Neetel Inside ニートノベル
表紙

アイノコトダマ
受け継いだもの

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 3人は宿で一夜過ごした後、この街から半日ほど行ったところにあるリンの家で禍紅石について調べることとなった。結果だけ言えば成果はなかった。あくまでコトダマ使いが残す資料というのは、自分達の所持している禍紅石の特性やその運用法ばかりである。どこで禍紅石を手に入れたかについては何も書かれてはいなかった。しかし3人は禍紅石やコトダマの資料の中に、不自然にドラゴンの生態についての資料を見つけることができた。その資料と禍紅石の関連性を調べるために、ジーノ達は金属加工とドラゴン養殖場で有名なルグレンに行くことになった。
 その道中、リンは街道を歩きながら頭を抱えながら唸っていた。
「手話ってのはホントややこしいわね」
「そんなに急いでも覚えられませんよぅ。焦らずにゆっくり覚えていかないと」
「それでも最低限のコミュニケーションが取れないと、戦ってる最中に通訳してもらう余裕なんてなさそうだしねぇ。まあ、もうちょいがんばってみるわよ」
 そんなリンにジーノが手話で何かを伝えた。
(そんなに焦らなくてもいいぞ)
 手話を見てリンは少し首をかしげて唸ると、ズバリ答えた。
「グズグズしてないでさっさと覚えろ!みたいな?」
「違いますよぅ!ジーノさんは焦るなって言ってるんです!」
 苦笑いを浮かべながら覚えなおすリンだが、ジーノの顔を見て不満を漏らした。
「そりゃあたしが物覚えが悪いのは認めるけどさ。それにしたってわかりにくいわよ。ジーノは表情ほとんど変えないから感情読めないし…」
 リンが話している最中に、いきなりジーノがリンとフィーを抱えて草むらに隠れた。
「ちょっ…どこさわってんのよこのムッツリ野郎!」
 リンに思いっきり頭を殴られつつも、ジーノは山の陰に隠れた馬車を指差した。そこには武装した山賊らしき連中が馬車を取り囲んでいた。少々呆気に取られていたリンを後目に、ジーノは二人にここで隠れていろと指示を出すと、コソコソと移動し始めた。
「あのムッツリ、よくこの距離であの位置に居る山賊どもに気付いたわね」
「なんでもジーノさんは昔、周囲の敵に気が付かなかったせいで痛い目を見たらしいんです。だからそれを教訓にして、ある程度なら周りの気配とかわかるように訓練したらしいですよ」
「訓練ってどうやって?」
「なんでも目隠ししたまま森を歩ける様になるまで、毎日目隠しして散歩してたそうです」
 リンは関心するよりもあきれてしまった。
「常軌を逸してるわね、あのムッツリは…」

 木の陰に隠れながら、ジーノは馬車周辺の様子をうかがっていた。どうやらジーノが移動している間に馬車の護衛がやられてしまったようだ。馬車の持ち主である親子が必死に命乞いをしているようだが、こういった山賊たちは基本的に自分達の顔を見た者を生かしはしないだろう。
 ジーノは体勢を低くして、馬車の持ち主から最も遠い位置に居る山賊に狙いをつけた。大剣の留め金を外し、左手で柄を握ったままクラウチングスタートのような姿勢を取って、目標との距離を測った。
 ――28歩…人数は6人、武器は後ろの二人が槍で残りが剣
 必要な情報を全て頭に入れて、ジーノは低姿勢を保ったまま疾走する。
 ――残り22歩、まだ連中はあの親子の命乞いに注意がいっている
 ジーノは右手で投げナイフを取り出すと、親子に最も近い男の太ももに投げナイフを命中させた。
 ――残り15歩、突然の奇襲に相手は対応しきれていない
 ジーノは右手でも柄を掴むと、さらに加速して相手との間合いを詰めていった。
 ――残り7歩、眼でこちらを確認したようだがもう遅い!
 一本背負いのような形でジーノは大剣を振り下ろした――
 
 男は迫りくる敵の攻撃を防御するために、槍を横に構えて防御した。だが、そこで男が抱いた感情は安堵ではなく絶望だった。槍を横に構えた時には、もうすでに眼の前にバカでかい刃が迫っている。男は叫び声を上げる暇もなく、命尽きるまで眼の前に迫る刃を見つめることしかできなかった。
 大地を抉る衝撃と共に、さっきまで男だった血と肉片が周りに飛び散った。地面には真っ二つになった槍が転がっている。その最も近くに居た男はさっきの拍子に、血が眼に入って混乱していた。
「あ、あ!うわぁあああー!!」
 がむしゃらに槍を振り回す男だったが、すばやく懐に入ったジーノが短剣で心臓を一突きにした。
 残るは4人。うち一人は足に怪我を負っている。横目で確認しながら、ジーノは地面に刺さっている大剣の柄を左手で掴んだ。それを見計らって、剣を持った3人の山賊たちが、横一列になって突っ込んできた。剣の大きさから、持ち上げて振り下ろす攻撃しかできないという山賊たちの判断だろう。横一列ならやられるのは一人、あとは残りで切りかかれば問題はない。しかも今、剣は地面に刺さっている。抜いてから持ち上げるだけでもタイムロスがある。さすがに本業で山賊をやっている連中はとっさの判断が的確である。
 ジーノは左手で剣の柄を握ったまま、ガントレットをつけている右手で大剣の刃の部分を直接掴むと、そのまま一気に地面から引き抜いて持ち上げた。地面から引き抜いた勢いを殺さず、そのまま回転を加えながら、ジーノは右肩から左下へと斜めに大剣を振り下ろした。
 刃を直接つかむことで支点を作り、剣の引き抜きと持ち上げを同時に行うことでジーノは時間の短縮を行った。さらに剣の重量から横、あるいは斜めに振ることができない剣を、刃を直接掴むことでそれを可能にした。横一列になって突っ込んできた3人は、まとめて薙ぎ払われた。ただ、右から斜めに振り下ろしたために、一番端に居る男は足を切り飛ばされただけでまだ生きていた。
「ぎぃいい!く、来るなぁああああ!!」
 激しい痛みに耐えながら、地面を這いつくばって距離を取ろうとする男だったが、無論逃げられるわけもない。ジーノは剣先が地面に刺さったままの大剣を、男の方へ勢いよく倒した。嫌な音と共に、男は潰されたカエルのような姿になった。
 返り血を浴びて近づいて来るジーノに、最後の生き残りである山賊は発狂しそうになりながらも、生き残る為に何とか思考を保っていた。太ももの投げナイフを引き抜いて、そのまま例の親子を人質にしようと襲いかかったが、いつの間にか近くに来ていたリンの投げナイフが額に命中して男は絶命した。
「悪いわね。人質を取るような糞野郎には、容赦しないって決めてんのよ」
 リンはもはや動かなくなった山賊にそう言い放つと、襲われていた親子の方に近寄っていった。
 その時ジーノは只山賊たちの死体を見つめていた。その目には憐れみも憎悪も後悔も宿ってはいなかったが、彼の心にはある男の姿が思い浮かべられていた。
 自分で決めて、自分が行ったことに対して後悔すべきではない。自分が自分であることに誇りを持つのなら、それは必須条件だ。一度迷いや後悔を抱けば、次の選択の時に間違いを犯すことになる。あの人は言った、最後まで自分で選択し続けろ、と。そこに転がっている山賊だった死体たちも、どこかで選択を間違えたか、誰かに選択を委ねたからああなったにすぎない。だから、俺は彼らの死を正面から見つめなくてはならない。俺自身これから先、決して間違えないように…。

       

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