Neetel Inside ニートノベル
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仮面ライダーW(仮題)
報告書

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 こうしてまた一つの事件の幕が閉じた。
 事件とはいいつつも実際はそれほど大規模な被害はなかった。今回の敵は自らの目的の障害となる俺たち仮面ライダーを最初から狙ったおかげかもしれない。不幸中の幸いってやつだ。
 狙われた俺と照井もそれほど大きな怪我をせずに済んだ。俺は右腕を凍らされたがすぐに病院に行ったおかげで特に後遺症などは残っていない。照井の傷もそれほど深いものではなかったようで(これはアサシンの攻撃に殺意がなかったからだろう)ちょうど今日職場に復帰したそうだ。相変わらずタフな男だ。
 だが照井に無理をさせたのは俺のせいでもある。そこは今でも申し訳ないと思っている。俺はまだまだ弱い。心も体も。


 フィリップがいなくなってからもガイアメモリを悪用する輩とは何度も戦ってきたが、今回はその中でも特に手ごわい相手だった。
 彼らの目的は風都をめちゃくちゃにすることだった。だからこの街を愛する人間として、本当に阻止できてよかったと思っている。だが、少し考えさせられたこともある。
 俺も彼らも風都の住民だが、彼らは俺と違ってこの街を愛してはいなかった。俺も彼らも、ずっとこの街で生きてきたのに、どうしてこの街に対する思いが違うのか。
 警察の事情聴取で彼らは犯行の動機をこう述べたそうだ。

「好きなだけ暴れられる無法地帯が欲しかった。だから宇治原の話に乗ったんだよ」
 これはハンマーメモリの使用者である桐谷の動機だ。元々暴力的な性格で過去にも傷害事件を何度も起こしてきた前科持ちの男だ。
 彼に関しては一切擁護できない。ただ、反省してくれることを願うばかりだ。

「高校時代で全てがおかしくなった。俺を苦しめた人間の人生も狂わせてやりたかった。だから街ごとめちゃくちゃにしてやろうと思った」
 これはリストレインメモリの使用者である日岡の動機だ。彼は高校時代にクラスのほとんどの人間からいじめられて学校を辞めたのだという。先生ですら彼を助けてはくれなかったそうだ。だから彼らに対する憎悪が彼を駆り立てた。
 彼の人生を変えたのは確かにいじめた人間と救いの手を差し伸べなかった先生なのかもしれない。そしてそれらの人間は風都の住人。つまりこの街の一部だ。
 風都が彼の人生をおかしくした。そう考えてもおかしいことではないのかもしれない。少なくとも日岡という人間の境遇では。

「職を失い、妻を失い、金を失い、八方ふさがりだったんです。失うものが何もなかった。のたれ死ぬくらいだったら……そう思ってやりました」
 これはアサシンメモリの使用者である斎藤の動機だ。俺は実際に戦ったからなんとなく分かるんだが、彼は四人の中でも飛びぬけて根が優しい人間だ。ただ、気が弱かった。追い詰められてから這い上がる強さが足りなかったのかもしれない。
 ただ、俺がそのように行っていいものなのかどうか。俺は彼のように追い詰められた経験はない。自分が同じ状況になったらどうだろう。そう考えてみても想像しきれることではない。

「昔からこの街で生きてきて良いことなんて何もなかった。俺は風都が大嫌いだ。だからめちゃくちゃにしてやろうと思った。今でも大嫌いだよ」
 これはパラレルドーパントの使用者である宇治原の動機だ。彼は四人の中で一番この街を嫌悪していた。いや、きっと今もそうだろう。
 彼は日岡のように学生時代はいじめを受けていたそうだ。小学生から高校生までの十二年間ずっとだ。
 両親は小学生のときに離婚。母方に引き取られたが再婚した義父から数年間虐待を受けていたと言う。幸い……と言ってはいけないのかもしれないが義父は数年で事故死。それから虐待を受けることはなくなったという。
 高校と大学の受験は失敗。浪人した入った大学も中退。その後数年間は無職、ここ最近になって就職活動を始めたそうだがそれもうまくいかず。そこで偶然ガイアメモリを入手して、今回の事件を起こそうと考えた、とのことだ。
 ざっと今挙げただけでも彼の人生が決して良いものだったとは言い難い。この街で生きてきて、こういう目にあってきたのだ。街を嫌いになってもおかしくない。
 だからこの街をめちゃくちゃにしてもいいのかと言われたら、俺はノーと答えるだろう。だが、彼はそれで納得がいかなかった。
 そして彼は今回の事件を起こしたのだ。テロリストと言っても過言ではない。
 多くの人が、そして風都そのものが泣いてしまう。だから俺は彼を止めた。
 結果としてこの街が救われた。だが一方で何も救われなかった人間がいるのも確かなのだ。彼ら四人は法によって裁かれることになるだろう。そして服役後、まっとうな人生にもどれるのだろうか。ガイアメモリの後遺症だってあり得る。自業自得と言えばそれまでなのだが、彼らが犯罪を犯すにいたる経緯を知ってしまうと、どうしても煮え切らない気持ちが俺の中で首をもたげるのだ。
 甘い、と言われたらそこまでだ。実際、周囲の人間からよくハーフボイルドと言われる俺は半人前の人間なのだろう。
 だけど、この気持ちを忘れてはいけない。そんな気がするんだ。


 先ほども言ったことだが、俺はまだまだ弱い人間だ。それがこの事件でさらに浮き彫りになった。
 未練。俺はまだ断ち切れていないのだ。
 フィリップと別れてから半年以上が経った。だが、俺まだか相棒に会いたいと心から願っている。
 今回の事件でも俺のそんな気持ちがパラレルドーパントに利用されてしまった。
 結果、一時的にだが俺はフィリップと二人でまた探偵の仕事をする日々を生きることになった。正直に言うと、すごく楽しかった。
 俺はやっぱりフィリップがいないと駄目なのかもしれない。
 これは気のせいかもしれないが、最近ずっと何かに見られているような感覚に襲われている。フィリップが俺を見ているんじゃないかって、思っている自分がいる。
 もしフィリップだとしたら、こんな俺を見てどう思うのだろうか。
 ハーフボイルドだと言って笑い飛ばすかもしれない。でも、それでいい。目指す先はハードボイルドな男だが、フィリップとまた探偵を、仮面ライダーをやっていけるのなら、まだハーフボイルドでもいい。そう思ってしまう。
 俺たちは今まで二人で一人の探偵だったからさ。……なあフィリップ。










 ……そう言えば今日は照井の快気祝いをやると亜樹子が言っていたっけ。
 噂をすればなんとやら。事務所の扉が開いて照井と亜樹子が入ってくる。さらに刃野さんとマッキー、風都の顔なじみが続々と続く。
 って、亜樹子! なんだそのバカでかいのは?
 お祝いのケーキ? そうじゃなくて、なんでそんなでかいのを買ってきたんだよ。ってうかそのサイズのケーキはいったいどこで売ってるんだ!? 天井にくっつきそうじゃねえか。
 おい、前をちゃんと見ろよ、前、前! 倒れる倒れる……馬鹿ッ! こっち来るな!
 だから倒れる、倒れるって。足元に気をつけろ。テーブルはそこだ。慎重に、慎重に置けよ。転んだら大惨事……ってああああああああああああ!!!

       

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