを一気して、男達のところに入った。元の場所に戻るのは嫌だったから、ちらりとそっちを見ると自己中女といつも一緒に居る女の子一人が傍に居る形になっていた。可哀想だけれど、こんな場で不味い酒を飲みたくはない。
「ちょっと全然飲んでなくない!?」
「飲んでるっつーの!」
「うーん、じゃあ皆でポン酒乾杯しよーよ!」
 店員を呼んでお銚子を10本頼む。一人一杯を持って乾杯と声をあげた。こいつら全員潰して遊ぼうと新たな遊びににやける。
「乾杯は一気でしょー?」
「イェスマム!」
 センスが古臭ぇなと思いながらも女王気分を味わう。空になった杯に注いでいるとお銚子はどんどん空になっていった。私のビール一気の終わりぐらい佐竹先輩は自分の場所に戻っていた。視線が合って佐竹先輩はにやりと笑う。私も鼻で笑っておいて、杯を空けた。今思えば確実にやるチャンスを逃してしまったのだ。あれだけやりてぇやりてぇって思っておきながら、釣れたものはババアとおっさんとガキで、肝心な場面になると逃げてしまった。あのままトイレに雪崩れ込むことだって可能だったはずなのに。隣で男達が大声を上げているのを、逆に冷静になってきた頭で見つめながら自分の失態に落ち込む。でも宅飲みに誘われているという事実を思い直して、マンコが疼いた。急に肩を組んで来た男に何度もお酌をして、周りの男にもお酌をして10本を空にした。気付けば私は四杯くらいしか飲んでいない。薄着で男に肩を組まれると、背中と腕の肌が直に触れ合って気持ち悪い。背中と胸元が少々開いたワンピースは角度によっては胸が見えるみたいで、覗き込もうとしてくる男がアホっぽくて笑える。男に結構な力で揺り動かされて、服が引っ張られるから安物を着てきて良かったと思う。先ほどからポン酒も零れているし。大声でお銚子無くなりましたーと言うと、男達が拍手をし出して、もう一度同じ数のお銚子が来た。
 近くで佐竹先輩のコールの声が聞こえた。全員が声と手拍子を合わせて新田先輩の一気を見る。あまりお酒の強くない新田先輩は真っ赤になりながらビールを飲んでいた。隣に立つ佐竹先輩と頭一つ程違って小柄で色白の新田先輩は、眼鏡が斜めになっている。コールをしながら佐竹先輩は私の元に来て、傍にあったお銚子を一本持って行った。飲み終わって拍手を受けている新田先輩にたたみかけるように佐竹先輩がお銚子を渡す。
「ご馳走様が聞こえないー!」
 終わったと安堵していた新田先輩の顔が一瞬強張って、その後諦めたようにお銚子を一気した。新田先輩の足元近くに座る男達と、佐竹先輩はにやにやしながらコールをして、私達もまたかと思った。真っ赤になった新田先輩は口元から酒を零しながらも一気を終えて、トイレと呟いて出て行った。
「ははは、あいつマジうける」
 佐竹先輩の友達がそう言いながら笑って、私も笑っておいた。大概見るとあんな風に扱われているんだから、何で飲みに来るんだろうとそこに笑えた。ただ佐竹先輩のこういうところは好きでない。
 その後飲みはお開きになった。不機嫌な顔をした自己中女が二次会行きたい人は行って下さい、私は帰りますんで誰か幹事お願いします、とあまりに空気をぶち壊すような発言をしたから、つい笑ってしまって、彼女から睨まれた。結局私は二次会には行かなくて、家に帰ってシャワーを浴びながら佐竹先輩をオカズにオナニーをした。酔っ払った身体はイき易くて、マンコの中に久しぶりに指を入れると熱かった。風呂からあがって部屋に戻ると携帯が光っていて、少年からのメールが来ていた。あのおっさんと顔を合わせるのが気まずくて、この前行ったっきり数日行っていないし、連絡も取っていないからか、次いつ来てくれますかと書いてあった。一度携帯を置いて、スキンケアとブローをするともう一度携帯を見て返事を考える。ベッドに裸で寝転がりながら、別に少年には関係の無い理由だもんなと明日にでも行きますと返事をした。もうすぐ少年の方は夏休みが終わってしまうだろうから、貴重な昼からの触れあいの機会が無くなる。というか、あいつ本当にちゃんと学校に行くんだろうか。ああ、やりてぇ。丁度オナニーを終えて敏感になった上に、風呂に入って綺麗になった身体を寝かしつけるには勿体無い。少年に電話しようかとして、私は彼の電話番号を知らない事に気が付いた。何やってるんだかと元彼に電話をするとお留守番サービスで、他に手ごろな男が見つからないという切ない状態だったので、今度は新田先輩を攻める想像をしてイッた。あんなどうしようも無さそうな男でもオカズの役に立つんじゃんと失礼な事を思いながら床に付いた。
 

     

 久しぶり、といっても5日くらいだが、に金家に行くと、少年は笑顔で迎え入れてくれた。お婆さんはまたデイサービスらしい。最近は多い気がする。2階に案内されて、またあの香水のような臭いに包まれる。
「最近お婆さんデイサービス多いね」
「9月から学校行くから俺が昼見てるってこと出来なくなって、日中はデイサービス行って貰うことにしたんです。流石に家に婆ちゃん一人ってわけにはいかないんで」
「そっか……何か……ま、でも仕方ないよ、涼介君が中学行くのは当然の事なんだし」
 この家の日常を壊して、お婆さんを毎日デイサービスに行かせるはめにしてしまったけれど、本来少年が学校に行っている間はデイサービスに預けなければいけなかったんだから仕方ない。祖母って自分のことより孫優先のはずだ、普通なら。少年は私の言葉を聞いて頷くと、急に真剣な顔をしてきた。
「文子さん、俺何かしたんすかね、この前夕飯とかあんま、元気じゃなさそうだったし……」
「いや、何もないよ。ちょっとサークルが忙しかっただけだから」
 そう答えると少年はそうっすかと息を大きく吐きながら椅子に座った。久しぶりに見た顔は相変わらず整っているが、センター分けで伸びきった髪の毛はダサいし、服もサイズが合っていないのにモノトーン調のシンプルでちぐはぐだ。座っている少年の前髪を人差し指で軽く触れて、長いねと呟いた。少年は顔を赤くして、俯いた。
「あはは、真っ赤だよ。前髪長いね、美容院行ってカットしてもらえば?」
「そう、っすね……」
 こんな前髪だと校則違反じゃないのかしら、私立ってそういう所緩いのかなと思う。緩いんだったら制服とかも着崩せていいし、体操服も好きなメーカー選べたり出来そうだなと思っていて、ふと気付いた。
「あれ、そういえば、バスケ、部だっけ?」
「え?はい、バスケ部です」
「夏休みって練習無いの?私が中学の時なんて毎日練習あったけど」
「あの、俺学校行ってないから知らない、てか、何か色々夏休み用の部活予定プリント来たけど行く気無かったんで、全然見てないです」
 私ははぁー?と大声を上げてすぐにプリントを探させた。だって不登校辞めるっていうコンセプトで私はあんたに指導したりしてるんだ、元気になったんなら学校の活動には参加しろよ。バスケ出来ないから教えろって言われてもそれは無理だけど。少年は机の横にある紙袋を捜索して、一枚の端が折れ曲がった紙を出してきた。各部活動の練習日・時間が一覧になっていて、バスケ部は平日基本的に午前中が練習時間となっていた。
「今日終わってんじゃん!あー、明日から行こうか」
「え!?いや、マジ無理っす!!俺だって、何ヶ月も、いや、えっと」
「まだ2年なんだから適当に走ったりパス練習とかすればいいんじゃないの?」
 少なくとも私の学校のバスケ部はそうだった。私はバドミントン部だったからバスケ部の様子はよく目に入った。バスケ部とバレー部はいつも対立していて面倒そうだった。体育館にもヒエラルキーというものがあって、その1位の座をバスケとバレーは争っていて、最下位は卓球でバドは中間層だったから蚊帳の外の状態だった。まぁそれは良いとして、バスケ部に限らず団体競技の部活は最高学年になるまでレギュラーでもない限り基礎練習させられるだけだ。
「そう、なんですけど。こういきなり行くってのが……。また何か……」
 そこまで言って少年は口を噤んで下を向いた。下を向くと前髪で顔がほとんと隠れて陰気臭く見える。イライラしてきて、少年の前髪を右手でぐっと掴むとそのまま上を向かせた。
「痛……」
「髪切って、前向いて、顧問とか先輩にすみませんでしたって頭下げて、適当にいじめっ子相手にしなけりゃ大丈夫だって!毅然とした態度で行って来い!!」
「でも……」
「いーい?明日朝迎えに来るから絶対学校連れて行くからね!」
「迎え来てくれるんすか?」
「久しぶりの登校でしょ、女に車で送って貰ったって見せ付けてやりなよ。何か言われたら鼻で笑ってやれば十分だよ」
 ぺしんとおでこを叩く。昔の刑事ドラマみたい。この年代には話し通じないかなと苦笑いをする。少年は呆気に取られた様な顔をして、おでこを擦った。何だか急にその行動が可愛らしく思えて、発情してきて、少年のおでこにキスをしようとして寸前で止めた。少年がまた顔を真っ赤にして、私の肩を強い力で掴んできたから、でこピンをする。
「うーん、そんなダサい髪型の人とはやっぱ嫌だなぁ」
 軽く肩を持たれている手を叩いて、ベッドに座った。少年は口を何度か動かして声にならない空気を出して、俯いた。気まずい雰囲気が流れそうになっていたら、私の携帯が鳴った。少年に断ると、右手でどうぞという仕草をしてくれたので、画面を確認すると佐竹先輩だった。サークルの新歓の時に色んな人と交換して入っていたのを忘れていて、何で知っているんだろうと思いながら通信ボタンを押す。
「もしもし?」
「もしもしー、キヨ?佐竹だけど、今大丈夫?」
「はい、どうしたんですか?」
「前俺ん家で飲みするって言ってたじゃん、あれはまだなんだけどさ、新田の家で5人くらいで飲みしようって言っててさ、お前どーかなって思って。んで、明日の夜だからさ、急だし行けなかったら行けないでいーんだけど」
「明日ですか?全然行きますよ、基本暇なんで」
「おお、マジか。じゃあ工学部門前にあるローソンわかる?」
「わかります」
「明日6時にそこで待ってて、俺迎え行くから」
「わかりました。あ、車要ります?買出しとかに、私出せますよ?」
「大丈夫、大丈夫、俺も新田も持ってるからお前手ぶらでいーよ」
「いや手ぶらって私車片手に持っては行かないですよー」
「そーゆー意味じゃねーよ、ふっ、うける。財布もいらねーって意味だよ」
「わーい、先輩ありがとうございます。あ、あと女一人じゃないですよね?」
「おう、ダイキが彼女連れてくるって言ってるから。ん、じゃあまた明日な!」
「はい、お疲れ様です、よろしくお願いします」
 少年と反対側のドアを見ながら喋り続けて、通話を切ると同時に少年の方を向いた。少年は何故か椅子から立ち上がっていて、私の元に近づいて来て、見下ろされる。先輩って男ですか?と、詰問調で言われて、私はうんと頷く。お前に責められる筋合いは無いんだけどなぁと思いながら、腕を組んで見上げると、少年は横に座ってきた。
「あの、男って、男って意味ですか、それとも……彼氏的な……」
 男って意味ですかって意味わからない。隣と言っても密着しているわけではないが、ベッドから振動が伝わってきて、少年の泣きそうな顔がうける。気付かなかったけれど、この人は私の事が好きなのか。そうか、それは髪を触ったり意識させるような事をして、大変失礼で申しわけない事をした。反省はしないし、私は別に性欲しか抱かないから真剣な意味での好きではないけど。
「彼氏じゃないよ、うん。サークルの男の先輩」
「そう、なんですか」
「そう、だよ。別にさ、彼氏以外の男の人と喋ったり遊んだりしないってわけじゃないだしさ」
「え!?彼氏居るんですか!?」
「居ないよ」
 お前は私とのメールのやり取りで何を聞いていたんだ。最初の方にお前から彼氏居るかって聞いてきて、今居ないって返しただろうが。今のは物の例えというか、別に一般論のお話であって、私が彼氏居るって話じゃない。
「あの!!文子さんっっ!!」
 急に隣から大声が聞こえてきた。少年は膝の上で拳を強く握り締めて、必死の形相でこちらを見てくる。ちょっと、マジ止めてくれ。一瞬文子さんって大声で言われて小学生の時再放送で見たスラムダンクを思い出したわ。それよりも、それから先の言葉は想像出来る。付き合ってくれか、好きですだ。私は今彼氏なんか欲しくないし、貴方の事は性的対象以上に見れない、なんて言える訳ないから、ストップとこちらも声を荒げる。
「もしかして告白、しようとしてる?」
「え!あの!……はい……」
 尻つぼみの返事に、少し罪悪感を感じる。告白を遮るなんて申し訳ないが、私は少年とはふわっとした関係で居たいのだ。セフレのような、そんな感じ。今ここで断ったら少年とは二度と会えなくなるのは明らかだ。
「あのね、私はまだ好きじゃないっていうか、うーんとね、まだ涼介君学校に行けてないでしょ?そういう人を私はやっぱり完全には好きにはなれないの。好意は抱いているけどね」
「………………お断りってことっすか」
「いや、そうじゃないの。あのね、条件付けてもいいかな。涼介君がちゃんと学校も行けて、部活もやって、成績をきちんと伸ばせたら、そしたら」
「そしたら付き合って貰えるんですか?」
「うん」
 にっこり笑って頷く。そうだな、1ヶ月あればいいよ、1ヶ月くらい遊び呆けて夏休み終わるくらいにお前と付き合うよ。普通に成績伸びなければ付き合わないって言ってんだから無理で終わるかもしれないし。少年は沈んでいた顔を急に明るくして、頑張りますと言った。自分で、何て素敵な家庭教師だろうと自画自賛したくなったが、付き合うって面倒くさいしどうにか逃れられないかなと天を見上げた。
 その後何故か少年の美容院に付き合うことになって、私が車を出して、一緒に外に出て少年が髪を切っている間適当にデパートでTシャツと化粧品を買って、本屋をぶらぶらしてから落ち合った。少年は髪を切って男前になって来た。ばっさりというわけではなく男の人にしては長いままだが、それが似合っていて褒めておいた。車に乗って帰る途中にぼんやりと左手をシートの上に置いていたら、手を握ってこられて、驚いて思わず振りほどいてしまった。
「もーまだだめー」
 何とか笑いながらフォローしておくと、少年はガード固いっすねと笑った。お前はキャバクラに来ている親父か。そんな事をしながら、少年の家に着いて、少年を降ろしてまた明日と言って家に帰った。

     

 次の日朝は少年を学校に送って行って、躊躇っている少年の背中を押して降ろして来た。久しぶりに早起きをして眠かったが、ヘアメイクをしたのに寝て崩すのが嫌だったので学校の図書館に行って本を何冊か選んで読んだ。暇だったから友達に連絡するとバイトだったのかお昼まで連絡が来なかったので、本を借りてスタバで時間を潰した。冷めてしまった長い名前の新商品は甘すぎて3分の1は残してしまった。ショートにしておけば良かったと後悔しながらスタバを出る。何もすることがなく、借りた本を読み終えようと今度はタリーズに入った。空いている喫煙席に居ると、煙草の臭いに囲まれて心地よい。タダで煙草を吸わせてもらっている気分だ。
 その後一度家に帰ってメイクと髪を直して、制汗シートで身体を拭いて同じ種類のスプレーを吹き付けてから、実家から送ってきてそのままになっていた焼酎を持って、ローソンに向かった。流石に手ぶらはどうかと思って持ってきたものの、女が焼酎持ってくるってどうかと反省した。外で待つのは暑いので、雑誌を読みながら待っていた。早く来すぎたせいか、結構長い間雑誌を見ていて足が冷えた。去年買ったグラディエイターサンダルと、デニショーのせいで足がほぼ丸出しの状態で冷房がもろに当たる。新田先輩の家だから生足でも良いかと思っている辺り、私は新田先輩をバカにし過ぎじゃないのか。昨日買ったばかりのTシャツが少し小さかったので胸の辺りがぐっと左右に引っ張られていてエロ臭い。名前を忘れた可愛いロシアのキャラクターが伸びていて切なくなった。
「よぉ」
 肩を叩かれて振り向くと、佐竹先輩が斜め後ろに立っていた。身体に合ったTシャツはグレーのボーダーで、黒の短パンは長いのにそれ以上に長い佐竹先輩の足に似合っている。足元は安そうなビーサンで、手首に巻かれた何連かのブレスレッドがお洒落な気がした。雑誌を棚に置こうとしていると、鞄からはみ出していた焼酎の瓶を突かれた。
「これ何?」
「焼酎です、家にあっても飲まないんで持って来ました」
「流石キヨだわー」
 佐竹先輩は笑いながら車に連れて行ってくれた。その大きな体躯に良く似合う車で、車名はわからないけれどよく町で見かけるタイプだ。助手席のドアを開けると、甘い芳香剤の臭いがした。ココナッツの臭いと思われるそれは、一瞬で私の身体を支配して包み込む。車内は洋楽が響いていて、英語がからっきしな私はあまりよく内容がわからなかったが、聞いた事のあるメロディだった。頭から入って駐車していたので、バックで出て行く時に左手をこちら側に回されて、どきっとする。佐竹先輩の横顔は凄く綺麗だ。鼻が整っているから栄える。
「新田先輩のお家どこら辺ですか?」
「ここから5分くらい、何か説明しようにも近くにアパートしかねぇんだよな。あ、でもあいつの家広いからマジ飲みに最適なんだよな。ロフトもあるし何だっけ、ダイニングキッチン?みたいなやつだし、トイレセパレートだし」
「超良いとこ住んでるじゃないですかぁ!」
 別にうちも広いけど話は合わせておく。値段じゃなくてその室内の臭いで物件を決めた私はおかしいんだろうか。今言われた新田先輩の家に似ている部屋も紹介されたが臭いがニス臭いというか、新品特有の臭いがして止めたんだ。佐竹先輩は細い道を豪快に進んで行って、すぐに目的地に着いた。
「今日結局何人なったんですか?」
「あ、5人のまま、俺と新田とゴウキとその彼女とお前だけ。年下だからって気使うなよ?別に新田にやらせりゃいいんだし」
「使わないんで安心して下さいー」
 笑いながら佐竹先輩の後に着いて行くと階段で3階に上がった。呼び出し鈴も鳴らさずにドアを開けて、佐竹先輩はただいまーと声を張った。
「うわーキヨ来るとかすげーレアじゃね?」
「やっと来たぁ、女の子一人でつまんなかったよー」
 色々声をかけてもらって、適当に返事をしてフローリングに座る。ローテーブルの上は酒やら肴やらでごった返していて、誰のグラスがどれなのか私にはわからなかった。少し離れたところにあるテレビは大画面の薄型で、受け手の居ないニュースを流していた。テーブル近くのソファーに彼女さん座って、彼氏さんはフローリングに胡坐をかいていて、新田先輩はキッチンで何かを作っていた。ぶっちゃけ私はゴウキ先輩もその彼女もよく知らない。多分お似合いのカップルだと思うが、スエットの下を履いてTシャツを着ている彼氏とチェックワンピにビジュー付きのジレを合わせる可愛らしい格好は不釣合いだ。新田先輩と目が合ったので、会釈をしておいた。
「じゃあキヨが来て全員揃ったってことで!おい、新田早くこっち来いよ!ったく、かんぱーーい!」
 ぐだぐだの乾杯に何とか彼女さんが差し出したビール缶を持って合わせた。黒エビスは凄く好きだったので一気のつもりではないけれど勢いをつけて飲んでしまう。切りの良いところで飲むのを止めて、拍手をした。何を目的に拍手するのか未だに謎だ。
 それからは飲んだ記憶しかない。何か色々話題に上がっていたが、私は本当に嘘偽り無く全てを話しておいて、面倒になったら彼女さんや佐竹先輩に話題を振った。ビールから始まって、置いてあったウィスキーを飲んで、それから私が持ってきた焼酎を飲んだ辺りから完全に酔いが回って、キッチンを行ったり来たりしている新田先輩に絡んでお酌をしたりした。それを見た佐竹先輩に新田先輩はまた一気をさせられていて、2回目でロフトに退散して行った。ここはお前の家なのに何してんだと思ってロフトの梯子を叩いてみたけれど、新田先輩は出て来なかった。まぁトイレに篭られるよりマシだと皆で笑って、完全に無礼講になって彼女さんは彼氏さんの腕に絡まりながら酒を飲んで、佐竹先輩も何故か私の腰に手を回して飲んでいた。身体が固定出来なくて、佐竹先輩の手に支えられている感じだ。
「ちょっとお手洗いに」
 よろけながら立ち上がると、私は凄い勢いでトイレに向かってしまった。やはりお酒には利尿作用というか、すごく我慢できなくなる。ダイニングを出て、真っ直ぐ玄関に向かうようにして左側にあるトイレに入って、独り言を呟きながら用を足した。便器に座りながら、完全に酔ってるなぁと自分で再確認して立ち上がる。横にある簡易洗面台にデジタル時計が埋め込まれていて、2時を過ぎていた。もう早いもので8時間くらい飲み続けている。勢いをつけてドアを開けると、すぐ横に佐竹先輩が立っていた。ん?という声は佐竹先輩の口に飲み込まれて、もう一度トイレに逆戻りした。
 

     

 さっき見たデジタル時計の近くに頭を押し付けられたが、後頭部は佐竹先輩の掌に包まれて痛くない。トイレの芳香剤のラベンダーの香りに包まれながら、酒臭い唾液交換はお互い酔っていて口元から零れまくった。私が大の方なんかしてたら臭い中キスになるのかなと笑ってしまう。
「なーに笑ってんだ」
「別にー、ホントセクハラですねー」
「目の前で見せ付けられてみろよー、俺も溜まるつーの」
「え?あの二人やってんすかー?うけるー!!」
「もうそのまま突っ込むんじゃねーのかって勢いだぜ」
 アホみたいな会話をしながら先輩は私のブラホックを外して、Tシャツごとたくし上げた。いきなり乳首に吸い付かれて、身体が跳ねる。乳房を鷲掴みにされながら舐められると、どうしようも出来なくて髪を撫でておいた。身長の高い佐竹先輩が狭い個室で身体を折り曲げて私の乳を吸う様子はどうも面白くてならない。それでも、面白さよりも気持ちよさの方が勝って、マンコが液体を放出し始めた。
 トイレでのセックスは初めてだから勝手がよくわからない。ユニットバスでのセックスなら経験あるんだけどな、広さが違ったなと思いながら、佐竹先輩の短パンに手を伸ばした。チンコには手が届かなくて、何度か空振りをするとそれに気付いて体勢を変えて貰えた。
「……触りたい」
「どーぞ、どーぞ」
 短パンと下着の二枚越しのチンコはただ硬くて暖かくてお久しぶりだった。多分ここだろうと思う場所に手を置いて擦ると、暖かさが増した気がする。佐竹先輩は私を誘導して便器に座らせると、目の前にチンコを差し出して来たので迷い無く口に含んだ。結構大きい、臭くなくて良かった。少し前かがみになって陰毛の生えている根元まで咥え込んだ後に、一度口から出して表面を隈なく舐めた。右手でチンコを持って裏筋の辺りを舐めると佐竹先輩が変な声を出して、ふふって笑いながら口に含みなおして佐竹先輩を見上げると目が合った。
「S?」
「まひゃぁかー」
 もごもごとした声で答えて、本格的に扱き始めると佐竹先輩は私の頭を掴んだ。大きく水音を立てて、唾液を顎や自分の太ももに垂らしながらピストンすると久しぶりなのか酷く顎が疲れて辛かった。面倒くさいなと思って、バキュームするように吸いながら動かすと、急に腰を動かされて、喉の奥の当たってうぐっと変な声が出る。酔ってるんだから嘔吐させるような行為は止めて欲しい。その声を聞いて佐竹先輩が手を離したので、チンコが口から逃げて行って、私は口を開いたままだったから唾液が太ももに零れ落ちる。心配そうな佐竹先輩に、だいじょーぶですとにっこり笑ってもう一度チンコに手を伸ばすと、チンコは逃げた。
 両手を持って立たされて、便器を向くように反転させられる。デニショーを脱がされて、足元に落とされると、パンツの隙間から指を突っ込まれた。背後から胸とクリを弄られて壁に手を付いて崩れそうになるのを耐える。背中に重みを感じて、気持ちよさが高まってくる。佐竹先輩は上手い、多分。クリをある程度触られて一度軽く達してマンコがどろどろになった時に、パンツを脱がされて、突っ込まれた。
「あっ!ぁ……あぁ……」
 すっげーキツイと耳元で囁かれてマンコが一度震えた。指も何も入れなかったから入ってきた質感と重量が凄くて、元彼とやったときは痛いだけだったのに痛気持ちいい。便器の貯水タンクの部分に手を置いて形を固定すると、佐竹先輩がピストンをしてきたからタンクの蓋が音を立てて、私の口からも喘ぎ声が出る。気持ちいい。もうちょっとでイキそう。あれ、何で私トイレでセックスしているんだっけ。ここ誰の家だっけ。ああ、新田先輩の家でこの人は佐竹先輩だ。下の名前なんだっけ。忘れたなぁ、振り向いてキスをせがんだりした方がいいのかな。そんな事を思いながら、良い所に当たると教えるように大きな声を出して、佐竹先輩を誘導した。奥に何度も突き上げられながら胸を触られて、タンクの蓋を強く握り締めて達した。爪が陶器に負けて痛かったけれど、そんな事構っていられなかった。完全に貯水タンクに寄りかかって、ただまだ挿入されたままだからお尻だけは高く上げて腰を持たれたままになる。爪先立ちすら辛い。佐竹先輩のチンコは達した私の中を数往復してから引き抜かれて、便器を目掛けて射精した。ぽたぽたと勢いなく落ちる精液は、便器を汚すことなく排水と共に流れていった。
「暑い……」
 エアコンの効いていないトイレ内は温度が急上昇して、体温も上がっているから暑くてたまらない。お互いに汗をかいていて、私は振り向いて便器の上に座って生え際の汗を拭った。チンコに手を伸ばすと、自分の臭いがして気持ち悪かったが口に含んで管に残った精液も押し出して飲み干した。トイレットペーパーでマンコを拭いて、酒が完全に体中に回ってぐらつきながら立ち上がると佐竹先輩に抱きしめられた。風呂入るか?と聞かれたけれど、もう眠りたいと思って家に帰りますと答えた。今気付くと部屋の方から喘ぎ声が聞こえてきて、新田先輩地獄だろうなと思った。
「え?帰んの?何で?」
「眠いし、何ていうかこの家では安眠出来そーにないし、今入ったらお邪魔だろーし」
「お前鞄とか全部あっちの部屋なのに帰れねーだろが」
「えーもーいいですよ、明日また取りに来ます。帰ります」
「だーかーら鍵とかも全部部屋だろーが!」
「あーそっかー、うぜぇ、突撃して来ます」
「まぁ落ち着け、とりあえずパンツ履け」
 その言葉が面白くて、何かツボにはまって、大笑いしてしまった。深夜で酔っ払っている時の特権だなとパンツとデニショーを履かせてくれている佐竹先輩を見た。やった後優しいとか素晴らしい人だ。
 結局部屋に突撃したのは喘ぎ声が止んでからで、裸でソファーに転がっていた二人を尻目に鞄を持って帰ろうとすると、佐竹先輩が俺もと言って付いて来て、前後不覚だったから佐竹先輩の車に乗って佐竹先輩の家に帰った。翌朝というかお昼近くに起きてもう一度、回数で言うと二度セックスをして佐竹先輩のバイトに合わせて家を出た。それから携帯を見ると少年から山のようにメールと多分あの家からの着信があって面倒臭いと思った。

     

 少年からのメールの内容は話しがしたいだとか、来てくれだとか、とりあえずそんな感じで、最初のメールは夜の6時でそこから3時間後に一度目の電話が来ていて、それから数分おきに電話があって、夜中1時で電話もメールも途切れていた。あー、そりゃあそうだよね、いきなりいじめられっ子が変われることなんて出来ないし、周りも変わらないよ。多数対一人はよほど心持を強く持たないと勝てないわと自分から勧めておきながら他人事のように思った。
 佐竹先輩の家で一度シャワーを浴びたけれど、家に帰ってもう一度シャワーを浴びて、少年にごめんね気付かなくてとメールをした。携帯で気付かないなんて下手な言い訳過ぎるけど、実際気付かなかったというか、携帯をマナーモードにしたまま放置していた。だって飲みやセックス中に携帯が鳴ったりしたら冷める。送ったメールは髪を乾かしている間に返ってきて、というか着信が来た。
「もしもし?」
「もっ、もしもし!文子さんですかっ?」
「はい、文子です。ごめんね気付かなくて。で、どうしちゃったの?」
 どうしちゃったも無くて大体想像はつく。行ったけどいじめられて帰って来ました、もう学校には行けません、ってことくらい。バスタオルを肩にかけて、素っ裸で携帯をかける私は親父みたいだ。少年は息遣いが荒くなって、俺、俺と繰り返していた。俺俺詐欺なんて今更流行らないわよと全く心ここにあらずな私は違う事を考えていた。
「俺、っ俺、行ったんすけど、やっぱ、無理って、いうか……今日は、休んじゃいましたし、あの、無理……文子さん、ごめんなさい」
「うんうん、私に謝らなくてもいいよ」
 要領のつかめない会話に一応優しい声で答える。しかもぼそぼそと喋られて全然何を言っているのか私にはわからなかった。最後の文子さんごめんなさいしか聞き取れない。もしかして泣いていたりするのか。鼻の啜る音が聞こえて、大丈夫?と声をかけた。少年はごめんなさいと繰り返すと、会いたいですと呟いた。
「え?今から?」
「あっの……無理なら……いいんす。俺、今、酷い顔なってるし」
 男がだらしねぇところ女に見せてんじゃねぇよ、プライドねぇのか。一気に顔がしかめっ面になったけれど、これが電話の良い所で相手には何も伝わらない。ベッドの上に座って、壁に上半身を預けながら電話をしていると、クーラーが一定程度温度を下げきったのか止まった。静かになった室内は私の、うーんという声が響いた。
「どうしようか、家行った方がいい?」
「家以外だと、どこか……」
「そうだね、ファミレスかカラオケかカフェか。あとは公園とか」
「カラオケが良いです」
 どういう選択なんだと思いながら、わかった家の前で待っててと言うと電話を切った。化粧をするのが面倒臭いがファンデとアイメイクだけ手早く済ませて、ワンピースを着て車に乗った。車内は夕方なのにとても暑くて、何度かドアを動かして空気を送り出してから乗り込む。帰宅ラッシュに巻き込まれながらも、少年を家の前で拾って、会員カードを持っているカラオケに行った。少年の顔は目が赤くて、全体的に皺皺になっていて、萎んだ風船みたいだった。助手席に乗った彼はずっと黙っていて、私も面倒くさくて喋らなくて無言のままカラオケに着いた。フリータイムにしたら、二人なのに部屋が無かったのか案内されたのはとても大きな部屋で、少年と私は距離を置いて座った。
「何か飲む?フリードリンクだよ、ここ」
「いえ、いいです」
 ああそうですか、と心の中で返事をして、周りから聞こえてくる下手とも上手いとも言い切れない歌声と、テレビに映る知らない歌手の紹介を聞いていた。少年は俯いていて、一体彼が何故私に会いたいと思ったのかわからなかった。お前が悩み苦しんでいる間に私はサークルのお前が危機感を感じていた先輩とやってたんだけどなぁと自分の行動を思い起こした。ぼんやりとテレビ画面を眺めていると、方向的に少年が左端の視界に入る。
「何か、俺、すみません……。文子さんがあんな色々してくれたのに、結局、言葉出なくて。やっぱり、自信って付かないし、俺、バスケ上手くないし」
 私と目も合わせずに少年はぼそぼそと喋って、少しこちらに視線を寄越すとすぐにまた床に戻した。どうしたらいいのかわからない時間が続く。ああもうぶっちゃけ早く家帰って佐竹先輩とセックスするかオナニーするかしたいんだけど。眠いし。知らない歌手を写していた画面はまた新たに知らない歌手を映し出して、私はそこに目線を戻した。少年はそんな私の気持ちになんか全く気付きもせずに私に救いを求めている。
「俺……やっぱ、どう言われても、自信とか、付かないんす……。言い返せないし、反抗も出来ないから。あと、婆ちゃんやっぱデイサービス好きそうじゃないし」
「ああ、そうなの」
 適当に返事をすると、少年が信じられないといった顔でこちらを見てきた。だって意味わからないんだもの。お婆さんがデイサービス嫌なのとお前が自信無いのと何の関係があるの。学校に行かない言い訳いっぱい言われてもどれも繋がっていなくてイライラしかしてこない。
「じゃあどうしたら自信持てるの?」
 言い訳全部潰していってやろうか。実際私もそんなすんなり登校出来るようになりました、良かったねなんて行くと思ってないよ。でも私に頼りきりになられてもどうしようも出来ない。つーか私今自分のことで忙しくなりそうだし。別に佐竹先輩とそういう関係が続くとも思っていないけど、あと何度かお呼び出し受けれれば嬉しいなって感じだし、サークル食いたいし。本当に自分最低だなと笑いそうになるのを堪えて、少年の顔を見た。少年は目を合わせてはくれなくて、顔は上げているけれど私のお腹辺りを見ている気がする。
「文子さんが……いや、いいです。わかんないです」
「何?そこまで言っておいて、私呼び出しておいてそれはないでしょ?」
「文子さんが、俺の事彼氏って認めてくれたら。俺、か、か、可愛い彼女居るって、自信なります」
 可愛いのところで何度も噛んで、顔を真っ赤にして言われた言葉に溜息をつきたくなった。どうしてこう平行線なんだろう。どちらかが譲歩しないといけなくて、私がこの前譲歩してきちんと学校行ったら付き合おうって言ったばかりじゃないの。前かがみにしていた姿勢を壁に寄りかかるように反り返して、今度は私が視線を床に落とした。難問だ、ハイドラだ。どうしたものかとワンピースのスカートの裾を弄ってフリルを指と指の隙間に通す。一瞬ふわりと佐竹先輩の臭いがして、ばっと顔を上げると別に室内は何も変わりなく少年しか居なかった。ソファーから立ち上がって少年の横に座った。前少年の部屋でされた事を逆にしてみた。今度はそれ以上に不安そうにこちらを見つめる少年の頭を抱いて、自分の胸に顔面を押し付けた。少年はうっと言って、固まった後に恐る恐ると腰に手を回してきた。そのまま力強く腰を締め付けられて、胸の辺りに生暖かい液体が落ちてきた。ソファーの上に膝立ちになって抱きしめていると、丁度ドアの目の前で廊下を通る人が見える。抱いている髪は相変わらずべったりしていて、そこに顔を近寄らせる気が起きなかった。廊下から覗かれたら恥ずかしいと思って勢いをつけて後ろに倒れる。少年は私の行動に逆らうことなく上に乗りかかる形になった。
「っ……文、子さん」
 鼻を啜る音と共に名前を呼ばれて手を頭から離すと少年は身体をずり上げて、私に口付けようとしたけど、途中で止まって顔を曇らせてもう一度胸元に顔を埋めた。手で少年の髪を梳かすのは嫌だったので、ただ何もせずにいると、私達の部屋のテレビか隣の部屋からかとても上手い歌が聞こえてきた。上手いのに覇気の無いその声に何も感じるところは無いのに妙に耳に残った。少年は私の胸で泣き続けて、特にキスもセックスもしないまま満足したのか一方的に身体を起こして私から離れていった。涙と鼻水で汚れた胸元をティッシュで拭きたかったが、それは少年に失礼かと何も対処せずに自然乾燥を待つ。そのティッシュは少年に渡して、顔拭きなよとだけ言って、放置した。何分経ったのかわからないけれど、少年がトイレと言って立ち上がって出て行ったので、携帯を確認する。佐竹先輩から、バイト終わったよキヨとハートマークがついたメールが来ていて女々しいなこいつもと思った。一瞬彼氏のつもりだったらどうしようと思ったけれど、多分彼は大人だから違うなと思い直して、お疲れ様です佐竹先輩とハートマークを返した。メール送信が終わった辺りに少年が帰ってきて、何故か抱きつかれて、痛かった。それでまたそれ以上何も無くて、二人で適当に帰ろうかと言い合って帰宅した。

     

 佐竹先輩とはそれから何度か寝た。基本佐竹先輩の家に行って寝てやって、また寝て、やってという日々を過ごした。私の家は汚かったので、一度も入れなかった。先輩の家でそうめんを作って食べたりしていて、ある意味恋人のようだった。その間に少年の家に行って、適当に会話をしながらちょっとだけ抱き合ったりした。別にカラオケで過ごした日以来の進展は何も無く、お婆さんが午前中から家に居るようにはなっている。九月が始まったのに少年は初日から学校に行かなくて、その日は私も少し冷たく当たった。そうこうしているうちに友達との週一のファミレスデーが来て、現状を話したら彼女も今バイト先で同僚と客に言い寄られているらしくて、お互いにモテ期だ、とジュースで乾杯をした。
 友達と話した次の日がまた新田先輩の家での飲み会だったので、佐竹先輩と一緒に行くことになった。そう思っていたのだが、佐竹先輩が急遽バイトが入って行けなくなって、ドタキャンするにも数時間前で申しわけなかったし暇だったので一人で向かった。二度目だったので、あまり迷うことなく新田先輩の家に着いた。佐竹先輩とは違って呼び鈴を鳴らして、新田先輩ではない先輩に迎え入れられて、私は合流した。またよく知らないサークルメンバーが揃っていて、私と同じ年の子も居たので、前よりは気が楽だった。6人くらいで、完全に新田宅は溜まり場と化していた。相も変わらず新田先輩は佐竹先輩の友達に扱き使われていた。私はお腹が空いていなかったからすきっ腹だったけれど強いお酒を一気したり、色々飲んで早々に酔っ払った上に、気持ち悪くなったのでロフトを使わせてもらった。水の500ミリペットボトルを片手に上がるそこは秘密基地のようで興味はある。タオルケットが新田先輩の臭いがして気持ち悪かったが、少し蒸し暑いそこで横になる。ロフトは結構広くて、奥のほうが天井が低くなっている設計だ。その真ん中辺りに布団が敷いてある。下からはバカ騒ぎしている音が聞こえてくる。ロフトの端には本とCDが積み上げられていて、CDって、と思いながらジャケットを一枚一枚見てみた。知らない邦楽と思われるCDは何となく暗い人とかが好きそうなタイトルで、本も文庫本ばかりでわかるのが太宰と芥川だけで気持ち悪かった。
「新田一気ーーー!!」
 コールでも何でも無い命令をされて、新田先輩が薄笑いの中で一気しているのが伝わる。一気でまた酔っ払ってロフト来たりしたら嫌だと舌打ちをした。その嫌な想定は案の定当たって、ロフトの梯子が軋んで、新田先輩が上ってきた。
「ちょっとー!!マジ狭いとこで嫌なんですけどーー!」
 ロフトから顔を出して皆に訴えると、皆が笑いながら新田襲ったらタケにぶっ殺されるからなーと言っていて、タケって佐竹先輩かとどうでもいい情報を得た。新田先輩はごめんと呟いて梯子の近くで丸まった。体育座りで小さくなるその姿は本当に小ぢんまりとしている。可哀想になってきて、自分のタオルケットをかけて、ペットボトルを新田先輩の横に置いておいた。お地蔵さんにお供え物をするババアのような行動だ。何の反応も無かったので、放置して私は布団に転がってそのまま眠りについた。
 ばっと目が覚めると、周りは静かになっていた。新田先輩もそのままの形で寝ていた。携帯を見ると朝の4時で、顔を出して下を見ると誰も居なくなっていた。何だよ、すげぇ薄情だなあいつらと思ったけれど、名前も知らない人を薄情だとも思えないと溜息をついた。梯子から下りようと、新田先輩の横を通ろうとして新田先輩に当たって彼も起きた。つーかお前眼鏡かけたまま寝るんだな、すげぇなと思いながら、おはようございますと笑った。化粧が剥げていそうだから今すぐ化粧直しをしたいと、梯子に手を伸ばす。
「清原さん」
 声出せるんだなお前と失礼なことを思いながら、はいと返事をする。新田先輩は必死そうな、困っていそうな、複雑な顔をして私を見つめている。
「清原さん、佐竹は、止めた方がいいと思う。あいつ最低だから。男同士の飲み会で君の事色々言ってたし。すごく下品な内容だから言わないけど」
「え?」
「僕、清原さんが傷つくのがわかるんだ。悪いことは言わない、別れた方がいいよ」
「えーっと?」
 何を返していいのかわからなくて曖昧な返事をする。私の胸元を見ながら諭されても、全然説得力はない。大体お前に助言される筋合いはない。わかるんだって、君って、言葉一つ一つがうける。お前何様のつもりだよ。笑ってしまうのを堪えて、新田先輩が話すというレアな状況を楽しむ。
「本当に最低だと思うよ、君は気付いていないかもしれないし、恋は盲目だからね。でも言葉は悪いけどヤリ捨てられると思う。逃げた方がいいよ。僕、清原さんには挨拶してもらったり、ちゃんと接してもらっていて感謝してるんだ」
「えっと……それは、佐竹先輩が他の飲みで私の事をどうこう言ってたってことですか?」
「そう。ごめんね嫌な思いさせて。でも今別れないと今後もっと嫌な思いするよ」
「具体的には何て言ってたんですか?」
 新田先輩は、それは、と言葉を濁した。何もかもがイラつく。私の事をぐちゃぐちゃ男に喋っているお喋りな佐竹もムカつくし、そんな男同士の会話を私に告げ口みたいな事をする新田もムカつく。何で私はお前に上から目線で注意を受けているんだよ。大体挨拶とか普通の事だし、ちゃんと接した記憶は皆無だ。いつのことを言っているんだ。
「教えてください、新田先輩」
「…………巨乳に挟んでもらうの最高だとか、乳首とあそこが結構黒いとか、臭いとか、喘ぎが意外に高音で可愛いだとか……」
 お前は何を言っている。具体的に教えろと言ったがそう簡単になんでも吐露すんじゃねぇよ。ああ、本格的にムカついてきた。私だってそしたら言いたい事なんていっぱいあるよ。終わった後の話が長くてうざってぇとか、チンコの形ちょっと変だとか、パイ毛生えていて気持ち悪いだとか。そんな事思っているけど私は言っていないよ。うぜぇ。お喋りな男は大嫌いだ。必然的に佐竹先輩も大嫌いだ。そして同性同士の会話を異性に告げ口する奴も大嫌いだ。必然的に新田先輩も大嫌いだ。二人ともに痛い目に合わす方法は無いのかと思って、ふと閃いた。私が新田先輩とやって、そのまま新田先輩を非常に突き放せばいいのではないかと。佐竹先輩にしたら自分より格下な新田先輩に女寝取られるのも、穴兄弟になるのもイラつくだろうし、新田先輩にしたら佐竹先輩から奪い取ったと思った矢先にフラれるのは打撃を受けるだろう。丁度いい、自分が優位に立てるセックスもしたかったし、童貞食っちゃうのも面白そうだ。そう思って、私は目に涙を浮かべようと頑張った。
「そんな、事、言ってたんですか……」
「ごめんね、本当にごめんね。でも、君に佐竹の本性知って欲しいから」
「ショックです……。私……」
 そう言って俯くと、鼻水を啜る真似をして、顔に口元に手を置いた。新田先輩はおろおろとしながら、私の前で挙動不審な動きを見せていた。
「私、違いますよ……。そんなの嘘だし……黒くなんて無いです」
「そ、そりゃあそうだよね!!うん、僕も嘘だとは思っているよ!!」
「確認して下さい、黒くないです」
 私は着ていたキャミとブラの紐を降ろした。ちょっと強引過ぎたかなと反省しながらも、新田先輩の前で胸を曝け出す。ブラを押して胸を出すとワイヤーが食い込んで痛い。私の胸を見て、新田先輩は固まって、何度も頷いた。そしてその後大丈夫だからと言って、服を直そうとしてきた。
「やだぁ!」
「いや、服着よう。落ち着いて清原さん。まだお酒残ってるの?」
「そう、かもしれないです……。新田先輩、ぎゅってして下さい」
 目の前の新田先輩に抱きついて、胸を押し付けた。新田先輩は固まっていて、お風呂に入っていない男の臭いが臭かった。抱きついてわかったのだが、チンコは勃っていた。まだ理性切れないのかよ、童貞面倒くさいなと思って、手を取って、胸に押し付けた。
「あーもう!!」
 新田先輩がそう呟くと、私は後ろに押し倒された。急に首を舐められて、喘ぎが出た。佐竹先輩より乱暴に乳首を舐めて、胸を揉んで、新田先輩はスカートをずり上げてパンツを脱がせた。
「濡れているね」
 ええ、条件反射的に濡れるんですよ、とは言えず、やだと顔を手で隠して、足は広げた。勝ち誇ったように言われるとイラつくのは何でだろう。早朝だから部屋は明るく、ロフトでもその明るさは保たれていて、その中で新田先輩に全部見られる。マンコを舐められて、気持ち良かったけれども佐竹先輩ほどではなくて、適当に喘ぎ声をあげておいた。あまり舐められても、指を入れられてもイク気配が無かったから、新田先輩の頭を優しく叩いて、もうやだと首を振った。
「もぉ、や、です。入れて……ゴム、ありますかぁ?」
 期待はしていなかったのに、新田先輩はロフトの置くから箱を取り出してきて、フィルムを破った。新品とわかるそれを、少しもたつきながら装着する。新田先輩が装着しているところに身体を寄せて、抱きついて挿入した。入れるために角度を調整しようと持ったチンコは衝撃を受けるくらい小さくて、ご配慮として入った瞬間に大きな喘ぎを出してあげた。入れた瞬間に新田先輩もあーと気持ち悪い声を出して舌打ちをしたくなった。騎乗位で攻めると、いつもの上下運動の癖で抜けてしまう。ごめんなさい、下手くそでと喘ぎながら言うと新田先輩は大丈夫と言って私の胸を掴んだ。下手くそじゃねぇんだよ、お前のが小さ過ぎて全部抜けちまうんだよと思いながら、動かす方向を前後に変えて動き続けた。動いている間私だけじゃなくて新田先輩も喘いでいて、喘ぎが耳に残る気持ち悪さで集中出来なかった。結局私はイカないうちに新田先輩がイって、抜いて後処理をした。その後足りなくてもう一度新田先輩に抱きついたら、可愛かったよ、寝ようかと言われて腕枕をされて横になる。何だこれ、軽い復讐のためとは言え、今までの中で最低のセックスだなと新田先輩の反対を向いた。そうするとすぐ前にティッシュの塊があって、本当に二度としたくないけど信じ込ませるために何度かしないとなと溜息をついた。優位にも立てなかったし、童貞かは微妙だし、蓼食うってこういう感じかなと目を閉じた。

     

 昼ごろに起きて家に帰って念入りに身体を洗って、マンコの入り口も洗った。そんなに中まで入ってこなかったから逆に良かったのかもしれない。色々言いながらも新田先輩の横で寝れる自分は図太いと思う。新田先輩は私の横でも眼鏡を外さなかった。身体を拭いて部屋に戻ると、携帯にメールが二件入っていた。少年からと佐竹先輩から。時間が遅い少年の方から先に見る。そろそろフォルダ分けをしないとメールミスするかもしれないと、溜息をついた。少年からは今日来れますか?という簡潔なメールで、佐竹先輩からは昨日ごめんと楽しかったか?という内容の絵文字がいっぱいついたメールだった。あのデカイ身体で絵文字を打ち込んでいるのを想像するとうける。久しぶりに点けたテレビはザッピングしてもどこもつまらなくて、消して立ち上げたまま放置されていたパソコンから音楽を聴いた。少年には行けるよーと返して、佐竹先輩には何も返さなかった。何というか上手いメール文章があるだろうから考えてから返そうと放置した。面倒くさいので洗濯して干したままになっているワンピースを着て、適当に化粧をして、眼鏡をかけて金家に向かった。眼鏡をかけるとアイメイクが適当でも誤魔化せるし、昨日コンタクトをしたまま寝てしまって目が死にそうだったから。金家では呼び鈴を鳴らしてそのまま玄関を開けて二階に上った。ドアをノックして開けると少年はベッドに座っていた。
「お疲れー」
「あ、眼鏡ですか。新鮮で良いですね」
「あれ、眼鏡初めてだっけ?」
 少年は頷いたので、そっかそっかーと言いながら横に座った。ああ、ベッドに横になって眠りたい。そう思いながらも、少年に出しておいた課題の提出を要求した。学校に行く気は毛頭無くなったようで、こちらとしてもあまり言わないようになった。ただ先週の日曜には明日から行けば、とだけは言ってみた。効果は無かったが。少年から出された課題をばーっと目を通して、ローテーブルの上にあった少年の筆箱の中から赤ペンを取り出して間違ったところだけチェックしていく。当初に比べて正解率は格段に上がって、私は点数をつけてそれを返した。
「はい、お疲れ」
「いつも思うんすけど、文子さんって丸付け早いし、答えも見ないし、覚えてるんですか?」
「あ、中学レベルなら大丈夫だよ。間違ってたらごめんね」
「…………そう、っすか」
 中学レベルなら誰だって覚えてるよそんなもん。答え見るまでもねぇよ。大体タダでやってるんだから一々参考書の答えを確認するのも面倒くさい。一回問題は少年に出す前に参考書を斜め読みして覚えているし良いだろう。今日は昨日の酒のせいか、新田先輩のせいか覚えが少し悪いが。少年が沈んだように顔を伏せたので、笑って、大丈夫大丈夫と肩を叩いた。少年はこちらを見つめて、噛みながら眼鏡可愛いですねと言った。最近よく可愛いとか言って来て、あっそうと返したい気持ちに駆られるが一応お礼を言う。
「え?眼鏡、グッチなんですね」
「まぁ、うん、そうね。長年使うものだしね」
 少年は私の横の毛を手で掻き揚げながらフレームの確認をした。ちょっと気持ち悪い。前男にピアスの小さな絵柄を当てられて、細かい事に気が付くことと、私のそんなところを見ていることに気持ち悪く感じたのと同じ感じだ。細かい事に気が付く男の何が良いのか私にはよくわからない。気持ち悪ぃ。少年は髪を持っていた手を肩に置いて、私の頬にキスをした。顔を戻して真っ赤になる彼に、かける言葉が無くて黙っていた。眼鏡をかけた顔にキスするのはやりにくいだろうと思って、体勢を少し変えて少年の顎を持ってキスを返した。触れてすぐ離して気付いたが、私は少年と口でキスするのが初めてだった。何故か昨日の新田先輩との記憶がごっちゃになって、あっさりと私は彼のファーストキスを奪っていた。少年は目を見開いて、唇に自分の手を置いてから、私の肩を掴んで口を押し付けてきた。歯が当たって、キスをされてまた口が離れる。少年が舞い上がりながら私に何度も口を押し付けては離すという仕草を繰り返している中、私はふと新田先輩とキスってしたっけと思い返していた。あれ、してなくね?避けたんだっけ、そうだっけ、あー覚えてねぇ。あいつが短小だったことは覚えているんだけどなぁと思ったのと少年が何度目かのキスをして、自分の元の位置に戻って笑っているのを見たのは同時だった。
「文子さん……柔らかい……すね」
「涼介君も口べとべとになってる」
 塗ってきたグロスが少年に移っていて、ティッシュで拭いてあげようと身体を動かすと少年に腕を掴まれてまた何度かキスをされた。そのまま雪崩れ込みそうだったけれど、少年は首と耳を舐めてきて、それに喘ぎを上げる私に満足したのか知らないがそれ以上は進まなかった。帰りに文子さん首と耳弱いんですねと囁かれて、少しぞくっとした。古典的な手に弱いのかもしれない。おっさんとすれ違うのも、お婆さんに捕まるのも嫌だったのでおっさんが帰る前にさっさと帰った。
 家に戻って、佐竹先輩のメールを放置していることを思い出して、アドレスから新田先輩の番号を探り当てた。新歓は偉大だと思いながら、新田先輩に電話をした。昨日ありがとうございましたって言って次の約束を取り付けよう。何コールかすると新田先輩が出た。
「もしもし、清原です。お疲れ様です」
「あっ、あ。清原、さん。あの、どうか、した?」
「昨日ていうか今日ですか?ありがとうございましたぁー」
「いや、え、あ、いや、こちらこそ」
 まともに会話できねぇのかよと舌打ちしたいのを耐えて、可愛く勤める。普段しない事をすると酷く疲れる。
「また今度飲みましょーね!でも飲みすぎないよぉにします!私あんまり覚えてなくてぇ」
「え!?覚えて、ないの?」
「微妙に覚えてますよ、先輩としちゃった事くらいは。ごめんなさい、私酔っ払って。でも責任とかちゃんと取ります!」
「あ、あの、いや、その事なん、だけど、っさ。えっと、僕、も、悪いっていうか。いや、えっと、責任とかは…………」
 ん?と携帯を持ちながら固まる。僕も悪いってほぼお前が悪いんだよ。責任とかはって言ったなお前。その瞬間私の計画は第二段階に進まない事を悟った。
「え?」
「ぅ、うう、んと、あの、付き合う、ってこと、だよね?清原、さんの言う、責任って」
「え、そういうつもりだった……んですけど」
「あ、いや、僕も、つい、悪いんだけど、清原さん、おっぱい、大きいし、あんな事、なっちゃった、っけど、何か、怖い、から……」
 今私新田先輩にふられてるんだよな。というかお前それはねーだろ。やった相手におっぱい大きいからついって、そして何か怖いだ?ぶっ殺すぞ。今までに感じた事の無い怒りが湧いてきたけれど、何故か罵倒するような言葉は出てこない。新田先輩が噛み続けながら喋る言葉をはい、はいと返事しながら聞いていた。
「そうですか」
「っ、うん。あの、申し訳、ない。いや、最初はさ、僕も、凄い、清原さん、良いなって、えっと、思ってた、んだけど、あんな、事する子だって、思わなくて……。いや、僕も、悪いんだけど、でも、あの、一回したら、急に、冷静なって」
「ああ、そうなんですか」
「え、あ、えと、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
 言いようの無い気持ちだ。全てを否定された感じ。何だ、何が起こっている、下克上か。それは素晴らしい賢者タイムですねなんて軽いノリで返せない。脱力感に襲われて、どうしたらいいのかわからなかった。
「あ、あの、それ、と、凄い、あれなんだ、けど、佐竹には……」
「言いません、私も知られたくないんで」
「あ、そ、うか、うん、そうだね、うん、じゃあ、良いかな」
「はい」
「じゃ、じゃあ。おやすみ」
 通話終了ボタンを押すと、携帯をベッドに思いっきり投げつけた。鈍い音がしてベッドの上を携帯が転がっていった。床に落ちて大きな音を立てないところもムカつく。何もかもムカつく。何で私があんな格下の男にふられなきゃなんねーんだ。何だ怖いって、何が怖いんだ、言ってみろよ具体的に。てめぇのそのどうしよもねぇ下半身の方が怖ぇよ、ああ本当にゴムつけて良かった。何だあいつマジで、佐竹先輩の周りにリンチでもされて死ねばいいのに。おっぱい大きいしって何だよ、マジで。ああ、ああ、ああ!!何だ、あのオヤジをふったことのしっぺ返しか。因果応報か。そしたらあいつにも因果応報だろうがよ。そこまで考えて、携帯を拾って佐竹先輩に楽しくなかったです、ごめんなさい、本当にごめんなさいと絵文字無しで返信した。折り返して佐竹先輩が電話をしてきて、そこで泣き真似をして、何でもないんです、ごめんなさいとだけ言う。佐竹先輩が大丈夫かと繰り返してきて、何度かそのやりとりを繰り返す。
「マジどーしたんだよ?キヨ」
「あの、ホントに、私も、思い出したくないし……」
「はぁ!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。私バカだから」
「…………誰と何あった?」
「ごめんなさい、あの、新田先輩に、聞いてください。切ります」
 そう言うと一方的に電話を切った。あーもう知らね。あいつ噛みながら状況説明しろよバーカ。佐竹先輩はそれ以上電話もメールもしてこなかった。次の日に私は少年と初めてセックスをしたが新田先輩への怒りが消えていなくてあまり覚えていない。新田先輩よりはマシなセックスだった気がする。新田先輩よりは早かった気がするが。その後サークルの多分仲の良い友達から、佐竹先輩が新田先輩殴ったらしいよとか聞いたけれど、それ以上何も聞かなくて、二人とは連絡を取る事はなかった。

       

表紙

53 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha