Neetel Inside ニートノベル
表紙

仮面ライダーW(仮題)
彼が望むP/囚われた者 ①

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 人々は逃げ惑っていた。
 誰だって火傷はしたくない。そもそも溶岩に触れて火傷程度で済むかどうかは分からないが、とにかく誰だって痛い思いはしたくない。
 飛び交う溶岩に当たらないよう、人々は全力で走って怪物から逃げている。
 怪物――ドーパントはその様子を面白がりながら、次々と溶岩を飛ばす。
「ひゃっひゃっ。おら、逃げろ逃げろォ」
 まるで力に酔いしれているかのように狂った若者の声。マグマの記憶を包容したドーパントはまさに暴走していると言えた。
 次第に周囲から人はいなくなり、とうとうドーパントだけになる。
「なんだぁ、もうみんな逃げちまったのか。つまんねぇ」
 マグマドーパントは周囲を見回す。そして立ち並ぶ建造物を見て不気味に笑った。
「人がいねえなら建物を片っ端から溶かすしかねえなぁ。ひゃっひゃ」
 身体がグツグツと震える。破壊行為を行うため、力を蓄え始めたようだ。だが――
「おいたはよくねえな」
 マグマドーパントの後ろから声がかかった。振り返ると、黒い帽子を持った青年がバイクから降りるところだった。
「それはガキの玩具じゃねえ」
 ふぅっと帽子に息を吹きかけ、頭にかぶる。
「なんだァ? まだ逃げてないやつがいたのか。建物を溶かす前に、まずはお前だなあ」
「説得は無駄か。まあそうだろうと思ったが」
 青年は懐から赤を基調とした機械――Wドライバーを取り出すと、腹部にあてがった。するとそれからベルトが伸び、彼の腰に固定される。
「フィリップ、変身だ」
 青年は言う。すると彼の脳内に別の少年の声が届いた。意識がリンクしたのだ。
「最近噂になってる、メモリで暴れるチンピラみたいだね」
「被害が少ないうちに倒すぜ」
「ああ、翔太郎」
 青年――翔太郎はJの文字が刻まれた黒いガイアメモリを取り出す。
『ジョーカー!』
 ガイアウィスパーが鳴る。続けて彼の脳内で『サイクロン!』とガイアウィスパーが鳴った。
 翔太郎のWドライバーにCの文字が刻まれた緑色のガイアメモリ――サイクロンメモリが転送された。ジョーカーメモリを持つ手と反対の手でドライバーの奥にサイクロンメモリを押しこむ。
 続けてジョーカーメモリをドライバーに挿入。そして両手で弾くようにして斜めに倒す。
『サイクロン! ジョーカー!』
 再び鳴り響くガイアウィスパー。そしてそれを合図に翔太郎の身体が変質していく。疾風と切り札の記憶、そしてフィリップの意識を包容した戦士へと。
 ボディのセンターラインを分け目に緑と黒のカラーリングをした街を守るヒーロー、仮面ライダーW。
「さあ――」
 翔太郎とフィリップ。二人の声が重なる。
「お前の罪を数えろ」
 左手の指先をマグマドーパントに向けて突き出す。そして風を切って駆けだした。
 マグマドーパントは溶岩を飛ばして迎撃。Wはサイクロンジョーカーフォーム特有の素早さでそれを避けていく。
「あの遠距離攻撃は少々面倒くさいね」
「なら、こいつで行くぜ」
 ジョーカーメモリをドライバーから引き抜く。そして変わりにTの文字が刻まれた青いガイアメモリ――トリガーメモリを取り出し、ドライバーに挿入した。
『サイクロン! トリガー!』
 黒かった左半身が青色に変わる。仮面ライダーWサイクロントリガーフォームだ。そして胸部には同じく青色の銃器――トリガーマグナムが現れた。すかさずそれを手に取ると、飛ばされてくる溶岩を風の弾丸で次々と撃ち落とした。
 圧倒的弾速をほこる風の弾丸は、マグマドーパントが溶岩を飛ばしてもあっという間に撃ち落とす。速さ、手数は圧倒的にWの方が上だった。
 ここぞとばかりに、風の弾丸をマグマドーパントの身体に撃ちこむ。素早い連射でドーパントは身体をよろめかせ、ついには地面に転がった。
 その隙にトリガーメモリを引き抜くと、再びジョーカーメモリをドライバーに挿入。サイクロンジョーカーに。そして風のような速さで駆けだす。
 マグマドーパントが立ち上がる頃にはWはすでに正面まで肉薄していた。容赦のない蹴りの連撃がドーパントを追い詰めていく。
「適合率が低いんだろう。大したことはないね」
 フィリップが言う。
「ああ、これで決めるぜ」
 ドライバーからジョーカーメモリを取り出す。今度はそれを右腰にあるマキシマムスロットに差し込んだ。
『ジョーカー! マキシマムドライブ!』
 Wは風を纏い空高く飛び上がる。そして空中で身体はセンターラインを境に分離。
「ジョーカーエクストリーム!」
 分離した身体が交互に強力無比な蹴りをマグマドーパントに叩きこむ。叫び声とともに衝撃波が地面を走った。
 カラン、と音を立ててマグマメモリが地面に落ちる。マグマドーパントの変身が解除されたのだ。
 変身していた少年が地面に転がる。まだ終わりじゃないと言わんばかりに、メモリに手を伸ばしながら身体を引きずる。だが、それもむなしくメモリは音を立てて砕け散った。


 鳴海探偵事務所の扉が開く。翔太郎が戦闘を終えて帰還してきたのだ。
「おかえりなさい」
 しかしそれを迎えたのはフィリップ、亜樹子だけではなかった。
「おかえり翔ちゃん」
 依頼人が座るソファに二人の女性。制服姿で手には携帯電話を持っている。
「お疲れのとこ悪いけど、依頼人よ」
 亜樹子は二人の女性を指さしていった。
「クイーンにエリザベスじゃねえか。どうしたんだ」
「亜樹ちゃんが言っただろう。彼女たちは仕事の依頼をしにきたんだ」
 フィリップは小馬鹿にするようにして翔太郎に言った。
「分かってるっての。依頼の内容は? ってことだよ」
 翔太郎はクイーンとエリザベスの正面に座った。
「私たちってさ、けっこうモテるんだよね」
 クイーンが少し得意げに話を始める
「だから男に告白されることもよくあるんだけど」
 エリザベスもそれに続いた。
 亜樹子がスリッパを手にして不快そうな表情を浮かべている。その様子を見てフィリップは他人事のように笑う。
「最近迫ってくる男がしつこくてさ、どうにかして追い払いたいんだよね」
「そこでお願い。翔ちゃんとフィリップに私たちの彼氏のフリをしてほしいの」
 カッコよくポーズを決めながら話を聞いていた翔太郎は依頼の内容に拍子抜けしたのかずるりと滑るような反応をした。
「どんな依頼かと思ったら、そんなことか。探偵の仕事じゃねえぞ」
「モテるっていう自慢したいだけなんじゃないの?」
 ここぞとばかりに亜樹子も横槍を入れる。
「だって翔ちゃんくらいしか頼りがいのある男っていないしぃ」
「私たちの仲じゃん? ね?」
 翔太郎が返事を渋っていると、以外にもフィリップが話に入っていた。
「いいじゃないか翔太郎。中々面白そうだ」
「流石フィリップ君! 話が分かるぅ」
 エリザベスは声をあげて喜ぶ。
「たまにはこんな依頼でもいいじゃないか。それに、好きな相手に恋人がいたときの相手の反応に興味があるんだ。一体どんな表情をするのか……」
「……ま、お前がそういうなら仕方ねえ。ハードボイルドのかけらもねえが、その依頼引き受けるぜ」
 フィリップの意思表示で折れたのか、翔太郎はやれやれと言いたげに了承した。
「じゃあフィリップ君は私の彼氏役ね」
 エリザベスはそう言ってフィリップの腕に抱きついた。
「翔ちゃんは私ね」
 クイーンはそんなエリザベスを尻目に静かに言った。
「きっと引き受けてくれると思ったよ」
 そう言って立ち上がると、クイーンは「行くよ」とエリザベスをフィリップから引き離す。
「それじゃ、明日の午後一時に風都駅前集合ね」
 待ち合わせの時間を伝え、二人は事務所から出ようとする。が、扉の目の前にはスリッパを持った亜樹子が立ちふさがっていた。
「まさかこのまま帰る気?」
 誰が見ても分かるほどの気持ちのいい作り笑い。
「依頼料、きっちり払ってもらいますからね!」

       

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