Neetel Inside ニートノベル
表紙

わが地獄(仮)
雲の剣

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 最近、夜、眠るとふわりと幽体離脱をする。離脱した俺は騎士になっている。雲の剣を引っさげて夜の町へ繰り出して俺と同じように離脱した連中と戦うのだ。
 だが、俺の心は晴れない。
 いや、むしろ晴れるわけがない、と思う。
「裏切ったのか、○○!」
 馬鹿が気取ったことを言う。裏切る? こんな夢の中の出来事に何をマジになってんだよ。おまえ本当にそのなんとかの英雄団とかいうギルドのマスターじゃなきゃ人生やっていけないわけ? 目が覚めればさめちまうんだぞこんなの。べんきょーしろべんきょー。べんきょーして、他人をいじめてコミュ力つけろよ。コミュ力の正体教えてやろうか? 嘘を上手につくことと、人の良し悪しを常識で判断するセンスのことだよ。あるいは最初から人に好かれる才能。くっだらねえ。平和も幸せも所詮、誰かの絞り汁をすすってるだけのものなんだよ。
 俺は敵を切り飛ばした。べつに死にはしない。相手が不愉快になるだけだ。しかし幽体離脱した状態で死ぬといつか離脱できなくなるという話がある。まゆつば。どうでもよくねえ?
 俺はこの夜の世界に出て最初に思ったのがくだらねえ、だ。こんなまがいもので満足してる馬鹿どもの顔を見てると吐き気がしてくる。こんな世界に逃げ込んで一丁前みたいな顔をしているのが土台胸糞悪いのだ。俺たちは何も変わっていない。何も変わっていないんだ! 朝起きればそこには現実が確かにあって、そこは昨日倒れたやつがたどり着けなかった今日なんだよ。もっとも逃げ得した馬鹿もいるだろうけどな? そういうのは何もかも度外視さ、そうとも、正しさなんてあるものか! 右があれば左がある、ただそれだけのことじゃねえか! 何も正しくなんてねえんだ! 何もわかりはしねえんだ!
 俺がいくら言っても馬鹿どもは聞く耳を持たない。マニュアル化された社会はマニュアル外の俺の言葉を受け付けない。馬鹿どもが! 馬鹿どもが! 俺は戦い続ける。
 ああ反吐が出る、反吐が出る。こんなおためごかしの世界で満足しているやつらも、そこでしか暇を潰せないこの俺も。どうせやるなら本物がいい。ほらゲームとかラノベでもよくあるだろう、死んだらほんとに死ぬやつだ。そういうのがいい。そういうのなら本気になれる。いや、それともびびって逃げるだろうか? それでもいい! 俺は逃げるにしても本気で逃げたい。このままで終わるのだけは絶対にいやだ。
「き、貴様、白の王! なぜ裏切った」
 うるせえんだよ。俺が裏切ることなんか目を見ればわかっただろうが。それから逃げてなんとかなるだろって玉座の上であぐらをかいてたのがてめえだろ? どうでもいいけどよ、本当に、どうでもいい。
「みんな楽しんでるんだよ、それをどうして楽しめないの?」
 誰に口を利いてる? クエスチョンマークして神妙な面してりゃ俺がなびくと思ったら大間違いだこの気取り屋が。ぶった斬ってやるからそこに直れ。
「みんないなくなってしまった! みんないなくなってしまった! おまえのせいだ! おまえの!」
 そうだ! おれのせいだ。だからなんだっていうんだ? わかってるならかかってこい! おれを倒して終わらせてみろよ。おれは最初からそうしろと言っていた。言っていたんだ!
 おれの足元に灰色の騎士王が倒れ伏す。あっけない。こんなあっけなさのためにおれはここまでやってきたのか? 百時間かけてくっだらねえエンディングしか見せさらばえねえアールピージィをやった気分。
 目が覚める。朝日が目を焼く。現実が始まる。流していくだけの人生が。失うだけの人生が。




       

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