Neetel Inside ニートノベル
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ルーリングワールド
第8ターン

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【王様】結晶石タイル16枚 勝利まであと:8ターン

 朝からひっきりなしに来客が続いていた。ある者はひたすらに媚び、ある者は全財産を貢ぎ、ある者は自らの娘を献上し、王に資源の配分を懇願した。
 王の気分は良くなった。しかし、そのほとんどが困窮している者達ばかりで、藁をも掴む一心での貢物だったので、国庫には大した足しにならなかった。むしろ、日に日にわがままになっている王妃のせいで、見るからに資金は目減りしていった。
 悩みの種を無理やり振り払い、一時の愉悦に身を任せる王に、格の違う来訪者が訪れたのは午後になってからの事だった。


・黄のレベル6、赤のレベル4タイルを設置

     


     

【鍛冶屋】

 悪魔は去り際、こんな言葉を残していった。
「あえて言わせてもらいますが、この取引に拘束力はありません。約束を破ったからといって、あなたがすぐにその場で死ぬなんて事は無いという事です。その点に関しては、どうかご安心ください」不敵な笑みを浮かべ、「ただし、私の経験から言わせてもらえれば、悪魔を裏切る人間は大抵ロクな目にあいません」
「それは挑発かい?」
「いえ、忠告です。それでは、人除けの件、お願いしますよ」


 一夜明けた今でも、あの氷のように冷たい視線が目に焼きついている。
 朝、グレンは大量の寝汗と共に飛び起きた。生きたまま、心臓を抉りとられる夢。妙にリアリティーがあり、痛みまで伴っていた。窓から刺す太陽の光に現実を認識し、安堵と不安の混ざったため息を漏らす。
 と同時、コンコン……ドアをノックする音。
「ご主人様、お目覚めですか?」
 使用人の声だった。グレンはようやく肩の力を抜く。
「ああ。起きてるよ。水を1杯くれないか」
 ドア越しに頼み、グレンはベッドから起きる。
 そして睡眠中に整理された頭の中身をゆっくりと紐解いていく。
 北の街の付近に出来た湖。それが重要な鍵となっている事はまず間違いない。悪魔がわざわざ自分から指定してきた上に、それ以外に目的は無いのだから、つまり自分が人除けをすれば、悪魔にとって『何らかの目的』が達成されるのだろう。
 では、その『何らかの目的』とは一体何か。
 この世界に魔物が突然現れたのはつい1週間前からの事。帝都付近で少年に駆除されたウーズから始まり、南の街付近で人間を襲ったゴブリン。そして昨日、目の前に現れたデーモン。これら短期間における魔物の出現を、偶然とは言いがたい。
 グレンは思う。魔物の思考回路などよく分からないし、魔界の現状も聞いた事すらないが、こうして地上に現れ、人間を襲っているという事は即ち、『侵略』を意味しているのではないか。
 この国は帝都の他に、東西南北4つの大きな街によって成り立っている。それぞれの街には領主がおり、王の下での権力が均等にあるから、見た目の上での平和が成立しているのだ。もしもこのバランスを崩されたり、あるいは街自体を魔物が乗っ取ったりすれば、国自体、ひいてはこの世界そのものが魔者達の手中に落ちる可能性がある。
 これらを踏まえた上で、昨日の取引内容を吟味する。北の街付近にある湖。それ自体に何か意味があると考えるよりは、魔物の進行の邪魔になっていると考える方が自然だろう。
 なぜなら、学者は確かこう言っていた。
「魔界から召喚された魔物は、結晶石に弱い」
 湖には例の如く結晶石が落ちているはずだ。という事は、その近くまで来ている魔物が、結晶石の影響で通れないという可能性は大いにある。それに、湖の北西と南東には、確か鉱山もあった。仮説が正しければ、回り道は出来ない。
 と、そこまで考えてデーモンとの取引内容を思い出した。デーモンは、「結晶石を取り除け」と言ったのではなく、「人除けをしてくれ」と言ってきた。自分がそこに向かいさえすれば、おのずと結晶石も回収されると踏んでそう依頼してきたのだろうか。
 その意図は何なのだろうか。ただ単に、結晶石と魔物の因果関係を隠したかったのか、それとも何か別の理由があるのか。
 グレンが止め処も無い疑問に眩暈を感じていると、使用人が水を持って部屋に入ってきた。
「お待たせいたしました」
 一口、コップに入った水を飲む。グレンはすぐ違いに気づく。
「おや、いつもの水ではないね?」
「分かりますか。ご主人様、それは帝都の北に出来た湖から汲んできた物です。お気に召されましたか?」
 帝都の北に出来た湖。確か、グレンが初めて結晶石を拾った湖だ。
「ああ……」
 グレンが妙案を思いついた。


 午後、グレンは王宮に足を運んだ。庭には人々による長蛇の列が出来ている。話には聞いていた。王が資源の配分を発表してからというもの、「自分の土地に資源を」と申し入れる地主が沢山いるらしい。
「おや、これはグレン様ではないですか」
 見知った顔。南の街付近に出来た鉄鉱山で会った地主の男だ。
「今日はグレン様も王様に会いにきたのですか?」
「ああ。やぼ用でね」
 グレンは人で出来た波を見る。この様子だと、夜までかかりそうだ。
「ふむ。それなら私に任せてください」
 男はそう言うと、列の先頭まで掻き分けて進んでいってしまった。しばらくして戻ってきて、「さあさあ、こちらに」と言われ、グレンは列の先頭に立った。
 グレンが順番を譲ってくれた女に礼を言うと、女の方が何度も頭を下げた。地主の男は小さな声で、グレンにだけ聞こえるように言った。
「ただ欲しがる物をバラ撒いているだけじゃ人の心は掴めません」


「歓迎するぞ鍛冶屋グレン。そなたの作った武器で、ゴブリン共がやっつけられたそうだ。良くやってくれた。礼を言う」
 グレンは片膝をついて、深々と礼をした。王は上機嫌のまま続ける。
「して、今回は何用だ?」
「はい。昨日の事ですが、悪魔と名乗る男が私を尋ねて参りまして……」
 王の表情が一変する。
「本物か?」
「間違いありません」と、グレンは断言。
 王はしばらく無言で考え、2人の様子を見守っていた兵と大臣に退室を命じた。2人きりになった後、王はグレンに小さく尋ねる。
「悪魔は何と?」
「取引を持ちかけてきました」
「どのような取引だ?」
「私の願いを叶える代わりに、北の街付近の湖の人払いをする。という取引です」
 グレンは正直に答えた。王は首を傾げる。悪魔が出てくる心当たりはあるが、取引内容の意味は分からない、といった様子。
「それで、そなたはその取引を受けたのか?」
 グレンは静かに首を振る。
「いえ。断りました」
 いつからか、嘘をつくのが苦ではなくなっていた。今のグレンには、自分の利益を追求する事に躊躇いが無い。
「そうか。……ふむ」
 と、しばし王様が思慮に耽る。
 やがて何かを決断したように、グレンにこう言った。
「これからそなたに見せる物は、私の、ひいてはこの国の極秘事項だ。他言を禁じ、反した場合はその首が無いと思え」
 玉座から立ち上がり、例の秘密の通路の扉を開けた。グレンはさして驚かず、王に追従する。通路の途中から更に秘密の扉を開き、地下に降りる階段を2人は下っていった。
 羊皮紙に書かれた地図と小さなナイフ、それから契約書を見て、グレンは事態を把握する。
「民を救う為、我が血を生贄に捧げたのだ」
 王の言葉。グレンは内心で、「それはまるっきり逆だろう」と毒づいた。
「感服いたします」と、わざとらしい相槌。
「悪魔は再び現れると思うか?」
 王が恐れていたのは、先代から伝えられているデーモンによる虐殺事件だった。前の時は都合よく隕石が落ちてきて、デーモンを退治したらしいが、今度もそうなるとは限らない。帝都の民を殺されれば、軍備を怠った王に責任が及び、反乱の火種となる可能性がある。王自身の身も危うい。グレンはその心中を正確に読み取り、こう答えた。
「悪魔はおそらく、南の街に向かったはずです」
「ほう。その根拠は?」
「現状のこの国では、帝都を占拠しても東西南北それぞれの街から攻撃があればそれでおしまいです。自分がもしも魔物側ならば、まずは東西南北の街をある程度攻略し、それから帝都を攻めます。なぜ南に向かったかというと、北には既に別の魔物がいるからです。例の悪魔が持ちかけてきた取引が根拠です」
 確証があった訳ではないが、グレンは自信たっぷりに言い切った。王も思わず納得する。
「ふむ……なるほど」
 王は地図を見下ろす。グレンは注意深くその様子を観察する。
「して、そなたに何か案はあるか?」
「はい。まずはこの北の街を封鎖するように資源を配置してください」
「なぜだ?」
「魔物は資源に湧く結晶石に近づけない性質を持っています」
 王はグレンを見返す。
「結晶石?」
 グレンはほんの一瞬、「しまった」というような顔になる。結晶石の事すら、王は知らなかったのだ。それに気づけなかったというミス。わざわざ自分から言ってしまったというミス。しかし今更前言を撤回するのは不可能だ。
「え、ええ。資源の近くには常に、結晶石という石が湧くようなのです。自分はこれを採取しました。少年の為に打った武器は、結晶石によって作りました」
 王の表情はみるみる内に強張る。
「なぜそれを早く言わん。次から、見つけた結晶石は必ず私のもとに持って来るのだ。勝手に使う事は許さんぞ」
「かしこまりました」
 グレンは深々と頭を下げた。しかし、言う通りにするはずがない。見つけたのを隠す手間は増えたが、何にせよ結晶石は王を没落させるのには必須だ。
「とにかく、ならば資源で北の街を囲むべきだな。昨日悪魔が帝都に現れたという事は、南の街まではしばらくかかるだろう」
 まるで自分が思いついたかのように王が言った。が、グレンにはそれに同意する他無かった。
 早速、王はナイフで親指を傷つけ、例の契約を執行しようとしたその時、グレンが尋ねた。
「つかぬ事をお伺いしますが、資源の質、例えば湖の大きさや鉱山の深さというのは、王の意思で決められるのですか?」
 王は答える。
「そうだ。しかし制限があってな。同じ種類で同じ規模の物は配置できない」
「ならば」と、グレンが食いつく「最大の物を配置していただけませんか。資源の規模が大きければ、どうやら結晶石も良い物が取れるようなのです。それが最大の物であれば、悪魔を倒す武器が作れるかもしれません」
 王はしばらく考えた後、渋々納得する。
「了承した。では、北の街を囲むように、最大の氾濫原を配置しよう」
 そして契約が執行されようとした……が、なぜか王の血を含んだ紙片を北の街付近に設置しようとしても、紙が滑るように移動して机から落ちてしまう。何度やっても同じようで、王は明らかな憤りを見せる。
「これは一体どういう事だ」
「分かりませんが、何か別の条件があるのかもしれません」
 グレンは表面上は冷静だったが、内心ではかなり焦っていた。これで、王に新たな資源で街を囲ませて、安全に悪魔との契約を果たすという案が成立しなくなってしまったからだ。
「仕方ありません。代わりに南の街を囲いましょう」
 南の街を囲おうとしても、紙片はそれを拒否した。どうやら、完全に街を囲う事は出来ないらしい。
 結局、南の街から少し離れた場所に設置する妥協案に落ち着いた。
「それでは、私は今すぐ南の街へ向かって結晶石を採取してまいります。その石は新たな武器の製作に利用しても構いませんか?」
「許可しよう。ただし、次に結晶石を見つけたら必ず報告に来るのだ」
「もちろんです」
 グレンは王宮を後にし、その足で南の街へ向かった。
 そして帝都に帰還した次の日の朝、グレンは結晶石を使って再び武器を打った。

『妖剣 ノイニモッド』

     


     

【魔王】所持モンスター:ワーム(緑4)
    支配モンスター:ウーズ(黒1)×2 ゴブリン(灰2) デーモン(青4)
    支配中の街:西、東

 デーモンがグレンに接触してから、一夜明けても、二夜明けても、人々が湖からどく気配は無かった。それどころか、小屋まで建てて湖の近くに住み始めている人間さえいる。
「これは一体どういう事だ?」
 ネイファはデーモンに問う。
「裏切られましたかね」
「……だから人間は信じられん」
「移動しますか?」
 ネイファは少し考え、答える。
「いや、もしかしたら……もしかしたら何か事情があってここまで来れないのかもしれん。もう少し待つ」

・ワーム1体を設置
・ワーム1体、デーモン1体、ゴブリン1体を移動

     


     

【勇者】武器レベル3 所持金:900G

 南東に移動したゴブリンを追いかけ、昨日と同じように始末した。
 帝都まで戻って王に報酬をもらい、装備を整えようかと考えていると、わざわざ王の使いが少年の下へやってきて、報酬を渡していった。少年には、なぜ王がそこまで自分の事を気に入っているのかの理由が分からなかったが、あまり気にしない事にした。
 今は、南西から感じる強力な魔物の気配の方が心配だ。おそらく、ライトリーハートでは太刀打ちできないだろう、と少年は直感していた。

南へ移動、ゴブリンを撃破 所持金+400G

     


       

表紙

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Neetsha