Neetel Inside ニートノベル
表紙

不可拘束少女アルスマグナ
壱、俺と魔法少女とお星様と

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 俺が今の状況を踏まえて話したいことは、あるたった一つの議題。
『魔法少女なるものは本当に存在するか?』
 俺は小説を読むのが好きだ。さらに言えば、その中でもライトノベルが好きだ。もっと奥深く立ち入って言えば、魔法少女が強大な悪と戦いを繰り広げる話が大好きだ。
 そう。俺はライトノベルなるものを媒体として、魔法少女の虜になった人間の一個体と言えよう。特に主人公の男の子を撲殺する天使なんて最高だ。ん、あれは魔法とは違うか。天使か。
 ともかく、俺は魔法少女が大好きだ。大事なことだから四回ほど言いました。言ってないか。
 改めて、現実と向き直ってみよう。
 俺の名前は上坂幸人(十七歳)。思春期真っ只中であり、オタク大国日本の魔法少女推進委員会に在籍する一員だ。いや、そんなものあるかわからないけど。多分ナッシングだね、うん。
 そんな魔法少女の大ファンである俺が座しているのは、自宅のリビング。両親は当の昔に他界してしまったこの家で、俺は保険金やら貯金やらを貪って生きている。まあその大半は大体フィギュアかアニメDVDもしくはブルーレイに消える。最近のもので言えば「魔法少女ロリカルなのか」が熱い。やはり主人公である中町なのかが…………っと、今はそんなことを言っている場合じゃなかった。閑話休題。
 先ほど両親が他界していると言った。そして俺には、兄弟も姉妹もいない。
 つまり、俺はこの一人では使い切れないとは言えないこともない家に一人暮らしなのだ。何がどうだとかはうまく言えないが、簡単に言うならば、ウハウハである。案外親は金持ちだったのねー。
 もはや穀潰しと化した俺は今日も元気に飛び起きて、自室に飾ってあるフィギュアたち一つ一つにお辞儀を含め丁寧に挨拶をした。そしてさらにリビングに置いてあるフィギュアたちにご挨拶を宣うために、俺は疾風のごとき勢いで階段を駆け下りた。
 そしてそこで、ノベルチックに言うならば運命的な出会いを果たしたのだ。

「あ、おはようございます幸人くん!」

 瞬時の膠着。しばしの沈黙。俺は思わずアニメのようにあんぐりと口を開いた。
 階段を駆け下りた先に見たものは――――紛れもなく、少女の姿。

 上坂家のリビングに……“魔法少女のような服をまとった女の子”がいる光景。
「…………………………!!」
 すぐさま、俺の六感ならず第七感――――“萌感”《モエノヨカン》がドーパミンを発する勢いで稼動した。
 爽やかな清流を髣髴とさせる、水色の長髪。しかも二つのぴょこぴょこに分けられている……つまるところ伝説の「ツインテール」。髪と同じような色調でセーラー服をモデルにしたらしいホワイトとスカイブルー二階調の服。見ようによってはメイド服に見えないこともない。さしずめ、(セーラー服+メイド服+俺の好み)÷3、とでも言ったところだろうか。俺の好みにドンズバにストライクである。
 そしてなにより注目すべきは――その等身のちょうど良さ。現実の小学生に直せば四、五年生位の背丈だろうか。擦り寄ってくればちょうど肩に柔らかいほっぺたがむにむに当たることだろう!
 加えて、透き通ったサファイアのような双眸に、つんつんしたくなるくらい柔らかな唇! まだ成長途上であるということを惜しみなく強調している平らな胸! うっすらと朱色に染まる両頬! 極め付きは、その手に持っているお星様のついたマジカルステッキ!
 これぞッ、まさしく!
「理想的な魔法少女がついになぜ我が家にいいいいいいいいッッッッッ!? ヒャアアアッホオオオオイイイイイイ!!」
 驚きと興奮と疑問と興奮とが混ざり合った結果の発言だった。
 俺とあいまみえる可愛らしゅう容貌をお持ちな魔法少女(仮)は、俺が驚きのあまりにスクワット運動を繰り返すのも気に留めない様子で、実に手慣れたように手に持ったステッキを振りかざした。
「どうもおはようございます! 今日から幸人くんに相伴させていただくことになった、あるすと申します!」
「うむうむあるすちゃんか苦しゅうない。もっとお兄ちゃんの元へ近う寄りなさい幸人お兄ちゃんがいっぱいいっぱい“前戯”という名の魔法を教えてあげるからねえええええ!!」
 俺はどこかの格闘漫画よろしくバリバリバリッとTシャツとズボンを破り脱ぐと、トランクスの下で早くもエベレストと化した“もう一人の俺”を引っ提げ、あるすちゃんの初々しくていじらしい肢体めがけてきりもみ回転でエキセントリックダイビ――――――ング!!

 ――が、しかし。

「今行くよおあっるすちゃ――――――――――――ぐぼほぉっ!?」
 俺の全身全霊の美少女突入大作戦は、何者かによってあえなく弾き飛ばされた。
 正確に言えば、作戦だけでなく半裸と化した俺の身体も、勢いよく吹っ飛ばされて部屋の天井にぶつかり、そして作用反作用&万有引力の法則にしたがって、フローリングにズドドドオッ!! と凄まじい勢いで顔から突き刺さった。
「げほぐほごへ…………い、一体何が起きたんだ!?」
 俺がもうもうと巻き起こる煙の中にがばっと顔を上げると。
 またしても、信じられない光景が目に飛び「なあにいきなり手を出しとんじゃいこんのクソ変態めがッッッ!!」台詞ぐらい最後まで言わせて。
 TAKE2。俺ががばっと顔をあげると。

「アルスに簡単に手を出そうもんならわしが許さへんぞこの助平が!!」
「お星様が何を仰いますかってかお星様が喋ってるううううううううう!?」
 ステッキの先にくっついたお星様が、ものっしょいおっさん声で俺を怒鳴っていた。

     


「わしの名前は月夜叉。アルスの面倒を託っている者で、所謂面倒見役じゃ。お主みたいな輩からアルスを守るためにわしはこのような姿で相伴しておる」
「星形なのに月夜叉なのね」
「黙っておれ」
 あるすちゃんの持つステッキの先っちょが、三分ヒーローのタイマーのようにぴこんぴこん光りながら、老人に似たしゃがれ声で俺に説教を垂れる。なんか良くあるシチュエーション。
「しかし、貴様のような不躾者は初めて見たぞ! いきなりアルスに飛び掛るとは、無礼にもほどがあるわい! しっかりと反省せい!」
「どうもすんませんでした(ドヤ顔)」
「頭が高いわッ!!」
 ゴオオオオオオオオッ、という轟音とともに月夜叉が真っ赤に染め上がり、その身から熱き炎を俺に向かって迸らせているってあれれ? なんか熱いよ? ん?
「熱っつううううううう!!」燃えとるがな俺! 熱いっておまこれ熱いっておま洒落にならんわこれ! 総合的に見てトランクスが尋常じゃない被害を受けている! というかそこぐらいしか燃える箇所ないけど。あと燃えるとすれば体毛とハートぐらいだが生憎だが俺は女性も羨むつるつるもちもち肌で尚且つハートも実に紳士的な変態だ。
 そんな流暢なことを言ってる場合じゃない! 早く火を消さないと――――って、あれ?
「あ、熱くない? 何でだ? 俺はいつ炎耐性というエクセレントな能力を手にしたんだ?」
 今頃真っ黒焦げになっていると思われる下半身は、なんと急所どころかトランクスまでもが無事生還していた。エベレストに至っては、相変わらずテントを張りっぱなしである。ううむ、度し難い。
「――認めたくはないが、やはり“適合者”のようじゃな」
「へ? 一体お前は何を言ってい…………」
 俺が月夜叉の聞き慣れぬ言葉に対して問い返そうとした、その時。
「やっぱり幸人君がそうなんですね! わーい!」
 あるすちゃんが、太陽をも凌駕するほどの明るい笑顔を俺に向けて駆け寄ってきているッ! こ、これはたまらん! 俺もすぐさま迎え入れる準備をせねば! 俺は両手両足を広げて、こちらに駆け寄るあるすちゃんに覆いかぶさるように、その可愛らしい容姿めがけてダイレクトドミニングッ!
「や、やめろアルス! お前が彼奴に触れてしまうと――――!!」
 そんなことを言ったところで、時既にお寿司。いや、遅し。
 アルスちゃんの身体を俺が抱きしめた瞬間。彼女のやあらかいおててとその他諸々のむにむにが俺の触覚という触覚を完膚なきまでに刺激して――――――――

 ぶすぶすぶすっ。

「…………………………………………………………」
 あれ? なんか嫌な感触が俺の全身を蹂躙しているような気がするけど、気のせいかな?
 俺が視線をずらすと、まるで全身を針全本で串刺しにされたかのように、視界のいたるところ――つまり身体のいたるところからとげとげした物体が突き出していた。ハハハ。
「って笑い事じゃねえよ! 何だよこれ!」
 そこにいたのは半裸のまま全身を串刺しにされる奇妙な男の姿だった。
 しかも――――痛くない。ニードルをコピーしたようにトゲ人間と化しているにもかかわらず、全く痛覚神経が反応しない。どういうことだ? もしかして既に冥土に行ったとか? メイドだけに?
「な……死なない……だと……? 解せぬ……一体どういうことじゃ……」
 床に転がったマジカルステッキが唸る。正確に言えばマジカルステッキの先端についている月夜叉がおじいさんがトイレで踏ん張るような声で唸っている。
 死なないとか何とか言ってるのは、多分俺のことだろう。普通の人間が串刺しになって死なないはずがない。まあそんなことよりも重大なことが一つある。
「あるすちゃんはどこに行っちゃったのかえ?」
 認知症のおばあさんのような口調で俺は口をあんぐりと開けたまま、部屋中を見渡す。俺の身体から突起物(エベレスト除く)が飛び出している以外は何も変わらない部屋で、他の部屋にあるすちゃんがいる気配もない。あるすちゃんは一体どこへ行ってしまったのやら。
「月夜叉様、あるすちゃんはどこに行ったのか教えやがれ」
「丁寧なのかタメ口なのかはっきりせい。それにしても、おぬしがここまで強力な“適合者”だとは知らなんだのう……」
 どうでも良いけどステッキがため息を吐くのって凄いシュールだと思うんだ。
「だからその適合者ってのは一体何なんだよ」
「おぬしにはさほど関係のない話じゃ。それよりもお主。アルスに会いたいのじゃろう?」
「ムロン」
「ならば――――目を瞑ってみよ」
「?」
 とりあえず仰せの通りに、俺は目を瞑ってみ…………

「やっほー、幸人くーん♪」
「うえええええええええええええええええっ!?」

 目蓋の裏に、あるすちゃんがいた。

     


「こっこれは……寝ても覚めてもあるすちゃん状態!? いやしかし、目を開けるとそこにはいなくて目を閉じるとこんにちはあるすちゃん。なるほど、眠れば会えるよってことか! いえい!」
「お主のテンションは良く分からんのう」
 月夜叉がじじいくさい(あ、じじいなのかな)ため息を吐くのも気にせずに、俺はブリッジ体勢をとって部屋中を駆けずり回る。目を閉じればそこには満面の笑顔のあるすちゃん! こんなに幸せなことはないね! あるすちゃああああん! 夢の中だけでしか君には会えないけど、すぐに僕も向こう側に行ってあげるからねええ!

 ――――が、そう思っていたのもほんの一瞬の出来事だった。

「おろ? 目蓋の裏の世界にあるすちゃんがいないぞ?」
 いくら瞬きしても、そこには赤血球しか存在が確認できない。寝ても起きてもあるすちゃんはいない。けしからん。これは一体どういうことだ。
「おい、ムーンライト☆デーモン様」
「誰がデーモンじゃ! ……どうせ、アルスはどこに行ったのかとでも訊くのじゃろう」
「察しのいいこと! さすがは月夜叉様だぜ…………?」
 そこでようやく、俺はある違和感に気がついた。
「お前ら、俺の家に何しに来たんだ?」
「今その話題を切り出すのか!? まったく、お主は本当に意味不明じゃわい……」
 本日何度目かのため息をつく月夜叉。そんなにため息はいてるとすぐおじいちゃんになっちゃうよってかもうおじいちゃんか。おじいちゃん。「わしらは、世界を救うためにやってきたのじゃ」えっと、おじいちゃん頭大丈夫? お昼ごはんはもう食べたからね?
「大方、嘘だと思っているのじゃろ? ならば、今のは忘れるが良い」
「へ? 嫌なに言ってるかわけ分からないしそもそもあるすちゃんは一体どこに――――いぃっ!?」
 俺が月夜叉を問い詰めようとした瞬間のことだった。
 ドスンッ!! と擬音を発さんばかりの勢いで、俺の頭の上に何かが墜落してきた。な、何だ。天井板でも外れたのかそれとも隕石でも降って来たのか。首の骨が折れるかと思うくらい勢いよく何か重いものが俺の頭蓋骨を粉砕しようとしている。な、何事じゃ!

「わー! 幸人君の頭硬ーい!」

 …………………………………………へ?
「もしかして頭の上に乗っているのは……あるすちゃん?」
「はーい! あたしの事呼んだー? あるすだよー!」
 ひゃっほおおおおおおおおおおい! まさかのあるすちゃん再降臨! しかも頭の上に落ちてきて「頭硬ーい」ってお兄ちゃんその「頭」の部分を違う単語にしてくれると凄く嬉しいなあおにんにん!
「い、いかん幸人! すぐにアルスから離れるんじゃ!」
「いや月夜叉様あんた何言ってんだよ頭の上に美少女が乗ってるシチュエーションなんて……」
 そこまで言ったところで、俺ははっと思い出した。というより、所謂デジャビュ。
 すると――頭の重みが軽くなった。
 い、嫌な予感しかしないがまさか…………


 どすり。

 何の音だろう。と心の中で呟いてから、ゆっくりと感触のあった部分に手を当てる。おなかの辺りに、なんか硬いものが生えている。第二の息子、というわけでもなさそうだ。小腸あたりに、何かが突き刺さっている。…………だけど、痛くない。
 ――――おい、一体どういうことなんだ、これは。
「それだけの傷を負っても死なぬとは……やはりお主が“適合者”に間違いなさそうじゃな」
「あのさあ、さっきから散々訊いてるんだが、適合者って何なんだよ!? 俺の身体は一体どうなってるんだ!?」
「うむ……そろそろ話さねばなるまいな」そろそろって言っても、まだ会ってから三分ぐらいしか経ってないが、気にしない。会って三分なのに、どれだけ打ち解けてるんだ俺たち。どれだけ順応性高いんだ俺。
「実はアルスは――――っほう!?」
 月夜叉がついに重く閉ざしていた秘密を紐解こうとした、その時。
 ふと目の前に現れたあるすちゃんが、床に転がっていた月夜叉月のステッキ――――いや、ステッキ月の月夜叉を拾い上げた。だって、持ち方がどう見ても逆だもん。
「幸人くーん! 私といろんなことしてあーそぼっ!」
「あ、ああうんもちろんだとも! お兄ちゃんと何してあそぼっか!」
「うーんとねえ…………」
 どこか腑に落ちないところはあったが、とりあえずは美少女と遊んでいられる間は気にする必要はないかな、と思った。だってあるすちゃんに実害はなさそうだしね!
 さあて、何をして遊ぶのかな。

「人殺しごっこ!」

 え?

     


「一語濾紙? あ、あるすちゃん。今、何て言った?」
「だからー、人殺しごっこして遊ぼうっ!」
 はちきれんばかりの笑顔を振りまきながらピョンピョン跳ねるあるすちゃん。超絶可愛くてすぐにでも“ぺろぺろ”したいが、さすがの俺でも理性が働いてきた。
「月夜叉。人殺しって、あるすちゃんに一体何「秘技! 天宝睡眠殺!」
 俺が台詞を言い終わる前に、月夜叉が濁声で必殺技っぽい(にしてはちょっとださい)名前を裂帛の勢いで叫んだ。
 すると、マジックステッキの先端から月夜叉だけがどひゅーっん!! と飛び出して空中で弧を描き、そのままあるすちゃんの後頭部へと激突した。アレ、刺さるんじゃね?
「!! 痛った――――――――ああ…………いい…………グゥ」
 あれ? あまりの痛さにあるすちゃんが叫んだと思ったら、急にぐっすりと熟睡してしまった。ぐへへこれであるすちゃんにあんなことやこんなことができるぜじゃなくて何であるすちゃん眠ったの?
 ……あー、月夜叉が店舗打つ移民殺じゃなくて天宝「睡眠」殺とか言ってたっけ。
「ふう……これでしばらくの間は大丈夫じゃろう」
 あるすちゃんにぶつかってそのまま床に落ちた月夜叉が、お空ではなく大地のお星様となってやれやれといった風に安堵のため息をつく。ため息何回目だよこいつは。
「あ……あるすちゃんは眠ったのか?」
「まあ、そんな感じじゃな。それよりもお主はまず腹部に刺さっとる包丁を抜いたらどうじゃ」
 え、と気の抜けた返事をしながら自らの腹を覗き込むと、そこにはデンジャラスかつグロリアス、じゃなくてグロテスクな光景が広がっていた。「うわあああああああああ」いやー、死ぬだろこれ。何で俺生きてんの?
 勇気を出して包丁の柄の部分を握り締め、逆切腹の要領で包丁を一気に身体から引き抜いた! ぶしゅう、と血が噴き出すわけでもなく、そこには赤く血で滲んだ腹部が僅かに広がっているだけであった。
「訳分かんねえよ…………なんで俺はあるすちゃんに刺されても平然としていられるわけ? あ、分かった、あれか。愛の力ってやつか。世界の中心で叫んだって言う、あれか」
「全くもって違うわい。……ま、そのことも少々関係のすることじゃがな」
 月夜叉がむくりと垂直に立ち上がる。こいつ横から見ると薄いな。きっと擬人化してもペチャパイなんだろうな。ってか、それ以前にこいつは男か。男の擬人化なんて召されてもしねえよ。
「んじゃ、あるすちゃんも静かになったところで、そろそろ詳細を話してもらおうか月夜叉様よぉ。俺がどうして殺されかけても無事なのか。そもそもお前らの目的は何なのか。そして、“適合者”ってのは何なのか。洗いざらい喋ってもらうぞ」
「言わずもがな、そうするつもりじゃったわい」
 次の瞬間、ぼんっ!! と夥しい量の白煙が俺の視界を埋め尽くす。「うえっぺっぺっぺっぺ」な、何だこれ。まさかあの似非ムーン野郎、あるすちゃんともども逃げる気か!? おのれ、許しまじ! (俺の元から美少女を連れて行った意味で)成敗してくれよう!

「――――この姿のほうが、幾分話しやすいじゃろう」
「くろねこおおおおおおおおおおっ!?」
 白煙から出てきたのはお星様ではなく、一匹の黒猫だった。



「それにしても黒猫で額にお星様マークって、いろいろとギリギリだなお前」
「勝手に言っとれ下衆が」こいつ口悪すぎにもほどがあるだろ。
 月夜叉は猫のように(猫なんだけど)てをぺろぺろしたりしながら、話を始める。
「この姿が普段の姿での。素敵ステッキにくっついているのは正体がばれないようにする為じゃ」
「それはそうと『素敵ステッキ』ってネーミングセンスは何やねん」
「わしとアルスがこの地にやってきたのは、ある組織から逃げているためなのじゃ」
「(ええああそこはスルーかよ)組織って何か漫画みたいだな。まあ漫画みたいなことでも信じるけど」
「その組織というのが――――《B.G.E.C》じゃ」
 おお、何か本格的な名前でカッコイイな。おいらわくわくしてきたぞ。
「正式名称を、『美少女撲滅委員会』と言う」
「はいちょっと待ったー! おかしいよね!? そんな組織が存在するなんておかしいよね!?」
「何じゃ。漫画みたいなことでも信じるといったではないか」
 う、確かにそうは言ったが……。
「ってか、美少女撲滅委員会って何だよ。美少女の前にタバコを撲滅しろよ」
「目的はもちろん美少女を撲滅すること。そしてアルスも、その標的になっているというわけじゃ」
「(まあたスルーかよこのうんこ)無茶苦茶だなおい……。誰だよ、そんな組織発足したの」
「茨城県の豚田下衆子じゃ」
「所在地と本名公開しちゃうんだそこ!?」
 俺の突っ込みにぴくりとも反応せず、月夜叉は険しい(ように見える)顔で呟く。
「奴の力は恐ろしい……。奴の美少女を忌み嫌う思いで開花した能力、『今日からあなたもブス光線』通称『ブ光』は、一度浴びれば豚田に瓜二つになる力を持っておる。しかもそれは、未来永劫治らない」
「うわあ豚田ってのを見たわけじゃないがそれは確かに恐ろしいわ」
「しかし――――アルスは『ブ光』を浴びた人間を元の姿に戻す力を持っておる。そのため各地を回って数多の被害者を助けてきたのじゃが……ついに豚田に見つかってしまったようでの。刺客を向けてきおったんじゃい。それで必死で逃げ回っているうちに、おぬしの家へとたどり着いたわけじゃ」
「……んで、そこで見つけた俺が“適合者”だった、と」
「そういうことじゃな。もう分かるとは思うが、“適合者”と言うのはアルスと同じく『ブ光』を受けた者の治療が出来、尚且つ『ブ光』の影響を受けない人間じゃ」
「なーるほどね……大体現状は把握できたわ」
「そこで、われわれはおぬしに協力を求めていると言うわけじゃ。異論はないな?」
「うーむ、しかしだな俺は「うむ。お主ならそう言うと信じていた。感謝するぞ、幸人」ええええ俺何も言ってないんだけどやっぱりこれって強制フラグか。
「しっかたないなあ……。で、これから俺は何をすればいいんだ」
「そうじゃな、とりあえずは…………」

 直後。
 リビングの壁がドガアアァァンッ!! と、鉄球をぶつけたかのような勢いで破壊された。
「!! な、何が……!!」
 俺が轟音の聞こえたほうを振り向くと。

「見ーつけた(ニヤァ)」
「ブッサイクきたあああああああああああああああ!!」
 見るも醜態な形相を浮かべたドレッドノート級のブサイクが、俺のことを見下ろしていた。そのブサイクさといったら、もう表現したくないくらい。特別に50000ブサイクあげちゃう。
「まずは、こやつを倒してもらおうかの」
 って、この状況マジデスカ。


 こうして俺は最高の美少女と出会って数分後に、最高のブサイクと退治する羽目になった。
 ……どうなるんだ、これ。あと壁弁償しろ。

       

表紙

黒兎玖乃 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha