Neetel Inside 文芸新都
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【簡単!】友達の作り方【割高!】
依頼主(09/14

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 とりあえず龍姫は、目の前にある『うで(右)』と書かれた箱を開けた。
 箱に記されたとおり、中には大量の梱包材と一本の右腕が入っていた。
 龍姫は、おそるそそる入っていた腕を拾い上げ、質感を確かめた。
 いろいろな角度から見た。
「こ、これはリアルすぎるよ」
 二十分観察して得た結果がそれだった。
 とりあえず、空になった箱に梱包材を詰めなおし、廊下に押し出す。
 腕は絨毯に丁寧に置き、新しい箱に手をかける。
「夏希さん、どうなってんのよ」
 龍姫は次々と箱を開け、やったらとリアルなパーツを人間と同じ形に整理していく。
 見ようによっては、龍姫がバラバラ殺人でもしたんじゃなかと思えてしまう。それほど龍姫の並べたパーツは、人間のそれに告示していた。
「まったく、夏目さんも厄介なことを頼んできたもんだ」
 つぶやいたのはこの仕事の依頼主。帰る途中でやたらとでかい音を響かせていた石突重工のヘンテコ開発者のことだった。
 そんなヘンテコ開発者の、もはや芸術品ともいえる現代の技術に感心しながら、龍姫は感嘆の息を吐く。
「何が、たっちゃん頼んだわよ! なのよ。調子がいいんだから」
 龍姫は、「実入りの良いバイトがある」と言葉巧みにこの仕事を押し付けた夏木のことを恨んだ。
「なにが『バイト代はずむから』よ」
 恨んでみても、龍姫は夏希その一声に屈したのだ。
 愛でるような手つきで、夏目は龍姫の金色の細い髪をなでつつ、少し潤んだ瞳で龍姫のほうをじっと見て、いかにも誠意がこもってます。といわんばかりに龍姫に頼んできたのだ。
 もし、あれが頼み事ではなく、違うシチュエーションだったなら、龍姫はめくるめく女の園への第一歩を踏み出してしまっていたに違いない。それほどに夏樹は魅力的であった。
 魅力的だが頭が少し残念だ。それは天才故だからなのか、どこかズレていたのだ。
 まず、春夏秋冬年がら年中、年中無休で白衣だ。どうして違う服を着ないのかと龍姫が尋ねたことがあったのだが、「服を着てないと他の連中が五月蝿いから」だそうだ。メカトロニクスの最王手、石突重工の年中快適空間で服の概念をなくしてしまったらしい。
「また厄介なのを引き受けちゃったなぁ……でも、受けたのは自分だしなぁ」 
 と悔みのため息一つ。
 高給取りの夏希とは違い、龍姫は普通の学校に通う一介の学生で、しかも並の物欲は存在する。
 故に、財布には暇を持て余している硬貨や紙幣など無く、貯金残高などあってないようなものだ。原因は分かっている。レアなカエルの商品だ。
 今回の仕事も、新しいカエルの商品発売を一週間前に控えた簡単で即金。そして高額というのが龍姫の心を動かしたのだ。
 それだからといって、ろくに仕事内容も聞かずに返事をするんじゃなかった。そんなため息だ。
「ん?」
 パーツは全部出し終えたはずなのに、部屋の中にはまだ箱が幾つかあった。
「説明書?」
 一番小さなダンボールに、その文字はあった。
「おもっ」
 箱には梱包材はなかった。
「う、うそでしょ」
 代わりに、目が眩むような分厚い説明書が何冊も詰まっていた。
「これ、人殺せるんじゃないの?」
 入ってるうちの一つを取り出し、まずはその分厚さに驚愕する。辞書なんてレベルじゃない。下手をしたら2リットルのペットボトルの横幅くらいはある。重さだって赤ちゃんくらいある。
「こんなの読めないわよ……」
 日頃から漫画しか読まない龍姫には、契約期間中に一冊を読み切ることも難しいかもしれない。
「でも、夏木さんなら……」 
 が、そこはよく知った仲。いくつかの仕事を受けた龍姫が夏希をネジが跳んでる人だと理解しているように、夏希だって龍姫がネジを落としてることくらい分かっている。
「やっぱり」
 一つだけ紙袋。表記されていたのは『りゅうひめ用』の文字だ。
 何も言わず、その文字を見つめた龍姫は、舌打ちを一つ見舞ってから袋の封を破いた。
 あったのは、薄っぺらい紙切れが三枚。うち二枚は、プラモデルの組立図のようなものだ。恐らくは送られてきたバラバラ死体の組み立て方だろう。 
「ほいじゃぁやりますか」
 まだ寒いというのに腕まくりをし、龍姫はお仕事を開始した。

       

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