Neetel Inside ニートノベル
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コンピューターシティ
5,いじめられっ子の逆襲

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~前回までのあらすじ~
展開の遅い蔀様がやっとの思いで4話まですすめ、やれやれと思っていたら、なんと横浜が買収されてしまった!
これだから弱小球団は嫌いなんだよクソッ出すんじゃなかったと後悔しきり!
そんな最悪の状況で、追い討ちをかけるように学校がはじまってしまう!
果たして蔀様は連載を終了させることができるのか?
第5話「いじめられっ子の逆襲」。

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ログインした時に俺は質問した。
「あのー、この前、野球の試合したんですよ」
「うん」
「で、相手のチームってプログラムですよね?」
「プレイヤーもいると思うけど、まあ大半はプログラムだろうな。どうして?」
「結構普通に喋ってたんですよ。ほら、他のプログラムって、決まったことをただ話すだけじゃないですか。そうじゃなくて、自分で考えて話してたんですよ」
「ああ。それは上級プログラムだ」
「上級プログラム?」
「プログラムにも二種類あってな、お前の言ってたみたいに、街を歩いて、話しかけたら決められた台詞を言うのは、下級プログラム。こいつはプログラム書くの簡単なんだ。上級プログラムは自律した思考を持ってる」
「へえ」
それってすごい技術なんじゃないか?

                  ☆

 二軍から俺と西川はすぐに一軍に上がった。西川の方が出世は早くて、あいつは五月にはもう先発ローテに入っていたて、横浜の超貧弱打線をバックにしているにも関わらず、十二球団で一番早く二桁勝利を達成した。
 一方俺は中々代走要員から出世できなかった。そんな時、六月に一度だけ代打で出ることになった。ピッチャーは巨人の内海。東京ガスでの社会人野球から巨人に入団し、一年程の二軍生活から一軍登録。中継ぎで成果を残し先発定着。最盛期は14勝と最多奪三振も獲得した選手だが、内海だが、正直言ってもう落ち目の選手だ。
一軍の初打席。満席の観客席。すごい。これだけたくさんの人の視線が、いっせいに俺に集中する。
「誰だこいつ?」
「新人?」
「打つのかよ?」
「内海やっちまえ」
足が震えそうになる。手に上手く力が入らない。心臓がバクバクする。なんだこのプレッシャーは。二軍の打席にも何度か立った。そのたびにプレッシャーはかかった。けど、一軍の打席はプレッシャーが全然違う。
打席から見る内海の球の迫力はすごい。あんなに研究してきた筈だったが、全く違う。速い。ストレートでワンストライク。振らなきゃダメだ。次の球。とにかく振る。球がありえないくらい曲がる。空振り。当たる気がしない。
 一度打席を外して、心を落ち着ける。でも全然落ち着かない。次の球は明らかに高めのボール球。四球目、外角低めのストレート。手が出ない。三振。
 ベンチに帰る時、打てなかった悔しさよりも、このプレッシャーから逃れられる安心の方が大きかった。

                  ☆

 一晩寝ると、悔しくなってきた。次の試合では一番早く練習場に行って、バッティング練習をした。マシンの速球は打てる。しかし実際の人間は緩急をつけてきたり、急にノビたりする。実際に打席に立つのとは全然違う。

                  ☆

 バッティングの難しさのせいで、学校から帰るとすぐに飯と風呂を食って、『コンピューターシティ』にログイン、ヘタすると徹夜してそのまま学校に行く日もあった。徹夜で授業を受けると、教師の話を聞こうとしても眠気が襲ってくる。
「なんか最近加藤君がっちりした気がする」
「え?」
昼飯の時に、東大寺さんにそんなことを言われた。
「ほら」
と言って、腕をもみもみされた。嬉し恥ずかしい気持ちがする。
「そうかな?」
『コンピューターシティ』内部では相当運動してるが、実際に筋肉が付いている訳ではないので、筋肉が付く筈もない。
「運動してない?」
「全然w学校来て、家帰ってゲームしてるだけだよ」
「もしかしてWii?」
「いや、なんて言ったらいいんだろ。Wiiじゃない」
「え?じゃあなんなの?」
「うーんと、パソコンを使ったやつなんだけど」
パソコンとか言うとオタクっぽいな……
「ふーん。なんて言うゲーム?」
「『コンピューターシティ』」
「知らない……」
「うん。有名じゃないから」
「どんなゲーム?」
詳しいことは言わない方がいいだろう。
「野球ゲーム……かな」
嘘はついてない。
「へー。私野球全然わかんない」
「面白いよ」
「私大嫌い。体育でソフトボールやったけど、全然ダメだったもん」
「ソフトボールなんてあったっけ?」
「男子はこれからじゃないの」
「ふーん。楽しみ」
楽しみ?俺も変わったもんだ。球技なんて大嫌いだったのに。

                  ☆

 『コンピューターシティ』内では七月に入った。俺は相変わらずの代走要員だったが、代走に回された後に打席が回ってくることが三回あった。しかし結果は出せなかった。四打席ノーヒット。
 そんな時、体育でソフトボールをやった。チームだけは教師の指示のもとに組むので、あぶれることはなかった。それ以降の試合は生徒が勝手にやるので、勝手にリア充や運動部どもにポディションを決められた。
「加藤はレフトな、でお前はライト」
「おいそれじゃ外野まで飛んだ時やべーだろ」
「いや俺がセンター行くから。お前ら二人は捕れたら捕って。逸らしたら俺がカバー行くから、追わなくていいよ」
舐めやがってクソ野球部が。大して強くないくせに体育になると調子こきやがって。俺はプロだぞプロ。いやゲームと現実を混同するとは。俺もそろそろやばいな。
 ピッチャーをやったバスケ部がフォアを連発して、満塁になった。四番は、相手チームの野球部。
「おいコイツやべーから下がれー!」
センターが指示してくる。うぜえ。
バスケ部が投げた球を、そいつは思いっきり吹っ飛ばした。レフトに来た。確かに打球の飛距離は出てるが、角度つきすぎてるて、余裕で追いつける。はじめ全力疾走で追いかけたが、途中からスピードを落として、真正面で捕る。
 相手チームは捕れるとは思ってなかったらしく、二塁ランナーまでホームインしてやがったので、すかさず三塁に送球。サードがセカンドに送球して、トリプルプレイ。
「マジかよーwwwwwwwwやべーwwwwwwww」
「ノーアウト満塁から一点も入んないとかwwwww横浜かよwwwwwwww」
「いや今のは俺の球が良かったんだろ」
「ど真ん中だったじゃねーかw」
リア充どもはそんな会話を交わした。さて、俺達の攻撃。
「よし打順どうしようか」
「今ファインプレイした、加藤からでいいんじゃね?」
「そうだなw加藤君それでもいい?」
「いいよ」
軽い金属バットしかないので、握る部分が多少マシなものを一つ選ぶ。相手はピッチャーを野球部の奴がやっている。
「お前きたねーぞ!」
「お前らみたいにフォア連発だとつまんねーだろw」
初球はとりあえず見る。まあまあ速いが、所詮素人だ。
「あー下手投げウゼー!」
と言いながら、野球部が二球目を投げてきた。ど真ん中なので、思いっきり打ってやった。打球はピッチャーの頭を越えて、センターの頭も越えて、反対側の角で試合している連中のセンターの頭を越えて、ピッチャーの頭を越えて、相手のキャッチャーの頭を越えて、後ろのフェンスにガーンと当たった。皆シーンとしてる。俺はたらたら走って、ホームインした。皆リアクションがない。ちょっと気持ちいい。ざまあみろリア充ども。爆発しろ。

                  ☆

 どうしてプロの試合だとヒットすら打てないんだろうか。コーチにも相談してみたが、お前はスイングが固まってないと言われるだけだった。オールスターにも選ばれた西川に相談してみたが、
「お前才能ねーんだよ。辞めちゃえ」
と冷たいことを言われた。屈辱。
 アドバイス通り、フォーム固めを意識して、バッティング練習をする。すると、村田が話しかけてきた。
「加藤」
「はい!」
マイペースの上に無口な村田が話しかけてくるなんて珍しい。
「お前は試合の時と練習の時のバッティングが全然違う。自分でわかってるか?」
「いえ……」
「なんで試合の時はあんなに崩れるんだ?」
そんなに違うのか。
「多分緊張してるからだと思います」
「そうか。心理的なものが大きいのかもしんないな。でも、それを克服できれば、お前はいいバッターになるぞ」
「……あっ、ありがとうございます」
俺はちょっと泣きそうになった。
「うん。それと次俺の番だから、早くどいてくれ」
「はっ、はい」


                  ☆

 村田さん(←尊敬)に言われた通りに、自分が出場した打席のビデオを見てみる。確かに、ひっでースイング。試合での緊張が、打てない原因だったのか。
 次の打席では、平常心の心がけて、打席に立った。結果はサードライナー。ヒットこそ出なかったが、いい感触だった。

                  ☆

 オールスター前の試合で、俺はクルーンの150キロ超のストレートをセンターにはじき返して、サヨナラヒットとなって、まさかのヒーローインタビューを受けた。もう緊張どころの騒ぎではなく、本当に夢うつつだった。
「今日のヒーローはサヨナラヒットを放った加藤選手です!」
「あっ。ありがとうございます」
「見事なバッティングでした。一軍初ヒットがサヨナラ。今の気持ちをおきかせください」
「えー、もう何がなんだか……ありがとうございます」
「……打った時の感触はどうでした?」
「えー、クルーン選手はホントに球が速いんで、えー、ヒット打つのはすごく難しかったんですが、ありがとうございました」
「えーと、チームはこれで三位浮上です!これからの意気込み
おきかせください」
「そうですね。えーと、僕個人で言えば、まだまだ代走要員なので、スタメンで出場できるようにがんばります。えー、チームがもっと勝てるように、したいです!ありがとうございました!」
「ありがとうございました!加藤選手でした~」
その日から俺はファンの間で「あり加藤」と呼ばれるようになった。ネット上では蟻なんて呼ばれるハメになった。

                  ☆

 オールスターで、西川がホームランを打たれた。相手は柏木。そう。草野球時代に戦った、あの柏木が、プロになってて、また西川と対戦した。柏木はオリックスに入って、即一軍レギュラーの座を勝ち取り、怖い6番バッターとして、パリーグのホームランランキング一位をとっている。

                  ☆

 オールスターが「テレビで見るだけ」で終わって、俺は学校に行った。
 学校へ行って、授業が始まるのを待ってると、不登校になっていたいじめられっ子が入ってきた。そいつの姿を見ると、いじめてた連中がすぐに群がっていった。
「よおw久しぶりじゃんww元気してた?wwww」
「死んだのかと思ってたよwww」
「ぎゃははwwwwwww」
しかしいじめられっ子は、何だか雰囲気が変わっている。俺はなぜか、やばい、と思った。そいつは何も言わないで、いじめてる奴らを睨んでいる。
「何無視してんだよー、おい」
いじめられっ子は、左手で誰かの椅子の足をつかんで、思いっきり床に叩きつけた。ズガーンという、すさまじい音が教室に響いて、いじめてる連中はビビっていた。
「二度と俺に話しかけるな」
と言って、背もたれが捻じ曲がった椅子を捨てて、自分の机に向かった。さすがのいじめっ子どもも、言葉が出ないらしく、
「おい行こうぜ」
と言って、教室から出て行った。

                  ☆

 昼休み。
「いやー、朝はびっくりしたね」
「東大寺さんも見た?」
「うん。私ちょうど教室入ってきたとこで、私の椅子がへし折られてるんだもん。びっくりするよ」
「あれ、東大寺さんのだったんだw」
「しょうがないから、先生に頼んだ倉庫から椅子持ってきたよ」
しかし驚いた。前までは、いじめっ子どもに話しかけられたら、おどおどしながら、
「あっ……あっ……」
とか言ってた奴だったのに。何があったんだろう。
「もしかしたら……」
「ん?」
「いや……」
あいつも『コンピューターシティ』をやったのか?

       

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Neetsha