Neetel Inside ニートノベル
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デュエおん!!
第一話「二回戦!!」

「俺のターン!!アイテムカード『むったん』にてあずにゃんの攻撃力UP!!」
 梓攻撃力:1400→1700
「なっ、攻撃力1700だと!?」
「そして、あずにゃん、にて唯を攻撃!!」
 梓攻撃力:1700 唯守備力:600 
 鎌瀬LP(ライフポイント)1000→0
「ぐぁーーっ!!唯ぃーーーー!!」
『TT(ティータイム)終了!!コイジ選手の勝利です!!』
「やったぞ! あずにゃん!」
 
 俺の名は佐藤コイジ。『デュエおん!!』世界一を目指し戦いの日々を送っている。今日は世界大会の日本予選に参加している。もちろん、嫁のあずにゃんと一緒に。
 
――2010年、秋、第二期テレビシリーズを終え『けいおん!!』ブームも終焉を迎えると思われていたこの時期、けいおん!!を題材にしたカードゲーム『デュエおん!!』が発売された。当初、萌え豚から金を搾取するためだけに発売されたこのゲームだったが、自分の嫁と一緒に戦えるシステムがけいおん厨の心を掴み、瞬く間に萌え豚の間に浸透していった。ブームは日本だけにとどまらず、世界中のオタク共の心を掴み、程なく『第一回デュエおん!!世界大会』の開催が決定した――

「今回もよくやってくれたね、あずにゃん」
 一回戦に勝った俺は中野梓を中心としたデッキ構成である、いわゆる『あずにゃんデッキ』こそ最強と確信していた
「俺のあずにゃんこそが最強だと世界中に知らしめてやる!!」

『ただいまより第二回戦8試合目、「蒸れ岡 サトシ」選手と「佐藤 コイジ」選手のTT(ティータイム)を開始します。選手のお二人は第4ルームへおこし下さい。繰り返します……』
 館内放送が流れた時、俺は休憩ルームに整然と並べられているパイプイスに腰掛けギターの練習をしていた。(脳内で)
休憩室はTT(ティータイム)を待つ選手達、通称『デュおリスト』達が所狭しと詰め込められており、彼らの約八割は取得しているであろう特殊スキル『周りの気温、湿度を上昇させる能力』にてエアコンは無効化され、休憩室に掛けられている湿度計は92%を示していた。そんな環境の中においても、世界一を目指すデュおリスト達はまるで動揺する事も無く、それぞれの嫁と、思い思いの時間を過ごしていた。
 あずにゃんにせがまれ渋々始めたギターだったが、あずにゃん先生による、献身的な指導により驚異的な早さでギターテクニックを身につけていた俺は、一通りのコードは弾けるくらいには成長していた。(妄想)
「やれやれ。もうTT(ティータイム)の時間か……ゆっくりベースの練習も出来ないね、あずにゃん。早く終わらせて、ふわふわ時間の練習しようね」
 言いながら席を立ち歩き出した俺の表情は、嫁を前に鼻の下を伸ばしきったソレで無く、戦場へ向かう勝負師のソレへと変貌していた。
『佐藤 コイジ様ですね?』
「ああ」
『対戦相手の蒸れ岡様は既に準備が完了しています。佐藤様も準備が完了次第席に着いて下さい』
「ああ、俺も準備は出来ている。始めようか」
 係員に促され席に着いた俺は休憩の間に構築したデッキをテーブルの上に静かに置いた。
『それでは、お互いにカードを確認してください』
 今大会には何個かのローカル、ルールが設定されている。その一つがTT(ティータイム)前に実施する『お互いのカード確認』である。
 30枚で構成するお互いのデッキの中身を事前に確認する事が出来る。ただしお互いのカードを確認し終わった後に5枚だけ好きなカードを変更する事ができる。交換したカードは相手には分からない。このカード確認によって的確に相手の戦略を予想し、5枚のカード変更によって相手の意表を付く……勝負は既に始まっている……
「よろしく」
「カカカ……よろしくざんす」
自分のデッキを差し出し、相手のカードを受け取る。ルールとはいえ、俺のあずにゃんが自分以外の手に触れるのは気分の良いものではない。サッサとカード確認を終わらせるため、すぐさま確認作業に入った。
「カカカ……コイジ君といったざんすか?」
 カード交換を早く終わらせようとテンポ良くカードに目を通している俺を邪魔するように、蒸れ岡が薄ら笑いを浮かべながら話掛けてきた。
「残念ながらわしと対戦する事が決まった時点でコイジ君の敗北は決定ざんす。ハッキリ言うざんす。わしの『澪デッキ』は世界最強ざんす!!」
「なっ、『嫁宣言』だと!!」
思いもしていなかった『嫁宣言』により俺の手はカード確認を中断してしまう。
 『嫁宣言』とは文字通り自分の嫁を宣言する事である。TT(ティータイム)が始まる前に『嫁宣言』をする事は相手に自分の戦略を教えてしまう行為と等しく、後のカード変更で嫁に対抗するカードを入れられてしまう危険もある。メリットが無いばかりか、デメリットしかない行為であり、通常はぎりぎりまで嫁を悟らせ無いのがセオリーとされている。あるとすれば、嫁に対する愛の深さを相手に見せ付ける事だけである。
(なにを考えている?ブラフの可能性もあるにはある、が、確かに俺が確認したカードは澪に対する強化系のカードを中心に構成されている……)
「キキキ……澪はわしの嫁ざんす!! 誰にも負けないざんすよ!!」
(なるほど、絶対に負け無いと言う自信、澪に対する信頼ゆえか……正直あのただパイオツがデカイだけのあざとい女を好きになる気持ちは全く分からない、が、コイツの愛の深さは本物か……
「いいだろう……ならば俺もここに宣言する!!俺は『あずにゃんデッキ』でお前を倒す!!俺のあずにゃんはあんなババアに負けはしない」
「ククク……コイジ君も『嫁宣言』ざんすか!! わしの嫁があんなウザブリッ小娘に負けるわけ無いざんす!!」
『相手カードの確認が終わりましたらお互いのデッキを戻し、カード交換を行って下さい』
 バイトであろう係員は、まるで汚物でもみるかのような冷たい視線を俺達に向け、マニュアル通りの言葉で割り込んできた。蒸れ岡の湿った手から返って来たあずにゃんに「おかえり」と小さく声をかけ、5枚のカード交換後静かにTT開始の合図をまった
『それでは、TT(ティータイム)スタートです!!』
 こうして、俺とあずにゃんによる本日ニ回目の戦いが始まった……

       

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