Neetel Inside 文芸新都
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ファンタジー×NTR×格闘/カフェオレ


その日も僕はハローワークに行っていた。タッチペンで一度ディスプレイに触れてみる。見慣れた画面がそこには映っていた。この画面から進み自分の希望を一つひとつ入力していくのだ。

職種、業種、勤務地、賃金、休日、住み込みの有無などなど。

昨日までは職種は事務、勤務地は市内…というような感じで僕は選んでいっていた。仕事をやる気はある。頑張ろうって気持ちだ。さあ、頑張って今日も仕事を探そう。

そして業種をタッチして事務を選ぼうとした時、僕は画面右隅におかしな文字を見つける。


『ファンタジー』



僕が理解できないでいるとディスプレイ上部に『ファンタジー追加しました』との文字が流れる。いつもは『希望のがあったら紹介状を必ず貰いに来い』的な内容が流れるところだ。



僕は怒りに震えた。僕も暇じゃないんだ。こんな役所のおふざけにかまっていられるか。真面目に仕事を探しに来ている失業者に対してこれは無い。あんまりだ。馬鹿にしすぎだ。涙が出てきた。ここまで馬鹿にされるものなのか失業者とは…

僕はとりあえず『ファンタジー』をペンでタッチした。

業種:ファンタジー

次に僕は職種の所をタッチする。普通に事務とかありやがる…ファンタジーの事務で検索するとどれくらい求人がひっかかるんだろうか。気になりつつもまた画面下の方に追加されている職種を見る。

『剣士』『魔法使い』『神官』『エルフ』『ドワーフ』などなど。




後ろを職員が通っていく。やっぱり僕みたいにマジで入力していってる奴を後ろから見て、みんなで笑ってるんじゃないだろうか。僕はわざとらしくため息をついて椅子を後ろへ下げる。職員は無視して行ってしまった。何だか無性に恥ずかしくなった。

両隣の人の画面が気になり見てみる。右隣にはおばさん、左隣にはおっさん。まず右のおっさんの画面を覗いてみた。

無い…

業種を選ぼうとしていたおっさんの画面にファンタジーが無い!右を見るとおばさんも興奮しているような様子は無い。これは…僕は周りを見渡す、誰も、誰一人として僕のような興奮を持っているような人がいない。

まさかこの機械だけがそういう事が入力できるドッキリ企画なのか。いや、それは考えにくい。昔は結構メディアとかも路上でお金払ってパンツをコピー機で映すとかいうのを地上波で流していたが今やったらそれは速攻で潰される。それくらいに今は視聴者への配慮が大きい。

だからこれは…つまり…

僕は『魔法使い』を選んだ。

勤務地を選ぶ、ここまで来ると僕はどういう結果が待っているのか知りたくなっていた。

『ビウス公国』

『ドードス帝国』
 
まったく知らない国が2箇所か、何か帝国っておっかねえから公国にしとくか。

給料は円ではなく見たことも無い文字で表されていた。とりあえずそこは入力せずに戻る。


『検索開始』


3秒ほど置いて一覧が出てくる。
1件…

仕事の内容は空欄、ふざけた求人だ。何させるのかくらい書いてくれ。とりあえず、求人票印刷してまた戻って剣士とかで検索かけてみるかな。


そして求人票の印刷をタッチする。その瞬間…僕は気を失った。



「ジャン!おーい」


誰かに呼ばれている、ジャンって誰だ。


「起きろっ!!寝ぼすけジャン!!!」


「いってえええええ」


目の前には可愛らしい女の子が立っていた。そして知らないおばさんが寄ってくる。

「ジャン、あなた今日はルカと一緒にお城に行く日でしょう。さっさと支度なさい。」

「おい!ちょっと待ってくれ。俺は」

「待たない」

ルカと呼ばれた服を捕まれて引きずられていく。何だこの女、ハンパじゃなく腕力に長けている。駄目だ、逆らっちゃ駄目だ。何か流れ的にものすごく心地いいし。俺がジャンか。ルカは俺の嫁らしい。聞くと年齢は13~15のようだがこの世界じゃもう大人って事か。

僕は魔法使い的なローブを着てお城へ向かった。歩きにくいなあ。剣士にしとけば良かったぜ。知りもしない父親の形見の杖を持たされて歩いていく。

「おらー!」

僕とルカは適当に道中の雑魚を倒しながらお城へ向かった。それにしてもニコニコして寄ってくるスライムを焼き殺すのは正直いい気分じゃないな。

戦いを見ているとルカが剣士らしい。流れ的には城で何か言われて旅に出るんだろうな。ファンタジーじゃなくてラブコメとかあればなあ。

「何?」

顔を見ているのに気づかれてルカが話しかける。

「いや何でもない」

ローブを深めにかぶりなおす。恥ずかしがりやだから助かるぜ。時々足ひっかかるから街についたらちょっと補正たのもかな。


そしてビウス公国城下町にたどり着いた。街は活気に溢れている。真っ白な石畳、オレンジの屋根。大きな噴水。蛇使いの催し物。それに壷が沢山店の周りにおいてある。とりあえず壷を漁るか宿に泊まろうとルカに提案したらあっさり断られた。門の前に立つ兵士に城から呼び出された旨をルカが伝えるとどでかい扉が左右に開く。西洋っぽい城に入るのはこれが初めてだ。

王の前に跪く僕とルカ。

「よくきたな、ルカ、ジャン。」


イケメン王か、貫禄の欠片もないな。しかし隣のルカを見ると頬を染めていた。おい。

「突然だが我々、ビウス公国はドードス帝国との戦争状態に入っている。奴等は魔の力を借りてその力は日々増大して言っている。世界の平和のためにそれを何とかして食い止めなくてはならない。二人に力を貸して欲しい。」

ああ、分かってる。僕とルカが旅をしながら強くなって最終的に向こうの大将を操ってる黒幕的な何かを倒せばいいんだな。それで戦い助け合う中でルカと俺の間の愛情を深めていくって事か。

「ジャン、私とルカが旅に出ている間、ここを頼むぞ」

「分かりました…えっ?」

「ジャン、王様役ちゃんとやりなさいよね。寝坊とかしないでよ」

え?何だこれ、王様自ら旅に出るのか。そんな馬鹿な。ふざけるな。

「王よ、待ってください。僕がルカと行くべきです。王が倒れたら民が動揺します。」

「大丈夫だ、大丈夫ジャン大丈夫。私が倒れても友である君になら王を任せられる。大丈夫。魔法で私に変化してここを守って欲しい。大丈夫だ。」

何回大丈夫って言ってんだよ。余計に不安になる。やっぱハロワの求人にはロクなのが無いな。残業ですか?残業はありませんってそれが怖いんだよ。

だが僕はしぶしぶ承諾した。相手は王様だから逆らったら何されるか分からないしな。隣のルカは無駄にはしゃいでいる。頭が痛くなってきた。

そして王とルカは旅に出た。その活躍ぶりはここにも届き、それを僕は王の姿で喜んでいた。スヲーズ海峡の怪物を倒した時には仲間がもう6人になっていたと聞く。これは酷い。完全に蚊帳の外だ。城下町ではやつ等の話題で持ちきりである。

そして遂に彼らはドードス帝国の皇帝を操っていた黒幕を倒した。世界に平和が訪れたのだ。私の元に返った時、王は左足を失っていた。ルカは傷だらけではあったが元気な様子でだった。出て行くときには見なかった顔が4人、一人は獣人、一人はエルフか、こっちはドワーフ…そして魔法使い…

魔法使い…俺が行っても良かったんじゃないかこれ。無性に怒りが湧いてきたので満身創痍の王に喧嘩をふっかけて僕はあっさり負けた。片足を失ったとはいっても5年も戦ってきた男に5年間食って寝るだけの男が勝てるはずが無かった。

王は倒れた僕に近づき言った。

「ジャン、君がルカを好きなのは知っていた。すまない。」

好きっていうか夫婦だったんだから好きなのを知っていたとか言うレベルじゃないだろう。

王も戻り、ルカとの縁も切れ、僕は公国内で居場所を失った。いや、最初から居場所なんて無かったのだ。結局、王が行くと言った時に食い下がれなかった自分が悪いのだ。自分の場所は自分で守る。与えられた場所で漫然と5年も過ごしてしまった。働かずに飯は思いのほかうまかった。

僕は城下町を出て、一人泣いていた。森に出るのも久しぶりだ。
ふとスライムが僕に寄ってくる。

もう倒すのも億劫だ。スライムに殺されるのも悪くない。時間はかかるだろうけど頑張れスライム。僕は近くの石に腰掛けて攻撃を待った。しかしスライムは攻撃してこない。ただ僕の回りを跳ねるだけだった。


ぴょんぴょんぴょんぴょん



家に帰ろう。スライムは僕の後を付いてきてしばらく、家の近くでどこかへ行ってしまった。


家に帰ると母らしき人が出てきた。王の姿をしていた5年間、会えないので手紙を送り続けてくれた人だ。親という実感が無いので一度も返したことは無かったが。

母らしき人は僕を抱きしめて「お疲れ様」といった。王と喧嘩して追放された事を伝えると「あんたがぼさっとしてるからいかんのよ」と笑っていた。

なるほど、僕の事を良く知っている。息子が妻を寝取られたのにこの態度はどうかと思ったが母が作った暖かいシチューはうまかった。それを食べてその日は眠った。

そうだな…ぼさっと惰性で生きてたら駄目だな。明日からまた頑張ろう。何だっていい。頑張るんだ。何か魔法を覚えよう。すごいのを覚えよう。寝取り返すようなのを覚えよう。







目を覚ますとそこは知らない場所だった。

!?

驚いて起き上がり左右を見るとビウス公国の岩を利用した造りとは違い、きっちりとしたつくりの部屋、コンクリートって奴だ。そこの机もベッドも木じゃない。金属製の…


え?うそ…だろ?


「あ、起きました?」

特に可愛くも無いナースが視界に入ってくる。

「○○さん、ハローワークで倒れて救急車で運ばれたんですよ、PCの不具合とかで今日は日本全国で似たような事が起こってたみたいでニュースでもやってますよ」

夢…あれが?

「…僕はどれくらい眠っていましたか」

「半日くらいですかね」



「そうですか…」



5年間だと思っていたら半日。検査をしても体は何の異常もなく、僕は家に帰った。テレビをつけるとニュースで今日の事件として取り上げられている。本当に日本全国で起こっていたらしい。PCだけじゃなくアニメを見ていて気を失った人、ゲームをしていて気を失った人もいたと報道されていた。



夢のはずなのに5年間の厚みのある記憶が頭から消えないな。



ハロワって怖いとこだな。もう二度と行かない。
僕は酎ハイを呑みながらそう思っていた。



終わり

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ファンタジー×NTR×格闘で書かせていただきました!難しいですけど楽しかったです!
元ネタはポケ○ンの痙攣事件です!あとハロワの知識については多少自信があるので書いてみました!

       

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Neetsha