Neetel Inside 文芸新都
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吸血鬼+花びら+ロボット三原則/墓碑/藤原諸現象


白い花 名前は知らない花 白い花
でもよく見ると ほんのり黄色い花

どこに咲いていた花だっただろうか
私が摘み取ってきた花のはずなのに
どこに咲いていたかも思い出せない

とにかく私は 十株の花を 傾いだ大地からもぎ取った
夢中になって かき集めて 私の胸に抱えて走っていた

彼女に 届けなければ

彼女が 欲したその花



彼女は私の主だった だから 彼女には逆らえない
私は彼女の従者だった なぜなら 私は 私の体は

私には血が無い 私には肉が無い 私には魂が無い
なぜなら 私は 私の体は ただの機械だったから

ただの機械でしかない私を 彼女は慈しんでくれた
まるで本物の妹のように まるで本物の娘のように
私と彼女は信頼しあった 私と彼女は繋がっていた

どんなに必死に走っても 苦しみは感じなかった
そもそも私は 何も感じないよう設計されている

なのに 不思議だった

哀しいと 感じたのだ



辿り着いた

雑草の上に 彼女は横たわっていた

はあはあ 弱々しい息音が聞こえた

傷だらけの彼女は 朝の光を浴び 苦しそうにしていた
吸血鬼は 太陽の日差しの下では生きてゆけないらしい
彼女は 夜の暗闇の生まれた 彼女は 夜の化身だった



私は彼女の名前を叫んだ

彼女は何も応えなかった



あれは昨夜のことだった

血塗れの彼女を 私は介抱しようとした
従者として当然のことをしたまでだった
けれども彼女はその私の手を振り払った

彼女はつぶやいた「私はもう助からない」

私は彼女の絶望を否定した 私は彼女を励ました

だが彼女はまたつぶやいた

「消えて無くなる前にもう一度 あの花を見たい」
「ア ノ ハ ナ ?」
「夜露を浴びて静かに咲く 白くてきれいな花だ」



夜露を浴びて静かに咲く白くてきれいな花
そんな情報だけでは 種別も特定できない

けれども私は 走った 走った 走った 走った
彼女のおぼろげな眼が「走れ」と命じていたから

どこまで走ったのかは憶えていない

だが 確かに私は見つけたのだった

夜露を浴びて静かに咲く白くてきれいな花
彼女が形容したそのままの姿形の花だった



生きているのか死んでいるのかも分からない
そんな彼女の体に 私は花びらを降り撒いた
彼女が欲していたに違いない姿形のその花を

彼女の頬に 花の一片が触れた

ほんの一瞬 彼女は 微笑んだ

微笑んだようなそんな気がした



さようなら さようなら さようなら

私が心でそんなふうにつぶやいてたら
柔らかだった朝の光は急に鋭くなった

彼女の肉体が灰色を帯びてきた
そしてやがて完全な灰になった



灰は 風に 撒き散らされてゆく

私は 反射的に 居たたまれず彼女に覆い被さった
彼女の肉体がこれ以上 風に撒き散らされないよう

けれども 彼女は私の体の隙間をすり抜けていった

そのうち私の体の下には 何も無くなってしまった
おそらく灰の一粒程はあったのかもしれないけれど
彼女が生きていた証は もう そこには無くなった



さようなら さようなら さようなら

私が心でそんなふうにつぶやいてたら
私の体はいつの間にか動かなくなった



さようなら さようなら さようなら

私の金属の体はきっと
彼女の為の墓碑として
永遠にここに在るのだ

花が舞った 花が散った ああ美しい

ありがとう ありがとう ありがとう

私の主だった彼女 私の家族だった君



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<引いたお題>

吸血鬼/花びら/ロボット三原則

       

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