Neetel Inside ニートノベル
表紙

コンピューターシティ
2,現実と電脳のあいだ

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~前回までのあらすじ~
西川「いいのかい?ホイホイ秩父までついてきちまって。俺はノンケでも構わず食っちまう男なんだぜ?」
俺「いいんです……なんとなく西川さんは信頼できそうだし……それに、なんかかっこいいし……」
西川「嬉しいこと行ってくれるじゃない。それじゃ、行くよ」

ブスリ

俺「うああ!ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"」
西川「ふぅ……『コンピューターシティ』にようこそ」

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 本当に説明通りにことが運んで、すごく驚いていたが、こういう場合かえって表情は硬く、無表情になってしまうものだ。西川さんはなぜか残念そうな顔で、
「あれ?リアクション薄いね」
と言った。
「すいません。いつもこうなんです」
「皆結構面白いリアクションしてくれるから、それを楽しみにこの仕事してる所もあるんだけどね」
もっと楽しいことがいくらでもあるだろ。
 しかしこれ、どうやって転送したんだ?
「これ、どうなってるんですか?」
「ああ。これから説明するよ。あのね、今現実世界では君の肉体は、パソコンの前で三日間餌をもらえなかった犬みたいにぐったり倒れてるはずだ」
「なんなんですかそのたとえ」
「君の思考回路だけが、電脳上にトレースされたんだ。今の君の体は、あくまで仮の肉体だ。現実の肉体は三日間餌を」
「わかりましたよ。脳だけが動いてる状態なんですね」
「飲み込みが早くて助かるよ。厳密には違うんだけど、直感的に説明すると、夢を見てる状態に近いね」
「なるほど」
「だから、ログインする時の体勢には注意してね。机につっぷした状態でゲームしてると、現実に戻った時腰痛になったりするから」
「え。まさに俺机につっぷしちゃってるんですけど」
「まあはじめてだからしょうがないよね。ログインの準備を全て整えたら、布団の上に横になってから、ログインすると疲れなくていいよ」
「わかりました。じゃ、ちょっと戻っても……」
「あ、説明終わってからにしてくれる?」
 西川さんの『コンピューターシティ』の説明がはじまった。西川さんは脈絡もなく、思いついたままに説明をした。

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1、時間について
「このゲームの中では、現実世界の5倍の早さで時間が流れる。このゲーム内の五時間は、現実の一時間分だ。時間がチェリーパイだとすると、チェリーパイが1個あったら、現実ではその5分の1しかないって訳だ」
(なんだそれ)
「君が12時ぴったりにログインしたとする。そして今ここで、僕と話して、ゲームスタート。1時間きっちりプレイして、ログアウトしました。現実の時計を見ると、12時12分でしかないんだ」

2、ゲームが与える現実への影響について
「『コンピューターシティ』内では、現実で出来ることは大体出来る。たとえば、食事、性交、暴行、睡眠、勉強、スポーツなどなど。もちろん感覚はあるから、殴られればめちゃくちゃ痛いし、美味いもの食えば美味いし、女の子とアレする時は気持ちいいし、走れば疲れる。ただし当たり前だけど、現実の肉体には、何の影響も与えない。だから、ゲームの中でばくばく豚のように暴飲暴食しても、現実では体重が1kgたりとも増えないということだし、いくらゲーム内で鍛えても、現実の体はモヤシのままって訳だ。まあこれはどのゲームでもそうだろ?」
「まあそうですよね」
大抵のネトゲは、時間さえあれば誰でもレベルアップ出来る仕様になってるから、ネトゲ内のレベルと現実のダメ人間度が比例するしね。
「でも注意して欲しいことが一つあって、影響が全くない訳じゃないってことだ」
「?」
「たとえばね、ゲーム内でスポーツしまくるとする。君の体は相変わらずモヤシのままなんだけど、運動神経の方はどんどん鍛えられるんだ。そして鍛えられた運動神経が、君の肉体を動かして、前よりも運動能力が上がる、ということはあるんだ」
「はあ」
「食事もそうだ。美味いものばっか食ってると、味覚に影響がある」

3、ゲーム内の死について
「ところで、ゲームの中で死ぬことってあるんですか?」
「あるよー。普通にあるよ。けど、当たり前だけど現実に死ぬ訳じゃないよ」
「死ぬとどうなるんですか?」
「めちゃくちゃ痛い」
「……それだけですか?」
「後、強制ログアウト。別にペナルティはないから、やりたければまたすぐにログイン出来るよ。それだけだね。あ、それとホントに尋常じゃないくらい痛いから気をつけてね。精神力が弱い人だと発狂したりするから。発狂しないコツはあくまでこれはゲーム内での死であって、少し我慢すればログアウトになって生き返れるんだ、と思うことだね」
(発狂て)

4、ゲーム内での姿について
「西川さんのカッコは普通ですけど、俺のカッコも現実と一緒なんですか?」
「いや、君のカッコは大分違うよ。『コンピューターシティ』内では、自分の理想像に近い姿になるから、今の君はかなりイケメンになってるよ、僕の場合は、一応管理人だし、現実と違うとまずいから、ちょっとプログラムいじくって、現実一緒にしてあるけどね」

5、ゲーム内での感覚について
「それと、今君の感覚は現実と全く一緒って訳じゃないからね。ちょっと腕とかぶんぶん振り回してみてくれるかな?」
俺は言われたとおり、腕をぐるぐる回した。
「あ、なんか確かに微妙に違和感あるかも」
「でしょ?あくまでプログラム上に感覚をトレースしてるだけだからさ、多少誤差は出ちゃうんだよね。大体80%くらいの再現率なんだ。でもま、慣れると違和感なく動いてもらえると思うんだ」

6、ログアウトについて
「さて。基本はこのぐらいでいいかな。あ、もう一つあった。ログアウト方法ね。基本的にはここに来てくれれば、ログアウト出来るけど、ここじゃなくても、バトルエリア以外だったら、どこでもログアウトできる。頭の中でログアウトって唱えて。ログインの時と一緒。バトルエリアではログアウト出来ないから、一回出てね。今はバトルエリアって何のことかわかんないだろうけど、すぐにわかるよ」
「イベント中にログアウトしたらどうなるんですか?」
「もちろんそのイベント中に君バックれたってことになるよ。時間には注意ね。たとえば野球の試合に出るイベントがあるとして、試合開始が学校に行く30分前だったとする。試合が思ったよりも長引いて、2時間半をこえてしまった。ゲームの中の1時間は現実の12分なんで、2時間半はちょうど30分だ。あ、やべー学校いかなきゃアカン!ログアウトするわー、ハイ、ログアウトしました。バトルエリアじゃないんで、普通にやろうと思えばログアウトできます。でもそのかわり、残された連中は君が突然消えたので、かわりの選手を出さなければいけません。君の評価はガタ落ちで、次にログインした時に色々大変なことになる。だから出来るだけイベント中のログアウトはやめた方がいい」

7、ゲームの目的について
「大体以上で説明はおしまいだ。質問ある?」
「このゲームはどうしたらクリアなんですか?」
「別に、そういうのはないよ」
「えっ。クリア条件ないんですか」
「そうだなー。言うならば『コンピューターシティ』は人生と同じなんだ。人生のクリア条件ってなんだい?」
「……」
「金持ちになること?結婚して子供つくって、幸せな家庭を築くこと?有名になること?そんなの人それぞれだよね。『コンピューターシティ』も一緒。金を稼ぎまくってくれてもいいし、結婚してくれてもいいし、モンスター倒しまくって英雄になってくれてもよし」
「ふーん」
「でも一応だけど、クリア条件はいくつかあるんだ。詳しくは言えないんだけど」
あるんじゃん。何が「コンピューターシティ」は人生だ。
「クリアするとどうなるんですか?」
「どうもならないよ。スタッフロールが見れるだけ」
「……たとえば、どうするとクリアなんですか?」
「それはね、自分でゲームを進めていかないとわからないようになってるんだ。ごめんね」

8、Perfumeとの関係について
「後、最後に一ついいですか?」
「なんだい?」
「Perfume好きなんですか?」
「……」
「好きなんですよね?」
「あのね、僕らがこのゲームのタイトルに『コンピューターシティ』ってつけてた後に、彼女達が有名になったんだ。だから、『コンピューターシティ』とPerfumeには何の関係もない」
「……そうですか。ちなみにPerfumeでは誰が一番好きですか?」
「かしゆかだ」
「……」
「なんだその顔は。前髪パッツンかわいいだろうが」
「好きなんですよね?Perfume」
「……」
「あ~ちゃんてゴリラに似てますよね」
「馬鹿野朗!メイクとったら一番かわいいのがあ~ちゃんなんだよ!」
「……」
「……」
「好きなんですよね?Perfume」
「……」
「……」
「…答える義務はない」

9、睡眠について
「あ、これ忘れてた。ゲームをプレイしている時は、ほぼ睡眠状態だから、体は休まるけど、脳はほとんど休んでないから注意ね。ま、全く休まないって訳じゃないんだけど、ゲームを現実の時間で3時間やって、実際の睡眠1時間分くらいの休息になると思って」

10、現実の死について
「それとー、『コンピューターシティ』にハマるのはいいんだけど、あまりにゲームが楽しすぎて、たまーに現実に帰ろうとしない人がいるんだよね。当たり前だけど、帰らないと、現実の君の体はどんどん痩せ衰えていくから、そのうち栄養失調で死ぬよ。もちろん現実で死んだら、強制ログアウトで、ゲームプレイは出来なくなるから、気をつけてね」

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 大体説明は以上の通りだ。
「ログインすると、必ずここに飛ばされて、僕と軽いトークをしてから、ゲーム開始になるから。ちなみにここの建物の名前は管理センターって言うんだ。ポケットに財布が入ってて、そこに一万円入ってるよ。ゲーム開始時は皆所持金一万円なんだ。じゃ、ゲーム、楽しんでね」
それを言い終わると、西川さんの姿は天井に光となって飛んでいった。白い部屋には一つだけ扉がある。俺はそこから、外へ出る。

                    ☆

 外には、近未来チックな街が広がっていた。気持ち悪い程平らに舗装された道路、若干浮いて走る車、空中に作られたチューブ状の何か。
 とにかく俺は、情報収集を始めることにした。すれ違う人に話しかけてみる。
「あの……」
「ようこそ『コンピューターシティ』へ!」
「……えっと」
「ようこそ『コンピューターシティ』へ!」
「会話がしたいんですけど」
「ようこそ『コンピューターシティ』へ!」
「……」
「ようこそ『コンピューターシティ』へ!」
なるほど、こいつはプログラムなのか。見た目がほとんど人間と変わらないからわからない。よく見るとこの人は、管理センターの前を不自然に行ったり来たりしている。偶然すれ違った訳ではなかった。次にすれ違った奴も、動きが不自然なので、プログラムだろう。
「あの……」
「あの建物かい?酒場だよ」
いやそんなことはきいてないが……どうも調子が狂う。とりあえず酒場に入ってみる。客は三人程しかいない。そのうち二人は泥酔して寝ている。カウンターで一人で飲んでいる渋いオジサンに話しかけてみる。
「あの……」
「あ?」
「あれ?プログラムじゃないんですか?」
「失礼な野郎だな。俺はプレイヤーだ」
「よかった。はじめて人と話した。あの、初心者なんで、色々教えて欲しいんですが」
「5千円」
「は?」
「情報料だよ。安いもんだろ」
「いやあの……」
「もしかして、もう一万円使ったのか?」
「……いや、もういいです。さよなら」

                    ☆

 なんなんだあのクソオヤジは……と思いながら酒場を出ると、やたら露出度の高い女が立っている。
「ねえ……一回二千円で、ぱふぱふして行かない?」
むこうから話しかけてきた。女は両手で自分の胸を寄せて、アピールしている。俺はその谷間をちら見した。思春期の少年なので、とても直視できない。多分Gカップくらいありそうな巨乳だ。感覚があるってことは、実際にこの胸の感触が味わえると思うと、二千円は安い気もするが、さすがにやめておく。
 しばらく歩くと、街角にバレリーナみたいな格好をした女がいる。近づくと、どこからともなく『白鳥の湖』が流れてきて、
「私の踊りを見て!」
と言って、くるくる踊りだした。勘弁してくれ、と思いながら、無視して歩いていった。

                    ☆

 しばらく進んでいくと、ホテルやレストランがあるその先に、超高層ビル街が見えた。なんだこりゃと思いながら、ビル街には入らずに、その前を左折する。出会った人に話しかけつつ、進んでゆく。どうやらあのビル街は「ビジネスエリア」と言うらしい。しばらく歩くと、金網で仕切られた場所があった。入り口には警備員が立っている。
「ここから先はバトルエリアで、大変危険です。死ぬこともあります。入りますか?」
ときかれたので、いいえと答えて、更に街の中を探索した。バトルエリア入り口から少し進むと、ワッというものすごい歓声がきこえた。右の方に、ドームやらスタジアムやらがいっぱい建っている。近くの人にきくと、
「ここはスポーツエリアだ」
と教えてくれた。

                    ☆

 情報収集の結果、『コンピューターシティ』は四つの地域にわかれているようだ。ノーマルエリア、ビジネスエリア、スポーツエリア、バトルエリア。もっとあるのかもしれないが、今はまだわからない。とりあえずノーマルエリアを丹念に歩き回って、今日の所は早目にログアウトして、寝た。結構長くやったつもりだったが、時計を見るとまだ10時だった。

                    ☆

 翌日は普通に学校に行った。いつも通りのくだらない、つまらない風景。
「「けいおん!」の最終回見た?」
「マジ涙腺崩壊した。あずにゃーーーーーーーーーーーん」
「でさー、ケイコのカレシ↑が他校の女子と二股かけててー」
「あー!歌いてー!今日学校終わったらカラオケ行かね?」
「ごめん俺部活だ」
がやがやとつまらない話題で盛り上がる同級生。いつもいじめられている奴が教室に入ってくると、リア充集団が一斉に群がる。
「あれ?なんでお前靴下なの?wwwwww」
「いや、こいつ貧乏すぎて上履き買えないんでしょwwwかわいそうじゃんwww」
「マジかよwwwww超かわいそうなんだけどwwwww」
いつものようにイジメを始めるクズども。どうせ上履きなんてお前が隠したんだろうが。小学生みたいなことしやがって。といっても俺もそいつを助けるわけじゃない。俺はいつも傍観者だ。
 俺に話しかける奴はいない。集団の中では、誰しも役割・階級を持っている。教室の中では、俺の役割は「目立たない生徒」という役割だ。空気と言ってもいいかもしれない。いてもいなくても変わらない。家族の中では、息子という役割。

                    ☆

 昼飯は親が作った弁当を持って、外へ行く。俺の高校には、「血の池」というスポットがある。結構大きな池で、ベンチが一つだけある。基本的には不気味な、雑誌に心霊スポットとして特集されるような所なので、俺以外にここで飯を食う奴はいない。とても落ち着く。夏は涼しく、冬は……少し寒い。一応この池には伝説があって、それはこういう話だ。
 鎌倉時代にある猛将がこの池まで追い詰められた。その武将は武勇に優れ、大変忠義深い武士であって、主君を殺した敵の兵を一人でも多く殺してやろうと、この池に追い詰められる前に既に百人以上の敵兵を殺していた。しかしすでに馬は倒され、刀槍は折れ、矢は尽き、倒した敵兵を二人両脇に抱え、一人を楯にして、もう一人を投げ飛ばして攻撃していたが、ついに敵兵の矢が彼を貫いた。矢ははりねずみの毛のように刺さり、彼の急所をいくつも貫いていた。彼はしばらく倒れなかったが、やがてゆっくりと後ろに倒れて、体は池に突っ込んだ。普通人間の体は水に浮くが、彼の死体はなぜか池に沈みこんだままであった。そして、あまりの憎悪の深さからだろうか。彼の血は、池を赤く染め上げた。敵兵は恐れをなして、彼の首を回収することなく、撤退した。それ以来この池は「血の池」と呼ばれている。
 一人の人間の血がこの広い池を赤くすることはありえないが、まあ伝説なんてそんなものだ。その伝説のおかげで、俺は悠々と弁当を食うことが出来る。

                    ☆

コンピューターシティ。学校。コンピューターシティ。学校。コンピューターシティ。学校。これが俺の生活パターンになった。

       

表紙

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Neetsha