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新都社作家の小説の書き方アンソロ自慰
橘圭郎編

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 小説の書き方とは言いますものの、基本的な文章作法(例えば三点リーダーは偶数個使うことが原則だよとか、なんの前置きも無く作中の時系列を飛び越えると読者が混乱するよとか)に関しては、向上心のある書き手がそれぞれに書籍なりネットなりを用いて調べたほうが速いでしょう。
 あくまでアンソロ自慰だということなので、ここでは個人的にいつも気にかけていることを取り留めなく書き連ねてみようかと思います。需要があるか否かは別にして。ちなみに番号順も大した意味はありません。
 また私が新都社で連載完結させた二作品
『フロッピー・パーソナリティー』
『良い子と悪い大人のための平成夜伽話』
 を例に挙げていろいろ書きますので、それぞれのコメント返信内容と重なる部分があるかとも思いますが、その点はご了承くださいませ。


①読者って誰? この物語の対象は?
 漫画にしろ小説にしろ大抵の出版物には、予め売り込む対象が決まっています。おおざっぱに言っても男性向け、女性向け。子供向け、大人向け。ビジネスに役立つ物からオタク趣味まで何でもござれ。
 しかし私はアマチュアであり、そういうことを相談指示してくれる編集もいません。なのでとにかく自分が好きな物を執筆するにあたり、上に挙げたような対象読者層というべきものは考える必要が無いのです。
 強いて述べるならば、私は普通の読者以外にも、同じ小説書きを意識して物語構成を考えております。

 私は小説を書き始めてから、世に出ている面白い小説を読むと、楽しさと同時に悔しさを覚えるようになりました。「こんな設定を持ち出してくるとは、その発想は無かった」とか「ここでこの展開に持ち込むなんて、してやられた」とか「まさかこれが伏線になっていたとは、見事だ」とか「こんなキャラを出されたら、萌えざるを得んじゃないか!」とか、まあそんな感じですね。
 ならば自分で書く場合は、とかく他の書き手を悔しがらせる発想、展開、伏線仕込み、キャラ造形……等々を盛り込みたいと常に考えています。少なくとも私は、それくらいの意気でなければ良い物を書けないのです。


②好きな作品のパクり方
 身も蓋も無いこと(そしてこれを読んでいる多くの人がきっと既に悟っているであろうこと)を言ってしまうと、完全なオリジナルなんて書けません。無から有を生み出す才能なんて持っていないのです。誰だって、何かしらの影響を受けて創作をしているのでしょう。
 ただし物事には限度があります。盗むにしたって程度と言いますか、要領があります。パロディとして意図した場合を除き、読んだ人から「これって○○のパクりじゃね?」などと言われては失敗です。こちらから明かした後で「あー言われてみれば確かに似てるかも」となるくらいが理想です。実際に読者が気付いているかどうかまで私は知り得ませんので、ここはあまり自信たっぷりには言えないところではありますが。

 さてこう記したからには、もちろん私の二作品にも大きく影響を与えた作品、参考にした作品があります。タネ明かしを致しますと、同人界隈で話題になった『ひぐらしのなく頃に』がその一つです。
 ただここで、ひぐらしを参考にするからと言って、例えば古い因習の残る山村で同級生の女の子が鉈を振り回したり、例えば辛い生い立ちの女が祖父の研究を認めさせるためにその山村を滅ぼそうとしたり、そんな安易な物を書いてはいけません。書きません。
 盗むべきはパッと見ですぐ分かる素材ではなく、その調理法です。

 私はフロッピーを書くにあたって、男女入れ替わらないという設定素材は早いうちに決めていました。それを如何に面白く物語として完成させるかの調理法について、自分が面白いと思った既存作品の演出や構成を研究したのです。その部分を具体的に挙げていこうとすると非常に長くなりますし、ひぐらし自体についての言及も必要になるため、多くは語りません。
 抽象的にいくつか挙げるならば、

・序盤で使われた何気ない台詞や背景が、後半では全く別の意味を伴って繰り返される。
・一人称視点だからこそ書き得る描写や叙述トリックを仕込み、そこにストーリー上の大きな意味を含ませる。
・ヒロインが清廉潔白とは限らない。
・皆が力を合わせて、奇跡的に事件を解決。その原動力なり鍵なりはもちろん主人公。

 といった具合です。
 同じように夜伽話の第二部でも

・一話目でホラーやミステリーっぽく書き、後々の話でその裏面を描写する。一話目の印象が理不尽で不可思議で恐ろしいほど、タネ明しをされたときの哀しさが際立つ。
・登場人物の協力やバトンタッチを繋いで、絶望的な運命を打破する。
・やや強引な奇跡を起こしてでも、最終的には全てが丸く収まる。

 などが挙げられるでしょうか。
 ここでこれを読んでおられるあなたが「へへ、どうせそんなこったろうと、俺はフロッピーや夜伽話を読みながらちゃんと分かっていたぜ橘ぁ!」と仰るのであれば、私の負け。「ああー、箇条書きにしてみればなんとなくそんな感じはするなあ。いや気付かなかった」と仰るのであれば、私の勝ちです。
 もちろん、ひぐらしだけで全要素を説明出来るものでもありませんが。


③会話文の特徴付け
 人間同士がドラマを繰り広げるわけですから、会話文が上手に書けないと、どうしたって創作の幅が狭くなってしまいます。その際にやってしまいがちなのが、地の文を挟まない会話の応酬。一対一ならばともかく、その場に何人もいると、ときには誰の台詞だか分からなくなって読者を混乱させてしまいます。漫画やゲームと違って、吹き出しも立ち絵も無いのですから一層の注意が必要なのです。
 ちなみに、一対一ならば全く混乱しないかと言えば、そうとも限らないのが難しいところ。私は夏目漱石の『二百十日』を読んだとき、見開きで何ページにも渡って男二人のしょうもない会話が連なっているのを見て首を傾げたことがあります。どっちがどっちの台詞だか、指差し確認しなければなりませんでした。
 それはそれとして、やはり地の文での動作を交えて、どれが誰の発言だかを明示もしくは匂わせるバランスは必要でしょう。

 さてここからが本題、私が気を配っている点です。
 地の文を使って配慮をしつつも、やはり「」の中だけで主格の判断が出来るように書ければきっと書き手も読み手も気持ちがよいもの。
 そこで私は多くの場合、一人称と二人称の書き分けを心がけています。フロッピーの主要登場人物五人を挙げるとこんな対応表が出来上がります。縦が主、横が客。交わっている部分は一人称です。

      高瀬直太  小向保世  茅美月   七後由花   小向利一
高瀬直太   俺     小向    茅     七後   利一/小向の兄貴
小向保世  高瀬くん  わたし  美月ちゃん  由花ちゃん  お兄ちゃん
茅美月   直太くん   ホヨ   あたし    由花   ホヨのお兄ちゃん
七後由花   高瀬    保世   美月     私     お兄さん
小向利一  高瀬君    保世    ?    由花さん    僕

 美月と利一は直接話す描写が無いので、?の部分は作中に出てきません。
 キャラ同士の会話が多くなりそうな話は、こうしてなるべく重ならないように組んでいきます。もちろんこれとは違うパターンも可能です。例えば皆は山田太郎のことを山田くんと呼ぶが、彼女だけは彼を太郎さんと呼ぶ、みたいなのも断然アリです。要はメリハリですね。
 他にも七後は体言止めを多用する、保世は吃音交じり、美月は小さい母音が入る、などの特徴付けをしていきます。これは各キャラの持ち味にもなりますので、予め考えておいたほうが書きやすいです。
 ここではフロッピーを例に挙げましたが、夜伽話では自分の趣味全開で方言っぽい喋り方をさせたのは、読んでくださった方はもうお察しのことと存じます。


④細かいけれど、地の文のこだわり
 これはもはや文章の書き方というよりも、単なる私の書き癖のようなものです。
 私の文章はナレーションとしての性格を強く持っているため、なるべく声に出しても不自然さが無いように努めています。
 しかし一人称視点であろうが、軽快さが売りのラノベであろうが、語り口調で綴られたものであろうが、詰まるところ小説は目で読むものです。
 だから私は、目で見ても違和感が無く、しかも口ずさんでみても心地よい文章を目指しているのです。このバランス感覚は今でも勉強中です。
 例えば

・最近物忘れが酷くなった。

 という一文があるとします。声に出す分には何の問題もなさそうです。ですが私の場合、あまりこういった表現はしません。それというのも文字に起こしたとき、「最近物忘」という具合に意味も無く漢字が連なってしまうのが嫌なのです。
 ですから私は

・最近、物忘れが酷くなった。
・最近は物忘れが酷くなった。
・物忘れが最近ひどくなった。

 このように書くことが多いです。
 他にも

・コンビニに行った
・コンビニへ行った

 この二つは大して違いも無いので、これだけならばどちらもあり得ます。ところが

・彼と一緒にコンビニに行った。
・彼と一緒にコンビニへ行った。

 この二つだとしたら、私はほぼ確実に後者の表現を採ります。理由は、前者には「に」が多いような印象を受けるからです。
 周りからすれば、どうでもいいじゃんと思えるような部分を、細かく削ったり直したりを繰り返して書いています。



 そうこう書いているうちに、本当に取り留めも着地点も見失ってきたので、この辺りでお開きにしたいと思います。偉そうなことを長々と書いたところで、所詮は一アマチュア作家の脳内垂れ流しですからね。何の威光も無いのです。
 ですがもしこの駄文が、あなたの創作意欲を刺激出来たとすれば、それに勝る成果はございません。ではでは、お粗末様でした。

       

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