Neetel Inside ニートノベル
表紙

コンピューターシティ
1,アキハバラブ

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 いつものように新しいゲームを探すために、チャットルームに入った。そこのチャットは、ヘビーゲーマーしか集まらないことで有名なチャットで、難易度の高いゲームを互いに紹介し合う所だった。普通のゲームというのは、やはりたくさんの人間がプレイできるように、難易度は低目に設定する。ちょっと気の利いたゲームだと、難易度がある程度調整できて、難しくすることも出来るが、俺くらいのヘビーゲーマーになると、それじゃ全然足りない。重度の辛いもの好きが、普通の辛さじゃ物足りないのと一緒だ。
 俺がゲームの価値を、どれぐらいの難易度なのか、という尺度だけで判断するようになったのはいつからだろうか。誰にもクリアできないようなゲームをクリアできた、そういう瞬間にだけ、生きてる喜びを感じるようになったのはいつからだろうか。
 このチャットで、俺は海外のシューティングゲームだとか、格闘ゲームを紹介してもらった。シューティングゲームは、最弱の機体が最強の敵に挑むというコンセプトでつくられていたので、普通のシューティングゲームと違って、ビームやボムは一切なく、最初のガンのままラスボスまで行かなければいけない。その上、敵の数が尋常でないくらい多い上、一発で死なない敵も多い。これは俺が今までプレイしたシューティングゲームの中でも、一番難しかった。夏休みだったので、一週間丸々かけてようやくクリアした。格闘ゲームはストリートファイターのパクリだったが、難易度だけ調整してあって、体力が通常の10倍になっていて、技の種類がめちゃくちゃ増えていて、CPUも尋常じゃないくらい強くなっていて、これもなかなか難しかった。
 
            ☆

 チャットに入ると、俺以外には一人しかいなかった。基本的にここのチャットは人口が少ないから、入っても誰も来ないということが結構あるので、人がいるだけでもラッキーな方だ。

(Kさんがログインしました)
K  こん
west こん^^
west いやー、ずっと人来なくてさみしかった
K ここは人少ないもんね
west まあその分コアゲーマーが集まってるから居心地はいいけどね

その後お互いに思い出に残ってるゲームの話で一通り盛り上がった。そのwestという人は、社会人らしいが、俺以上のヘビーゲーマーらしく、俺が知ってるゲームは大体知っていた。

west そうそう。君になら言っていいかな。
K 何を?
west 「コンピューターシティ」ってゲーム知ってる?
K 何すかそれw
west まあ普通知らないと思うよ。何ていうか、普通のゲームじゃないから
west インターネットを使って、自分の分身を仮想空間に送り込んで、色々   ストーリーを進めてくんだ。
K へえ。ジャンルは?ほのぼの系?
west んー、なんつったらいいんだろうw

ネトゲかなんかなのか。でも興味あるな。

west 興味ある?
K うん。やりたい。アド教えて
west あー、アドじゃないんだ。
K え?ネトゲじゃないの?
west いや、ネトゲなんだけど。
west ぶっちゃけ、ちょっとヤバイゲームなんだ。

ヤバイ?

K どうすりゃいいの?
west とりあえず、俺のアドレスにさー、捨てアドでもいいから、メール送   ってくんない?westsidestory3344@gmail.com
K  え?チャットでいいじゃんw
west まあ個人情報とか不安だったら、この話は忘れてくれてもいいけど

モニターの前で俺は少し悩んだ。明らかにあやしい臭いがする。このまま上手いこと言って、馬鹿高いクソゲーでも買わされるんじゃないか。まあでもあやしいと思ったら、その時点で逃げればいいか、と思い、アドレスにメールを送った。

K 送ったけど
west おk。次からメールでやりとりしよう。落ちるね
(westさんがログアウトしました)
(Kさんがログアウトしました)

すぐにメールが来た。

タイトル 無題
本文 いきなりで悪いけど、この電話番号にかけて。090-****-***

俺はまた少しためらったが、念のため非通知にして、自分の携帯から掛けた。
「もしもし」
「もしもし。西川です」
「西川?」
「あ、そっか。本名言ってなかったね。HNはwest。本名西川」
「俺も名乗った方がいいんですか?」
「いやいいよ。それより、『コンピューターシティ』の話をしよう。君にはこれから、秋葉原まで来て欲しいんだ」
「秋葉原?これから?」
「あ、もちろん今日じゃなくていいよ。ははは。もうこの時間じゃ電車なんか動いてないだろうし」
「……金はいくら要るんですか?」
「秋葉原までの交通費だけ負担してくれれば、後はこっちが出すよ」
「はあ」
いよいよあやしくなってきたな、と思いながら、俺はこの辺から少しずつ楽しくなってきた。
「アキバまで来たら、この番号に電話してくれれば、ナビゲートするから。日にちはいつでもいいけど、事前に教えてね。あ、後連絡は必ずこの番号に電話してね。メールはダメ」
「はあ」
その後「コンピューターシティ」について、何個か質問した。しかしあまり具体的な説明はしてくれなかった。
「面白いんですか?」
「面白いと思うよ」

            ☆

俺は普通の高校生だ。人違う所があるとすれば、部活にも入ってないし、
バイトもしていないので、ひどく退屈しているという所だ。このうさんくさい誘いに乗ったのも、退屈しきっているせいかもしれない。
 横浜から、品川に行き、そこから山手線で秋葉原におりた。実は秋葉原ははじめだったが、予想以上に人が多くて、息苦しい。ホームの隅に行き、電話を掛けた。
「着きました」
「今どこ?」
場所を伝えると、
「じゃあちょっと待っててー。今行くよ」
と言って、切られた。五分程待つと、西川さんらしき人が現れた。黒ぶちの今風のオシャレ眼鏡、黒髪、ネルシャツ、チノパンという、こぎれいな服装の、ちょっとオタク入ってるけどコミュニケーション能力はありそうな人だった。
「君かな?」
「あ、西川さんですか」
「そうそう。んーと、高校生?」
「はい」
「へー。これからまた電車なんだ」
「えっ」
「うん。あ、ちょうど電車来た。乗ろう」
結局山手線で池袋まで行って、そこから西武線で特急に乗り、なんと秩父まで行った。
「なんでわざわざ秋葉原に……」
「特急ちちぶ15号」の車内で、俺は西川さんにきいた。
「いや、もし携帯の通話記録が残ってた場合を考えてさ、直接秩父行きにすると、一発アウトでしょ」
「……」
「君は正義か悪かで言ったら、どっちが好き?」
「え。別にどっちでも」
なんだこいつ。中二病って奴か?
「よくニュースとかでさ、ネット社会の闇がどうたらっていう話になるじゃん。でも実はネット上の犯罪なんてタカが知れてるよ。薬物の取引だって、大体ネット上でやってればいつかはあしがつく。インターネットって結局誰でもどこからでもアクセスできるものだから、犯罪者だろうと警察だろうとアクセスできるわけだ。結局は都内の裏路地で販売する方が長続きする。ふふ。これだけITが進化した結果、アナログが全く別の価値を持つようになったのは、面白いよね」
「あの……」
「ん?」
「俺、ゲームを買いに来たんですけど」
「もちろん。僕もそのつもりだ」
「なんでわざわざ秩父に……」
「詳しい説明は向こうでするよ」

            ☆

 西武秩父駅を出て、待っていた車に乗り、山道を走る。秩父は本当に山が近い。街並は思ったより綺麗だし、空気も綺麗だ。やがて民家のような建物に着いた。そこには分厚い眼鏡を掛けて、白髪交じりの髪をした六十くらいの男がいた。
 中には椅子と机がだけがあった。雰囲気は理科室っぽい。机の上には試験官と注射器がある。老人が説明を始める。
「これから、この注射器で君に小型の電子機器を流し込む。まあ厳密に言うと違うんだが、ナノマシンだと思ってもらえるといい。それが脳の血管の中に入る。そうすると君の思考を『コンピューターシティ』内にトレースすることが可能になる」
「注射……」
「もちろん、不安なら断ることもできる」
「いや、やります」
もし注射器の中身が覚醒剤かなんかだったとしたら、メチャクチャ危険だ。しかし、わざわざ覚醒剤を打つためだけに、秩父の山奥まで連れてくるというのは考えづらい。ここはむしろ、説明を素直に信じるべきだろう。
「脳の血管に入るとか、大丈夫なんですか?」
「健康面か。ほとんど影響はないが、一応病気のリスクは高くなるな」
「実は僕もこの注射打ったんだけどね、今の所何の問題もない。けど十年二十年の長期の影響となると、まだわからない」
「一応、研究所の試算では、脳梗塞、動脈硬化、心筋梗塞等のリスクが約0.1%上昇、がんになる確率が0.03%上昇するらしい」
0.1%って、ほとんどないも同然だろ。
「ホントに金は要らないんですか?」
秋葉原以降の交通費は全額もらったし、帰りの分までもらってしまった。
「うん」
「……どういうカラクリなんですか?」
「実はね、僕らはあるゲーム会社の社員なんだ。名前は出せないけどね」
「はあ」
「君としては、最先端の面白いゲームをただでプレイできる。僕らとしても、貴重な実験データが手に入る。お互いにとっていいことづくめって訳だ」
なるほど。そこで俺は注射を打たれて、USBメモリーみたいなのをもらい、「コンピューターシティ」のURL、ログイン方法が書かれた紙をもらい、家に帰った。

            ☆

 翌日は月曜日だったので、普通に学校に行った。俺は自慢じゃないが、友達が一人もいないので、特に会話することもない。成績は中の上という感じ。淡々と授業を受けて、淡々と帰ってきた。そして飯を食って、風呂に入って、早速部屋のPCを付けて、「コンピューターシティ」にログインすることにした。
 俺は普通のネトゲだとばっかり思ってたが、秩父できいた話によれば、どうも本当に自分の意識をゲーム上に飛ばすらしい。俺はURLを打ち込んだ。検索エンジンからはたどりつけないようになっているらしい。トップページには、ただ白の背景に、「コンピューターシティ」というタイトルロゴが表示されるだけで、クリックする場所すらない。ソースを見ると、文字は膨大に出てくるが、何のことだがわからない。ほとんどが暗号化されている。
 ここで、USB端子にもらった器具をさしこむ。すると器具が光り出す。「コンピューターシティ」のサイトの背景が、白から黒に変わる。これでログインの準備が完了した。後は体を安全な状態にして、頭の中でログインと唱えればいいらしい。その前に、俺は言われた通り、ログイン方法を書かれた紙を捨てた。西川さんから、
「この紙は、君が一回ログインに成功したら、すぐに捨ててくれ。普通のゴミ箱でいいから。シュレッダーにかけるのが一番だが、まあゴミ袋が漁られることなんてまずないだろうから、普通に捨ててくれればいい」
と言われていたからだ。
 俺はパソコンデスクに突っ伏して、頭の中で、
「ログイン」
と唱えた。

            ☆

 その瞬間、俺の意識は別世界に飛んだようだ。
気付いたら、俺は真っ白な広い部屋の中にいた。
そこには、西川さんがいた。

「ようこそ。『コンピューターシティ』へ」

       

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