Neetel Inside ニートノベル
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アイノコトダマ
番外編 悲観者トマス 3

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 レーヴェリアと墓地で会うと約束してから3カ月、二人は互いの悩み、悲しみ、苦しみを分かち合うようにして惹かれていった。
 互いの心の距離が急速に狭まり、トマスは彼女のことをレ―ヴェと呼ぶようになって、変に度盛ることも次第に無くなっていく。もはや二人の密会は逢瀬と呼ぶ方がふさわしいだろう。
 不安を掻き消すために合っていた二人はいつしかその逢瀬が心の支えとなり、待ち望むようになっていた。
 そんなある日、仕事がひと段落ついたトマスにキースが話しかけてきた。
「トマス、バルザック騎士長が呼んでましたよ。随分神妙な顔してましたけど…、何かやったんですか?」
 そんなことを急に言われても身に覚えのないトマスは、首をかしげながら騎士長の部屋に向かう。
 その道すがら、トマスは自分が何をしたのか悩みながら歩く。
 ハッキリ言って全く心当たりが無い。
 確かにトマスは普通より少々鈍くさく、長所はでかい体と腕力だけだ。しかし、そこらへんのボンクラ貴族の士官騎士よりはましだ。ここ最近では、新しく編成された小隊の訓練を任されはしたものの、概ね上手くいっている。
 結局呼ばれた理由に全く見当がつかないまま騎士長の部屋に到着したトマスは、恐る恐るドアをノックした。
「失礼、します」
 へこへこと頭を下げながら入室したトマスに、騎士長ガレント・バルザックは鋭い眼光を向ける。
「…来たか。近くに寄れ、トマス」
 促されるままにトマスは騎士長の仕事机の前に立ち、騎士長の顔を覗き込んだ。騎士長はあからさまに不機嫌そうな顔で、机を指でトントンと叩いている。
「なあ、お前最近墓地によく行っているそうだな?」
「は、はい」
「二度と行くな。話はそれだけだ」
「…は?」
 意味が分からずトマスは聞き返す。
「聞こえんかったか?二度と行くな、と言ったんだ」
 聞えている、聞えてはいるのだが、トマスには全くその理由が理解できない。
「な、なぜですか?」
 騎士長は頭を抱えて大きくため息をつくと、やや疲れた様な眼でトマスを見る。
「…お前墓地で会っている女性が誰だか知っているのか?」
「レ―ヴェリアさんのことですか?」
 それを聞いて騎士長の顔が一層険しくなった。
「そうだ!レ―ヴェリア・リアライト!この国の宰相ラーガ・リアライトの3女だ!!」
 トマスは目を見開いて硬直する。
 宰相の娘。それは貴族の中でもトップクラスの人種だ。
「わかったか?気軽に話しかけていい相手じゃない。ましてお前のような”平民混じり”が――!!」
 そこから先、トマスは何を言われたか覚えていない。随分心ないことを言われていたようだが、トマスの耳には入ってこなかった。

 ”平民混じり”それは貴族と平民の混血が貴族としての社会的地位を持つ者に使われる言葉だ。これは平民貴族どちらからも使われるもので、大半は妬み、蔑みなどの感情を持つ者が使う。
 社会的には貴族と言われているが、雇用、出世などに大きく影響し、待遇も平民の騎士と比べても毛が生えた程度だろう。
 そんな人間が大公かつ宰相である人物の娘と釣り合うはずもない。そもそも、普通は会うことさえできないだろう。
 偶然トマスが見つけた自分と同じ苦しみを持つ人は、そんな自分とは違う世界の人間だったのだ。

 結局トマスは次の約束の日に墓地には行かなかった。
 自分の抱いた恋心が、とてつもなくおこがましいものに思えて仕方が無いトマスは、ただ彼女の顔を思い出しながら自分の愚かさを後悔するばかりだ。

 しかし、次のゲイルの月命日になって何も言わずに約束を破り続けたことを後悔しだしたトマスは、最後にお別れの挨拶だけでもしようと考え、墓地に向かうことにした。
 寄宿舎から30メートルほど歩いただろうか。不意に3人の騎士に呼び止められるトマス。
「…トマス・フィールトンだな?」
「は、はい」
 騎士の一人がトマスの正面に立ち、残りの二人が逃がさないと言わんばかりにトマスの周りに仁王立ちした。トマスの正面の騎士が、懐から変わった紋章の付いた蝋で封のされた封筒をトマスに差し出す。
「これを開けるといい。君が墓地に行くような素振りを見せたら渡すように言われていた」
 言われるままに封を開けるトマス。恐る恐る中を見てみると、その封筒の中には令状が入っていた。

 ――トマス・フィールトン。貴君にレクテナシティ騎士隊所属、治安維持部隊への転属を命ず――

 書いてある文章に驚きを隠せないトマス。
 転属?何故?
 トマスは何かの間違いでは無いかと令状の残りの文章に目を通す。

 ――尚、この令状は令状が入っていた封筒を開封した時点で有効とする――

「君が上からの命令に素直に従っていればこんなことにはならなかった。これ以上とばっちりを受ける前に素直に従うといい」
 トマスの正面に立っていた騎士はそう言い放つと、トマスを寄宿舎へ引き返すように促す。
 そうなってようやく状況を理解したトマスは、慌てて目の前の騎士に懇願した。
「ま、待って下さい。せめて最後にお別れだけでも――」
「だめだ」
 冷たくそう言い放った騎士の瞳は怖いほど冷静だ。
「大公殿のご令嬢に妙な噂が立っても困る。それに、これ以上ダダをこねるなら君の友人、キースと言ったか。彼にも何らかの命令が下ることになるぞ」
「――っ!」
 トマスが歯を食いしばって押し黙る。
 大公の息のかかった令状に対し、只の田舎貴族の3男で、平民混じりのトマスに拒否権などあるはずもない。
「理解、したようだな。なら早速荷造りを始めろ。今日中に出立してもらう」
 茫然自失のまま歩き始めるトマス。
 しかし、彼の転落人生はまだ始まったばかりだ。

       

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