Neetel Inside ニートノベル
表紙

コンピューターシティ
8,輝く星になれ

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~前回までのあらすじ~
東大寺「たわけ! 私のような女がお主のような男と何の理由もなく飯を食うはずがなかろう! 私と友達になった者は皆死ぬのだ。お主ならば、学校と家の往復の恐ろしく地味な生活を送ってるから死なんだろうと思って、選んだのだ。そしたら変なゲームやりおって! ブチ殺すぞ!」
加藤「なっ・・・!」
西川「いつから俺が『いじめられっ子』だと錯覚していた?」
加藤「なん・・・だと・・・?」
大体そんな感じ。

     ☆

 俺がしばらくのあいだ『コンピューターシティ』をサボっていた間も、シーズンは続いていて、試合は行われていた。俺がログインしないと、どうやら怪我で欠場とか、適当な理由が勝手につくようだった。俺が数日いない間に連敗していたらしく、首位にいたチームはいつの間にか4位まで沈んでいて、チーム状態も何となく悪くなってきた。一位と二位が、ヤクルト、広島という変な状況だった。

     ☆

 俺が復帰すると、即三番に起用された。ブランクの影響は思いのほか大きく、ストレートの球威に差し込まれて、復帰後初打席は内野フライだった。しかし同点の九回、サファテのストレートを上手くセンター前に運んで、サヨナラヒットを打った。
「今日のヒーローは、ケガから復帰後、いきなり、見事なサヨナラヒットを放ちました、加藤選手です!」
わー。
「ありがとうございます!」
わー!
すっかり口癖がありがとうだと思われているが、そんなことはない。
「見事なセンター返しでした! サファテ投手の豪速球に力負けせず、はじきとばしました! 今のお気持ち、いかがですか」
「そうですね。離脱してる間、チームに迷惑をかけていたので、こういう形で挽回できて、よかったと思います」
ヒーローインタビューも板についてきた。いい感じだ。やはり俺の居場所はここなのかもしれない。

     ☆

 俺の活躍もあって、横浜は3位に浮上した。チームの雰囲気も大分改善してきた。ロッカールームで西川がこんなことを言った。
「スポーツステージのクリア条件って、多分、チームが日本一になることなんじゃねーかな」
そういえばクリア条件とかあったな。
「クリアするとどうなんのかな」
「さあな。でもま、俺はもうクリアとかどうでもよくなってきたな」
「俺もだ」
今までゲームっていったら、クリアすることしか考えてなかった。まるで東大生がテストの点数を伸ばすことしか考えないように、俺はゲームといったらいかに早くクリアするかが全てだと思っていた。
「でもチームが日本一だったら、横浜じゃ一生無理じゃね?」
「だよな」

     ☆

 プロ野球に詳しくない人のために一応補足しておくと、数年前からプロ野球にはCS(クライマックスシリーズ)という制度が導入された。それ以前はシーズン140何試合の結果でセ・リーグ、パ・リーグの一位が決まり、その一位が日本シリーズを戦って、日本一が決まるというシンプルな制度だった。しかしこれだとシーズン終盤にはもう結果が見えている場合が多くて、優勝争いに加われないチームのファンは何の楽しみもなくなってしまう。それでも昔は野球人気が高かったから制度をいじろうとはしなかったけれど、人気が低迷してくると、そうも言ってられない。そこで「テコ入れ」的に導入された制度がCSだ。
 CSは、シーズン終了時に三位だったチームと二位だったチームが直接対決して、三試合やって勝ちが多かった方が、一位のチームと戦う。一位には一勝のアドバンテージがついて、先に四勝した方がリーグ優勝となる。この制度が導入されてから、優勝は厳しい下位チームにも、シーズン終盤にCS出場という目標を持ち続けることができるようになった。
 Aクラスに入ればチャンスはあるんだろうが、なかなか横浜の現実は厳しい。3位に浮上したのも一瞬で、今年は例年よりも投手陣が悪くて、打線が何点とっても投手がそれ以上に失点しやがるので、西川先発の日以外はほぼ負けの計算だった。キャッチャーも細山田、黒羽根、武山となかなか固定しない。

     ☆ 

 遂にチームが最下位になった時、全員が帰った後、一人残った俺はロッカーにグラブを叩きつけた。
「ふざけんな!」
今日の試合、俺は4打数3安打だった。文句なしの活躍のはずだ。しかし試合は中日8点、横浜3点で負け。今年オリックスから横浜へ移籍してきた山本省吾というピッチャーが乱調で、三回五失点でノックアウト。その後も中継ぎが順調に失点して、終わってみれば完敗だった。
 俺のヒットが得点に結びついたのは初回だけだった。二回目のヒットは村田の併殺打で潰された。三回目のヒットはツーアウトからで、村田へのフォアボールで、一二塁になって、バッターがハーパー。内野フライを打ち上げてチェンジ。
「なんなんだよこれ・・・」
自分の努力と、チームの結果が結びつかないのが、こんなに苦しいとは思わなかった。去年まで内川はこんな気持ちでプレーしてたのか。
 去年は俺自身が新人で、自分のことで精一杯だったから気づかなかったけど、横浜のチームの雰囲気は最悪だ。まず全然練習しない。野手は相手投手を研究しないで、ほとんどぶっつけ本番でやってる。投手もキャッチャーもバッターを研究してない。だから勝てる時もあるが、ここ一番の勝負で簡単に負けてしまう。こういう腐った現状を変えるような監督も選手もあらわれない。そりゃ他球団から舐められるのも無理はない。村田も一応キャプテンで、頼りなるところもあるけれど、基本的にはマイペースなやつで、キャプテンとして細かい人間関係を調整できるようなタイプではない。真面目に練習している奴が馬鹿を見るような雰囲気すらある。先発陣は西川以外総崩れと言ってよかった。西川だけが7勝2敗防御率1.98と活躍していたが、他のピッチャーは5勝以上がいないという酷い状況だった。一応エースの三浦は4勝7敗、山本省吾は2勝5敗。他の先発はそれ以下だった。
「横浜では誰を信じてよいか分からなかった」
ソフトバンクに行って活躍している内川がテレビで言っていた言葉を思い出した。

     ☆ 

 交流戦がはじまった。相手はソフトバンクだ。ソフトバンクは親会社が金使いまくって、一時期の巨人も真っ青の強奪球団と化した。パリーグではぶっちぎりの一位で、優勝ほぼ間違いなしと言われていた。
 内川が打席に立つと、浜スタは大ブーイングに包まれた。内川はものすごい表情で、観客を少し睨んだが、すぐにピッチャーに目線を戻した。今日の先発は西川。ツーアウトランナーなし。内川は明らかに去年より一回り体が大きくなっている。
 今年、西川は変化球を一つ増やして、元々カーブ、フォーク、シュートの三つの変化球に、ツーシームを覚えた。ツーシームというのは、ストレートの握りをほんの少し変える変化球で、ほぼストレートの軌道で打者の手元で微妙に変化する球だ。これが芯にあたらないと飛ばない統一球とあいまって、効果的にバッターを打ちとれる球になっていた。
 初球はツーシームで、内川はファールした。二球目は外角低めのストレートを空振り。三球目、四球目はボール球を見逃して、ツーツー。そこから決め球のフォークを投げたが、これをファールで粘る。セカンドでそれを見ながら、何となく打ちそうな予感がした。
 その予感は的中して、次の内角の厳しいツーシームを、芸術的な体の開きで上手く流し打ちした。打球は俺の頭を超えて、右中間を真っ二つに飛んでいった。ツーベースだった。

     ☆

 結局ソフトバンクとの三連戦は三タテ(三連敗)された。価値が計算できるはずの西川で1対2と惜敗すると、他の先発陣では当然勝てるはずがなかった。
「勝ちてえ・・・」
生まれて初めて、負けることの悔しさを知った。

     ☆

       

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